第24話 降って来た気がする
絶炎の首飾りとスザクの羽を拾った俺たちだが、そのまま帰る……わけがねぇ。
せっかくここまで登ってきたんだ。調べられるだけ調べて帰らなきゃ損ってもんだろ。
本音を言えば今すぐ帰りたいけどな。暑すぎて干からびそうなんだよ。
逆に言えば、二度と来たくない場所だからこそ、一度で全部調べ切る必要があるってことだ。
狭い隙間をいくつも抜け、俺たちは塔の頂上を目指す。
何度か足を滑らせそうになりながらも、ようやくたどり着いた。
「……ここが頂上、ね。さすがに疲れたわ」
「オイラ、もうへとへと~」
「氷柱突! ほらよ、二人は涼みながら休んでろ。俺が周囲を調べてくるぜ」
「ありがとぉ~」
「ルース、助かるわ」
礼を言うべきなのは俺の方だぜ、ダグ。
結局俺は、ダグの肩に乗せてもらってただけだからな。
この環境じゃ動くたびに体力を奪われる。
だからこそ、俺はここでしっかり調査して帳尻を合わせねぇとな。
とりあえず、頂上階の中心に立って周囲を見渡してみよう。
「なんていうか……やっぱりいびつだな」
火炎の塔の上に広がっていたのは、卵の殻みたいな部屋。
壁も天井もあちこち崩れてて、吹きさらしになってやがる。
割れた卵の殻―――そう形容するのが一番しっくりくる光景だった。
まさか、この卵がソヴリン……スザクの生まれた場所だったりしねぇよな?
いやいや、さすがに違うだろ。生まれたばかりであのサイズって、笑えねぇぞ。
念のため見物する瞳で壁を確認する。
「凝灰岩で構成された岩壁……よかった、ただの岩だな」
次に俺が確認したのは、頂上から見える景色だ。
崩れた壁から下を見れば、一面が黒煙と炎。
空を覆う黒い雲は、地表から舞い上がった煤なのかもしれねぇ。
「それにしても高ぇ……落ちたら一巻の終わりだな」
戦うときは、この高さも頭に入れておかねぇと。
「他に気になるものは……あんまりねぇなぁ」
ここはただ、スザクが棲んでる鳥籠みたいなもんらしい。
繁殖してねぇだけでも幸運だな。
……まぁ羽は落ちてるから、帰りにいくつか拾っておくとするか。
イザベラたちのところに戻ると、二人はまだ氷で体を冷やしていた。
ダグなんて、氷から滴る水をじっと眺めてる始末だ。
「体調はどうだ?」
「だいぶマシかな」
「オイラも」
「よし。じゃあ調査報告だ。この頂上の部屋、戦場に向いてると思う」
「そうね。広さならここしかないし、私も賛成」
「……オイラも」
ほんとに聞いてたのか怪しいけど、まぁいい。
「問題はイザベラの奇襲の位置なんだが……いい場所が浮かばねぇ」
「隙間に潜んで待つのはどう?」
「そんな狭い場所で魔術の準備は無理だろ」
「……そうね」
まぁ、そうだよな。
奇襲の要が不安定な岩の隙間とか、冗談でも笑えねぇ。
どうする? ここで詰みか?
やっぱり、ソヴリンを殺すなんてのは夢物語なのか?
何かいい案が浮かんでこないかと、額に手を当てながら考えてみる。
が、そううまい考えなんて、落っこちてこねぇよな。
すると、同じように考え込んでた様子のイザベラが、ダグに視線を向けて口を開いた。
「ちょっとダグ。アンタも考えなさいよ?」
「うん……」
「まぁまぁ、落ち着けよイザベラ。こういうのは根気よく考えるのが大事だろ?」
「そうだけどっ! ダグったら、さっきからボーっとしてるだけで何も考えてないじゃん」
「そんなことないよ! オイラだって考えてるし!」
「じゃあ何を考えてたの?」
イザベラもダグも、暑さでイラついてんのかな?
そんなしょうもないことで喧嘩なんかしないで欲しいぜ。
こうなったら一度、温泉まで帰って作戦を練り直すか?
俺がそんなことを考え始めた時。
不満げな表情のダグが言ったんだ。
「この床、なんかいつもよりシミが消えるのが早いから、どーしてかなって考えてたんだよ!」
「なにそれ、全然関係ないじゃん!」
「でも考えてたもん!」
「はぁ……やっぱりダグはまだまだ子供よね」
「イザベラだって」
「おいおい、喧嘩はやめてくれって。ほら、追加の氷柱をやるから、それで頭を冷やしてくれ」
やっぱり二人とも暑さのせいで冷静さを欠いてるみたいだ。
二人に渡してた氷柱も随分と小さくなってるし。
それにしても、ダグがちょっと気になること言ってたな。
シミが消えるのが早い?
試しに氷柱から水滴を垂らしてみたら、確かに少し早くシミが消えた気がしたぜ。
だから何だって話だけどな。
こりゃホントに手詰まりかもしれねぇなぁ。
そんなことを思い、俺は四肢を放り出すように寝転がった。
視界に映るのは、崩れかけの天井。
思わず、アラクネの巣で氷結塔を試した時に、崩れてきた天井を思い出しちまったぜ。
俺がそんなことを考えた直後、ダグとイザベラがほぼ同時に呟く。
「水はどこに行ったんだろ?」
「あー、もう! ソヴリンを地面に叩き落とせたら、一番簡単なのになぁ」
「……」
お?
おおっ!?
ちょっと待ってくれよ!?
な、なんか、良い考えが降ってきた気がするぜっ!?
咄嗟に飛び起きた俺は、自分の考えが正しいかどうか確かめるために、見物する瞳を発動した。
「? なに? どうかした?」
「ちょっと待っててくれ。いま確認するからよ」
そういった俺は、イザベラとダグが向けてくる好奇の目をいったん無視する。
「これだ、氷震激は地中の氷をひび割れさせることで、地面を激しく揺らす魔術……」
「それがどうしたの?」
「ダグ、足元に落ちたシミは、どんな感じで消えてる?」
「え? んー。ジワーって、消えてってる感じ」
「そうだな、まるで、足元の岩の中に染み込んで行ってるみたいだよな!?」
「ちょっとルース。なにを言いたいわけ?」
「イザベラが言っただろ? 奴を地面に叩き落せればって。もしかしたら、できるかもしれねぇぞ!」
俺の言葉に顔を見合わせたダグとイザベラ。
二人の目が真剣になる。
代わりに俺が興奮しちまってるみたいだ。
「この火炎の塔を、ソヴリンの墓標にしてやろうぜ!」
そう言って、俺は思いついた作戦を二人に伝えた。
気のせいか?
急に全身が熱くなってきた気がするぜ!
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