第26話 崩れる塔の中
塔の頂上に出た俺とダグは、息を殺して歩を進めた。
予定どおり、巣に戻ったスザクは俺たちに背を向けている。
――見慣れぬ氷柱が立ってりゃ、そりゃ気にもなるよな。
仕掛けておいた大氷柱は、もう半分ほどに小さくなっていた。
その足元には大きな水の染みが残っている。
『いいぞ、作戦どおりだ。ダグ、音を立てるなよ』
「ん……」
頷いたダグが、ゆっくりと定められた位置へ進む。
俺は視界を共有しながら、スザクを観察する。
『焼き殺す者:スザク。その身に宿る業火にて南の大地を焼き滅ぼした者』
大げさな解説だと思いたいが、あの巨体を前にすれば誰もが納得するだろう。
火炎の塔すら翼で叩き折りそうな怪鳥を、小鳥と呼ぶのは無理がある。
やがてダグが仕掛けの糸を握りしめた。
『よし。やるぞダグ』
「ん……」
ダグが小さく頷いたのを合図に、俺は脳裏で唱えたんだ!
『堅氷壁!!』
「堅氷壁!」
スザクの足元に氷壁が突き立ち、その足を一瞬だけ挟み込む。
時間稼ぎにすぎないが、十分だ。
そんなことは理解してるダグが、間髪入れずに握りしめていた糸を思い切り引っ張った。
彼が引っ張った糸は俺たちの頭上にまで伸びていて、あらかじめ仕掛けていた罠につながってる。
そんな糸を引っ張るとどうなるのか。
簡単な話さ。
湯の入った鍋や水筒、それから大量の剣や槍がスザクに向かって落ちてくるんだ!
『次に向かうぞ!!』
「分かった!!」
『走りながら、これも投げとけ!!』
「うん!」
走るダグが拾いやすい場所を狙って、氷柱突を落とす。
それを投げれば、スザクの注目を俺たちに向けることができるからな!
そうでなくても、すでに見つかってるけどっ!
『ダグ! 攻撃が来るぞ!! 羽に気を付けるんだ!!』
「羽だね!」
怒りに翼を広げたスザク。
イザベラの言葉どおり、炎弾と鋭い羽を風に乗せて放ってくる。
絶炎の首飾りでは防げず、かすれば切り裂かれる刃――。
俺とダグは全身で風を感じ取り、必死に羽を避け続けた。
って言っても、ほとんどダグの身体能力に頼ってるけどな。
ところどころ、左腕や背中を羽がかすってるけど、これくらいで済んでるのは奇跡だろ。
そうしてダグがよけ続けてくれている間にも、俺は頭の中で彼に指示を出し続ける。
『よし!! うまい具合に避けたな! あともう少しだぜ! だあぁ!! ちょっと左に寄りすぎだ! もう少し右!』
「集中させてよっ!!」
『すまんすまん、ちょっと熱くなりすぎたぜ。でももう少しで……おっ!! 良いぞ! すぐそこだダグ!! もう発動していいぞ!!』
俺がそう叫ぶと同時に、ダグが近くの壁に飛び込んで仕掛けていた糸を掴んだ。
スザクは部屋の中央で俺たちに注目している。
位置関係もバッチリだぜ。
そうして、2つ目の罠が発動する!
『くらえ!! 照明魔術!!』
「照明魔術!!」
立て続けに放たれた眩い光と同時に、スザクの短い悲鳴が響く。
それもそのはずだぜ!
俺たちが放った光は、壁に貼り付けられてた大量の鏡で反射しただろうからな!
アラクネの巣を漁って見つけた破片には、感謝してもし足りないぜ。
ダメージはないだろうけど、少し怯んでくれるだけで十分なのさ。
一瞬、風が止んだその隙を盗んで、ダグが一直線にスザクの元へと駆けだす。
「ルース!!」
『おうよ!! 氷柱突!!』
生み出された氷柱を走りながら拾ったダグは、勢いのままにスザクへととびかかった。
狙いはスザクの足。
一番初めに発動してた堅氷壁はすでに壊れてるけど。
それでいいんだ。
大きく振りかぶったダグが崩れた氷塊とスザクの足に向けて氷柱を突き立てようとするその瞬間。
俺は渾身の一発をお見舞いしたんだぜ!!
『ケトルッ!!』
砕けた氷が熱湯で溶け、周囲に蒸気が舞う。
その蒸気を切り裂くようにダグの氷柱が振り下ろされ、一切の容赦なくスザクの足が貫かれた。
その瞬間、俺たちは魔術を発動する!!
『堅氷壁!!』
「堅氷壁!!」
再び、二本の氷柱が生み出される。
だが今回は初めのそれとは違うんだぜ。
砕けた氷塊、俺がさっきかけた熱湯、周囲に漂う蒸気、第一の罠でぶっかけられた大量の湯。
そして、スザクの足を貫いてる氷柱と、俺たちが五日かけて塔に吸わせた大量の水。
これだけありゃ、とんでもない氷魔術を発動できると思わねぇか?
少なくとも、スザクを火炎の塔に縫い付けれるだけの氷くらい、作れないと困るぜ!!
ピシッという乾いた音とともに、ダグの持ってた氷柱を起点として氷壁が発生する。
氷は塔に深々と根を張りながらも、スザクの足を呑み込みながら膨張し始めた。
『逃げるぞ!! ダグ!!』
「飛ぶ!!」
「ギイイイイイイイィィィィィィィィィッッ!!」
絶叫するスザクを背に、俺たちは塔の縁へ。
熱線を溜め込むスザクを見て、ダグがパラシュートを広げる。
『飛べ!!』
「行くよ!!」
勢い任せに身を投げ出し、パラシュートを開いて姿勢を安定させた。
って言っても、うつ伏せで背中を一本釣りされてるような姿勢だけどな。
その状態になってすぐに、俺は照明魔術を発動した。
当然、イザベラへの合図のためさ。
直後、スザクの熱線が空を裂く。
だがそれ以上に、耳を裂く轟音が塔を包んだ。
亀裂走る火炎の塔が大地ごと世界を揺らし、崩れ落ちていく。
風に流されながら、俺たちはその瓦礫へと墜ちていくスザクの姿を見届けた――。
面白いと思ったらいいねとブックマークをお願いします。
更新の励みになります!!




