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ドンゾコナビ ~滅びの世界で少女導く~  作者: 内村一樹
5章:這い上がる者

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第111話 『耳』が晒したもの

 我輩は胸を張り、堂々とした足並みで西の塔へ踏み入った。


 仲間たちの前で尻込みするわけにはいかんからな。

 ここまで来たのだ。覚悟ならとっくに決まっている。


 ――そう思った、次の瞬間だった。


『むっ!?』


 足元の感触が消えた。


 石の床を踏んだはずなのに、体の重さがどこかへ抜けていく。

 浮いているような、落ちているような、何とも言えぬ感覚が体を包み込んだのだ。


 我輩は思わず声を漏らす。


『な、なんだこれは……!』


 気が付けば、周囲は白い霧に覆われていた。


 視界がきかぬ。

 だが、我輩には耳がある。


 静かに呼吸を整え、耳を澄ました。


 ……すると。


 霧の向こうから、足音が聞こえた。


 規則正しく、こちらへ向かってくる。


 とりあえず身構えてみるが、その心配はなかったかもしれない。


 やがて、霧の中から一人の影が姿を現したのだ。


 女だった。


 盗賊風の装い。

 身軽そうな服装の上から、顔の下半分を布で覆っている。


 見えているのは鋭い目元だけだ。


 その女は、我輩を見るなり口を開いた。


『お前が継承したその力は、どのような物か考えたことはあるか?』


 唐突な問いかけ。

 その質問に答える前に、我輩は一つ自己紹介をすることにした。

 やはり、礼儀は大事であるからな!


『我輩はアレックスだ。できれば、名前を教えて欲しいのだが』

『……ネアだ』


 躊躇いがあったのか、一瞬目を細めた彼女は短く答えてくれた。


 そのまま、我輩を睨みつけてくる。

 どうやら彼女の視線は我輩の耳に向けられているようだ。


 聞き取る耳(パーシバー)の力。


 先に投げかけられた問いを、少し考える。


 この力で何ができたか。


 思い浮かぶのは、仲間たちとの会話だ。


 鳥のクゥとも。

 植物の身体を持つライラとも。


 種族の違いを越えて言葉を交わせた。


 あれは確かに、この力のおかげだ。


 だから我輩は答えた。


『仲間を繋ぐ力。我輩はそう思っているぞ』


 我輩の言葉を聞くと、ネアは即座に言った。


『違うな』


 あまりにもあっさりした否定だった。

 我輩が理由を問うより先に、彼女は続ける。


『お前はまだ、その力の一面しか知らないようだ』


 その言葉と同時に、周囲の景色が変わった。


 霧が薄れ、別の光景が広がっていく。


 街だった。


 石畳の通り。

 整った建物。

 晴れ渡った青空。


 だが、その景色はどこかおかしい。


 すべての家の窓が閉め切られている。

 通りには誰一人歩いていない。

 静まり返った大通り。


 まるで街から人が消えてしまったかのようだ。


 だが――我輩には聞こえていた。


 建物の奥から、無数の声が。


 囁きのような声。

 同じ言葉を繰り返している。


 何も考えるな。

 余計なことはするな。


 ただ、静かに耐え続けろ。


 多くの人々が、それだけを繰り返し呟き続けていた。


 その時だった。


 不意に、別の声が聞こえたのだ。


『……魔王のせいで』


 小さな呟き。


 だが、その瞬間。


 それまで聞こえていた無数の声が、ぴたりと止んだのだ。


 静寂。

 そしてどこか遠くから聞こえてくる重い音。


 それはおそらく、軍靴の音。

 鎧の擦れる音。


 隊列を組んだ騎士たちが、大通りを進んできているのだ。


 街の家々から、ざわめきが聞こえる。


 誰だ。

 今、魔王と言ったのは。


 そんな囁き。


 騎士たちは迷いなく、一軒の家を取り囲んだ。


 そして――


 扉を破り、中へ突入する。


 しばらくして、男が引きずり出された。


 その男は、静寂を切り裂くように泣き叫ぶ。


『やめろ! やめろって!』


 騎士たちは容赦なく男を引きずる。


 そして男は叫んだ。


『俺は口に出してない! 出してないぞ!』


 必死の声。


『思っただけで連れてくのはおかしいだろ!』


 騎士は止まらない。


『おい! ここいらの奴ら全員聞こえてるんだろ!』


 男の声は震えていた。


『お前らも言ってやれよ!』


 通りの窓は閉ざされたまま。


『俺と同じように思ってるくせによぉ!』


 男は叫びながら、連れ去られていった。


 軍靴の音が遠ざかる。


 それと共に、街の景色も薄れていく。


 やがて視界は再び白い霧に包まれた。


 その中で、ネアが静かに言ったのだ。


『繋がらなければ……背信など生まれないものだろう?』


 その言葉が落ちた瞬間。

 景色が消えた。


 我輩はいつの間にか塔の最上階に立っていた。


 石の床。

 目の前には、塔の光が輝いている。


 視界の端で、東と南の光が消えるのが見えた。

 そして、目の前の光もゆっくりと薄れていく。


 我輩はその光を見上げながら、先ほどの言葉を思い出していた。


 盗賊が言った言葉。


『繋がらなければ……背信など生まれないものだろう?』


 ほんの一瞬、彼女は呼吸を止めた。

 我輩の耳は、それを聞き逃さなかった。


 だから我輩は小さく呟いた。


「繋ぐこともまた一面、だという事は否定しないのだな」


 我輩の呟きは、誰に届くでもなく空へ消えた。

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