表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドンゾコナビ ~滅びの世界で少女導く~  作者: 内村一樹
1章:焼き殺す者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/103

第3話 必要な要素

 洞窟で薬草を探しているうちに、ふと気づいた。

 この小さい身体、案外便利なんじゃねぇかって。


 狭い隙間の先に薬草が茂っていることもあるんだ。人間だった頃なら絶対入れなかっただろう。

 そういう場所には決まって、小さな実までついている。赤くて丸い、甘い匂いを放つやつだ。


「ふふ、これは掘り出し物だな」


 かつてなら細やかな楽しみでしかなかった果実も、今の俺にはご馳走の山だ。胃袋が小さいおかげで、少量でも大満足。


「どうだ、あんたも食べるか?」


 薬草を擦り潰しながら、赤髪の少女に声をかける。


「……」

「いらねぇなら、俺が全部食っちまうけど」

「……変なものじゃないでしょうね」

「変なものに見えるか?」


 まさか、この実を食べたことがないのか? それなら警戒するのも無理はねぇな。


「これはケイブベリーって言ってな、人間が食っても無害だ。それに甘い。マジでうまいぞ」


 名前はスペクテイターで知った。便利すぎるぜ、この力。


「甘い……」


 お、反応したな。視線を逸らしたが、興味は隠せてない。

 俺は擦る手を止めて、いくつかの実を少女の足元へ放った。


「ちょっと! 汚れるでしょ!」

「軽く払えばいいだろ。もっと欲しけりゃ自分で取りに来い」


 少女は慌てて拾い上げ、ふーっと息を吹きかける。そして恐る恐る口に含んだ。


「ぅ……」

「な? うまいだろ」

「……そうね」


 表情を取り繕ってるが、頬がわずかに緩んでる。勝ったな。


「さて、薬も出来たし。足、見せろ」

「それくらい自分でっ……あ、ぅぅ……!」

「無理だろ。骨折じゃないよな?」


 もし骨が折れてるなら、この程度の薬じゃどうにもならん。回復魔術の書かれた魔導書でも拾わなきゃ無理だ。


「どっちにせよ応急処置は必要だ。このままじゃ死ぬぞ。それは嫌だろ?」

「……わかった。でも変なことしたら潰すからね」

「安心しろ。そんな勇気ねぇよ。潰されたくないしな」


 真っ赤に腫れたくるぶしに薬を塗ると、少女は歯を食いしばり涙をにじませた。

 その姿を見ると胸が締め付けられる。だが手を止めるわけにはいかない。


「我慢しろよ……」


 薬を葉で覆い、ツタで固定する。


「よし、終わり。あんまり動くなよ?」

「……うん。分かった」


 涙目でケイブベリーを頬張る姿に、意外な図太さを感じるぜ。

 こういう根性がなきゃこの世界は生き延びられねぇよな。


 と、治療が済んだところで、俺は切り出した。


「なぁ、名前はあるのか?」

「……ある、けど」

「あるってことは、誰かと一緒に暮らしたことがあるんだな」


 独りで生きてる人間は珍しくないが、誰かと関わったなら名前を持つのが普通だ。


「いつまで、どんな奴と一緒だった?」

「……言いたくない」

「そうか。でも忘れるなよ? ケイブベリー、あんた二十五粒も食ったぞ?」

「っ!? そ、それは」

「甘いなぁ。警戒してるようで爪が甘い。長いこと大人と一緒に暮らしてただろ」

「……っ」


 図星らしい。瞳が揺れた。


「安心しろ、深掘りはしねぇよ。ただ会話するにも名前くらいは欲しいんだ」

「……イザベラ。あなたはルース、だったよね?」

「覚えててくれて嬉しいぜ。よろしくな、イザベラ」


 名前を呼ぶと、彼女の表情がわずかに和らいだ。だが次の言葉は鋭い。


「あなたは何? 魔物? 人間じゃないよね」

「魔物じゃねぇし、人間でもねぇ……俺は――」


 言葉に詰まるぜ。元人間なんて言えねぇ。口止めされてるからな。

 妖精ってのも胡散臭い。

 ならば――。


「俺はお前のナビゲーターだ」

「ナビゲーター? 何それ」

「お前を導く味方ってことだ」

「どうして?」

「神様のお告げだ。イザベラがソヴリンを滅ぼす、その手助けをしろってな」

「は?」


 だろうな。俺だって信じねぇ。


「騙そうとしてる?」

「もしそうなら、もっとマシな嘘をつくぜ。残念ながら本当なんだよ」

「信じられない」

「まぁまぁ。……ほら、ケイブベリー余ってるぞ」

「食べるわけないでしょ」

「だよな」


 完全に信用はゼロだ。胃が重くなる空気に耐えきれず、俺はこの場を立ち去ることにした。


「無理もない。今は俺を信じられないよな。でも、もう一度よく考えてくれ。その間に食料でも集めてくるからさ」


 そう言い残して歩き出す。

 本当は――彼女に嫌われるのが怖かったのかもしれないな。


 もう一度、あの扉に会えれば……神様に相談できるだろうか?

 そう淡い希望を抱いたが、洞窟の奥に扉は現れなかった。


「……仕方ねぇ。なら探索だ」


 食料を探し、同時にスペクテイターで情報を集める。

 イザベラの信頼を勝ち取る手掛かりが、どこかにあると信じて。

面白いと思ったらいいねとブックマークをお願いします。

更新の励みになります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ