第3話 必要な要素
洞窟で薬草を探しているうちに、ふと気づいた。
この小さい身体、案外便利なんじゃねぇかって。
狭い隙間の先に薬草が茂っていることもあるんだ。人間だった頃なら絶対入れなかっただろう。
そういう場所には決まって、小さな実までついている。赤くて丸い、甘い匂いを放つやつだ。
「ふふ、これは掘り出し物だな」
かつてなら細やかな楽しみでしかなかった果実も、今の俺にはご馳走の山だ。胃袋が小さいおかげで、少量でも大満足。
「どうだ、あんたも食べるか?」
薬草を擦り潰しながら、赤髪の少女に声をかける。
「……」
「いらねぇなら、俺が全部食っちまうけど」
「……変なものじゃないでしょうね」
「変なものに見えるか?」
まさか、この実を食べたことがないのか? それなら警戒するのも無理はねぇな。
「これはケイブベリーって言ってな、人間が食っても無害だ。それに甘い。マジでうまいぞ」
名前はスペクテイターで知った。便利すぎるぜ、この力。
「甘い……」
お、反応したな。視線を逸らしたが、興味は隠せてない。
俺は擦る手を止めて、いくつかの実を少女の足元へ放った。
「ちょっと! 汚れるでしょ!」
「軽く払えばいいだろ。もっと欲しけりゃ自分で取りに来い」
少女は慌てて拾い上げ、ふーっと息を吹きかける。そして恐る恐る口に含んだ。
「ぅ……」
「な? うまいだろ」
「……そうね」
表情を取り繕ってるが、頬がわずかに緩んでる。勝ったな。
「さて、薬も出来たし。足、見せろ」
「それくらい自分でっ……あ、ぅぅ……!」
「無理だろ。骨折じゃないよな?」
もし骨が折れてるなら、この程度の薬じゃどうにもならん。回復魔術の書かれた魔導書でも拾わなきゃ無理だ。
「どっちにせよ応急処置は必要だ。このままじゃ死ぬぞ。それは嫌だろ?」
「……わかった。でも変なことしたら潰すからね」
「安心しろ。そんな勇気ねぇよ。潰されたくないしな」
真っ赤に腫れたくるぶしに薬を塗ると、少女は歯を食いしばり涙をにじませた。
その姿を見ると胸が締め付けられる。だが手を止めるわけにはいかない。
「我慢しろよ……」
薬を葉で覆い、ツタで固定する。
「よし、終わり。あんまり動くなよ?」
「……うん。分かった」
涙目でケイブベリーを頬張る姿に、意外な図太さを感じるぜ。
こういう根性がなきゃこの世界は生き延びられねぇよな。
と、治療が済んだところで、俺は切り出した。
「なぁ、名前はあるのか?」
「……ある、けど」
「あるってことは、誰かと一緒に暮らしたことがあるんだな」
独りで生きてる人間は珍しくないが、誰かと関わったなら名前を持つのが普通だ。
「いつまで、どんな奴と一緒だった?」
「……言いたくない」
「そうか。でも忘れるなよ? ケイブベリー、あんた二十五粒も食ったぞ?」
「っ!? そ、それは」
「甘いなぁ。警戒してるようで爪が甘い。長いこと大人と一緒に暮らしてただろ」
「……っ」
図星らしい。瞳が揺れた。
「安心しろ、深掘りはしねぇよ。ただ会話するにも名前くらいは欲しいんだ」
「……イザベラ。あなたはルース、だったよね?」
「覚えててくれて嬉しいぜ。よろしくな、イザベラ」
名前を呼ぶと、彼女の表情がわずかに和らいだ。だが次の言葉は鋭い。
「あなたは何? 魔物? 人間じゃないよね」
「魔物じゃねぇし、人間でもねぇ……俺は――」
言葉に詰まるぜ。元人間なんて言えねぇ。口止めされてるからな。
妖精ってのも胡散臭い。
ならば――。
「俺はお前のナビゲーターだ」
「ナビゲーター? 何それ」
「お前を導く味方ってことだ」
「どうして?」
「神様のお告げだ。イザベラがソヴリンを滅ぼす、その手助けをしろってな」
「は?」
だろうな。俺だって信じねぇ。
「騙そうとしてる?」
「もしそうなら、もっとマシな嘘をつくぜ。残念ながら本当なんだよ」
「信じられない」
「まぁまぁ。……ほら、ケイブベリー余ってるぞ」
「食べるわけないでしょ」
「だよな」
完全に信用はゼロだ。胃が重くなる空気に耐えきれず、俺はこの場を立ち去ることにした。
「無理もない。今は俺を信じられないよな。でも、もう一度よく考えてくれ。その間に食料でも集めてくるからさ」
そう言い残して歩き出す。
本当は――彼女に嫌われるのが怖かったのかもしれないな。
もう一度、あの扉に会えれば……神様に相談できるだろうか?
そう淡い希望を抱いたが、洞窟の奥に扉は現れなかった。
「……仕方ねぇ。なら探索だ」
食料を探し、同時にスペクテイターで情報を集める。
イザベラの信頼を勝ち取る手掛かりが、どこかにあると信じて。
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