第25話 憧れてた世界
俺が立てた作戦は単純だ。――火炎の塔を崩壊させ、その崩壊にスザクを巻き込む。
そのために準備すべきことは大きく2つある。
1つ目は、塔全体に水を浸透させること。
そうすれば氷震激の衝撃が塔全体に響き渡り、魔導の杖で威力を増幅すれば――崩壊は必至。
岩の塔が水を吸うなんて不思議だが、実験済みだ。凝灰岩の欠片に水を含ませ、実際に氷震激を叩き込むと、見事に砕け散った。
これで「崩す方法」は確保できたってことだぜ。
2つ目は、崩壊する塔からの脱出手段だ。
イザベラが塔の麓から魔術を撃ち込み、俺とダグが中でスザクを引きつける。その間に仕掛けを発動させねばならない。
当然、逃げ遅れれば俺たちごと瓦礫に呑まれる。
「じゃあ死ぬしかないんですかー、なんて冗談にもならねぇよな」
俺が苦笑すると、イザベラがにやりと笑って答えた。
「心配しなくていいわ。いい案があるから」
その名も――パラシュート降下大作戦。
聞けば父バルドが考えていたらしいが、布を織る技術がなくて断念したらしい。だが俺たちにはダグがいる。アラクネの糸で巨大な布を織ることも不可能じゃない。
こうして準備すべきことは決まった。口で言えば簡単だが、実際には怒涛の作業が続いた。
作戦会議を終えた日から5日間、ダグと欠乏と結合で体を共有し、塔の隅々に氷を張り巡らせる。
休憩中は巨大なパラシュート用の布を織ったり、アラクネの糸を回収して回ったり、イザベラと塔を破壊する合図の打ち合わせを繰り返す。
5日間、息つく暇もなかった。
特にイザベラは、ずっと真剣な顔を崩さなかった。――父の仇を討つために。
そして作戦前夜。
俺たちはダグが編んだフカフカのマットに腰を下ろし、久々のまともな夕食にありついていた。
「ついに明日かぁ……」
「なんだイザベラ、もしかして怖気づいたんじゃねぇよな?」
「そんなわけないでしょ!」
「オイラ、頑張るよ!」
「そうだな、俺も頑張るぜダグ。ここまで頑張ったのに、失敗して死にましたなんてなったら嫌だからな!」
「不吉なこと言わないで欲しいんだけど? ……この数日間の準備は絶対に無駄じゃないから。きっとうまくいくはずよ!」
「そうだな! 良い意気じゃねぇかイザベラ!」
「こんなおいしい干し肉を食べてるのに、気落ちなんかしたくないからね」
豪快に干し肉を咬みちぎってるイザベラを囃し立てようとした俺は、ふと視界の端で大人しくしてるダグに気が付いた。
「……ダグ? どうかしたのか?」
「……ううん。なんでもないよ」
絶対なんでもなくねぇ。イザベラも同じことを感じたらしく、俺たちは視線で合図し合った。
「ダグ、言いたいことがあるなら言っとけよ?」
「え?」
「そうよ。もしかしたら、これが最後の会話になるかもしれないんだから」
「おぉい、自分も不吉なこと言ってんじゃねぇか!」
「これは覚悟を示すためなんだから、良いのよ」
「屁理屈だろ」
「で? ルースは放っといて良いから、聞かせてよダグ」
放っとくなよ!
まぁ、良いけどさっ!
ダグの話を聞きたいってところには賛同だし。
そうして視線を集めたダグが、ゆっくりと告げた。
「オイラ、二人と一緒なら死んでもいいかな」
「不吉すぎること言ってんじゃないわよ!」
「同感だけど!! それはさすがに理不尽だぜイザベラ!! 同感だけど!!」
ったく、もしかしてダグは覚悟ができてねぇのか?
その割に、怖がってるって感じでもねぇんだよな。
この際だ、詳しく聞いてみるのも悪くないかもしれねぇ。
「なぁダグ。どうしてそう思ったんだ?」
「え?」
「俺たちと一緒なら死んでもいいって」
「だってオイラ、ずっと一人だったから。一緒に戦って、負けて、死ねるなら。それでいいって思った」
「なるほどなぁ」
「なにが「なるほどなぁ」よ。いい? ダグ。私はそんなの認めないからね」
イザベラは水を一気に飲み干し、ケイブベリーを頬張った。
「私はたとえ、私だけが生き残ったとしても、絶対に生き延びてソヴリンを殺しつくすから!」
「イザベラ……」
「だから! 二人も同じ心づもりでいなさいよね!」
「ったく、どんだけ覚悟を決め込んでるんだよ。さすがにちょっと異常だぜイザベラ」
「それくらいじゃなかったら、覚悟を決めたなんて言えないでしょ」
気迫に押され、ダグが干し肉を一気に食いちぎる。
「分かった。オイラ、絶対に死なない。みんなと一緒にしか、絶対に死なない。だから、オイラが皆を死なせない!」
「その意気よ! 分かってるじゃないダグ!」
そして二人の視線が、俺に集まる。
「ルースは?」
「アンタはもう、覚悟できてるでしょ?」
そんな、当然みたいに言われてもなぁ。
まぁ、覚悟を決めてないかと聞かれれば、決めてるけど。
「そうだな。俺も覚悟できてるぜ」
そこで言葉を切った俺は、最後の干し肉を飲み込み、拳を突き上げた。
「ソヴリンを全部討伐して!! 安全に暮らせる家を建てて!! 温かい飯を食って!! 綺麗な服を着るんだ!! そのために、俺たちは勇者になる!!」
それは、俺が幼い頃からずっと憧れてた世界の話。
前時代に居たといわれてる存在。
勇者とか騎士とか魔法使いとか。
なんだっていい。
何でもいいから、俺は全部を取り返したい。
生まれた時には既に、奪われてた沢山の物を。
世界を滅ぼそうとする魔王を打ち破って、平和を取り返した勇者たちのように。
そのためだったら、自称神様とやらの言いなりにでもなってやるさ。
手段を選んでられるほど、余裕はねぇからな。
「へぇ、それいいじゃん」
「オイラも、良いと思う!」
「だろ?」
そうして俺たちは、各々の願いについて語りながら眠りについたんだ。
久し振りに熱く語れた気がするぜ。
迎えた翌日。
高ぶる気持ちを押さえつつ火炎の塔に向かった俺たちは、遥か遠方から飛んでくる巨大な炎の鳥を視界に収めた。
「いよいよだな」
「そうね」
「ヘマするなよ?」
「そっちこそ」
「ルース。そろそろ行こう」
「あぁ」
イザベラと別れ、俺とダグは頂上へ続く岩道を登る。
背後の退路を氷で塞ぎながら。――退路を断ち切る意味も込めて。
程なくして俺とダグは、頂上手前にたどり着いた。
それとほぼ同時に、隙間の先から巨大な羽ばたく音が聞こえてくる。
「それじゃあ、欠乏と結合を発動するぞ?」
「うん!」
身体を共有した俺たちは、そのまま一歩を踏み出す。
その一歩に、迷いは一切なかったぜ!
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