第20話 良いチーム
『イザベラ、聞こえるか?』
「き、聞こえる。うそでしょ、頭の中で声が響いてるんだけど」
『変な感覚だよなぁ。ま、実験は成功ってことで、次を試してみようぜ』
「うん。ダグ、少し離れててね」
「分かった」
「よし……堅氷壁!」
空気が震え、目の前に透明な氷壁が立ち上がった。
いつもの魔術だが、今回は魔導書なし。発動条件は、俺が与えた力―――欠乏と結合。
ナビゲーターの能力を一時的に付与できる新しい技だ。
『1つ疑問が残るとしたら、ダグに入ったときは欠乏と結合なんて唱えてなかったんだけどな』
「確かに、そもそも名前すら知らなかったよね」
『そうなんだよなぁ』
「違いがあるとすれば、叡智の鍵かな? そういえば、右手を開放した時も、いきなり地図を描きだしてたよね」
『なるほど。つまり、初回の叡智の鍵で開放した時だけは、無意識で発動しちまうってことか』
そんな会話をしているうちに、時間切れが来た。俺はイザベラから分離する。
……想像より短ぇな。アラクネ戦が長引かなくてホント助かったぜ。
「次は魔導の杖を試さなくちゃ」
「杖! はい、イザベラ」
「ありがと、ダグ」
魔導書:凍界がセットされた杖を受け取ったイザベラは、先ほど生み出された氷壁の横に狙いを定める。
そんな彼女の様子をキラキラとした目で見つめてるダグ。
きっと、自分が拾ってきた杖がどれくらい役に立つのか、気になって仕方ないんだろう。
「堅氷壁!」
光が杖先から走り、文字が浮かび上がる。
「氷結塔?」
まるで、見物する瞳を使った時に現れるような文字を、イザベラが読み上げた瞬間。
アラクネの巣の中央に、巨大な氷の塔が出現したんだ!
「うおっ!? 天井まで突き抜けてんぞ、アブねぇ!」
岩がミシリと悲鳴を上げ、瓦礫が落ちそうになる。
一歩間違えば俺たち全員ぺしゃんこだ。
「……想像以上の威力ね」
「だな。洞窟内で撃つのは自殺行為だぜ」
「イザベラ、どう? すごい!?」
「うん、すごすぎるくらい。おまけに……少し寒くなってきたね」
氷の塔が冷気を吐き続けている。まるであのガーディアンと同じだ。
便利だが、扱い所は限られそうだ。
その後の検証で次のことが分かった。
まず、杖を使っても堅氷壁は発動可能だ。
持ち手のツマミを捻るだけで上位魔術と切り替わる仕組みらしい。見物する瞳が無きゃ絶対気づけねぇ。
さらに氷柱突と上位魔術の雨氷矢も試した。
雨氷矢は頭上から氷の矢を降らせる術。風魔術と併用すればさらに強化されるらしい。
残る氷震激は……やめておいた。
さすがに天井崩落はゴメンだからな。
全員一致で却下だ。
俺とイザベラがゴミ山を漁ってる間、ダグは一人でいそいそと蜘蛛の糸を集めてる。
「ダグ、そんなのを集めて、なにかに使えるのか?」
「オイラ、これで布を織るから」
「マジかよ!?」
「それホント!?」
「うん」
伊達に一人で生き抜いてきたわけじゃないみたいだな。
今度、布の織り方を教えてもらおう。
その横でイザベラまで血眼で糸を集め始めてる。……女には女の事情ってやつか。深くは聞かないでおこう。
「ところでダグ、これから定期的に欠乏と結合で体を共有してもいいか?」
「え? オイラと? なんで?」
「アラクネ戦で分かった。前衛は俺とお前、後衛はイザベラ。これが一番効率いい」
「なるほど! 分かった!」
戦略的なことまでは伝わってなさげだけど、まぁ良いか。
俺は差し出されたダグの右手に乗って、欠乏と結合を発動した。
これで、歩くのはダグに任せられるぜ。
なんてな。
実際、歩くのが大変だってのはあるけど。
それ以外にも理由はあるんだぜ。
例えば、いざってときのためにダグの中に入ることに慣れておくとか。
それから……ほら、きた。
離脱と共有を何度か繰り返したのち、俺は狙い通りの効果が得られたことに気づく。
「ルース! なんか、頭が光り出した!」
『分かってるぜ。ちょっと待ってろよ……ミラー』
映し出された俺の額に、新たな文言が浮かぶ。
『使用頻度の上昇により、効果時間を延長。よし。やっぱり思った通りだぜ』
予想通り。使い込むほど効果は伸びる。見物する瞳と同じだ。
繰り返せば、戦闘での共有時間も確実に延びるだろう。
さてさて、着々とソヴリンを倒せる準備が整ってきてる気がする。
この分なら、案外うまくできるかも知れねぇぞ。
褒美なんかあるかは知らねぇが……この高揚感、悪くねぇ。
けど、浮かれて足元をすくわれたら終わりだ。
落ちるときは落ちる。問題は、その先どう着地するかだ。
たとえ落ちた先が―――ドンゾコだとしても。
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