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ドンゾコナビ ~滅びの世界で少女導く~  作者: 内村一樹
第4章:切り捨てる者

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第100話 宿る炎

 薄く雲のかかった朝の空。夜明けを越えて、もう日が高くなり始めている。

 私は思ったより長い間、眠ってしまってたみたい。


「……イザベラ!」


 声と同時に、視界が塞がれた。

 ルースだ。顔を覗き込んでくるその表情が、はっきりと安堵に緩んでいる。


「よかった……本当に、よかったぜ」

「意識、戻ったの!? みんな! イザベラが起きたよ!」

「まだ無理に起き上がるな! 何か必要なら、我輩に言ってくれ!」


 ルースにダグ、そしてアレックスが声をかけてくれる。

 皆の声が重なり、ようやく自分が“戻ってきた”のだと実感する。


「……心配、かけたわね」


 そう言いながらも、私の意識は半分ほど、まだ別の場所にあった。

 白い霧。名を持たない盗賊から聞かされた話。


 魔導遺跡は、誰かを導くために作られたもの。


 その言葉が、胸の奥で何度も反芻される。


 北の大陸で、私の中に芽生えた小さな疑念。

 それが今回、はっきりと形を持って立ち上がっていた。


 ……やっぱり、そうよね。


 ルース。

 様々な情報が、彼の存在が異常なのだと示してくる。


 初めて会ったとき、彼は自分を「ナビゲーター」だと言った。

 今思えば、あれは冗談でも、はぐらかしでもなかったのだ。


 世界の情報を見る瞳。

 どんなものでも組み立てる手。

 物体に魔術を宿せる喉。


 耳については、正直まだしっくりきていない。

 けれど、三つも揃えば十分だ。


 ここに来るまで、考えもしなかったけど。

 はっきり言われたら、そうとしか思えなくなってしまう。


 魔導書を“使う”ためじゃない。

 ―――“作る”ための力。


 ソヴリンを倒すために、これ以上の手助けはない。


 だから、利用すればいい。

 そう割り切れば、すべてが簡単になるはずだった。


 なのに……どうしてかな。


 胸の奥に、引っかかるものがある。

 小さな棘みたいに、思考を邪魔する違和感。


 気づけば、私は小さな欠片を握りしめたまま、物思いに耽っていた。


「……大丈夫?」


 ダグが心配そうに声をかけてくる。

 アレックスも、腕を組んでこちらを見ていた。


「その欠片。ずっと離さないが大丈夫なのか?」

「……少し、考えたいの」


 それだけ告げて、手は緩めなかった。

 離したら、ダメな気がしたから。


 その様子を見て、はっきりとした苛立ちを含んだ声が割り込む。


「何か情報を得たのなら、共有してほしいのですけど」


 エオウィンの連れ―――クララだ。

 彼女は暗い栗色の髪を耳にかけながら、問い詰めてくる。


「なにもないのなら、これ以上エオウィン様の手を煩わせないで」


 鋭い視線。

 露骨な敵意。


 理由は分からないけど、エオウィンと合流した後からこんな感じだ。


 相変わらず、感じが悪いわね。

 内心で舌打ちしつつ、私は一度深く息を吐いた。


 ―――反省しなくちゃ。

 確かに、情報を独り占めするのは良くない。


「……分かったわ」


 私は、盗賊さんから聞いた話を、順を追って皆に伝えた。

 魔導遺跡が空に浮かんでいたこと。

 嵐がどうして生まれたのか。

 魔導書が失われてしまったという事実。

 その魔導書が火の魔導書だった可能性。


 だけど一つだけ、伏せたことがある。

 魔導遺跡が作られた“理由”についてだけは、話さなかった。


 この話をするには、余計な人がいない方がいい気がしたから。


 火の魔導書をどうやって作るか。

 皆が頭を寄せ合って考え始める中で、私は強い視線を感じた。


 ライラだ。


 何も言わない。

 でも、じっとこちらを見つめている。


『……なにか、隠していませんか』


 そんな声が、聞こえた気がした。


「……少し、外の空気を吸ってくるわ」


 逃げるように、私はその場を離れた。


 遠くで唸る嵐を、ぼんやりと眺める。

 変わらない風景なのに、胸の中だけが騒がしい。


 そこへ、ふらふらと歩いてくる影があった。


「……あら、シグ」


 彼女は返事をせず、足元の植物や鉱石の塊を拾い集めている。


「ありがとう。色々、手伝ってくれて」

「別に……貸しを返せていないだけだ」


 ぶっきらぼうな答え。

 その言葉を聞いて、私はふと、少し前のルースを思い出した。


 そういえば、“貸し”だなんて彼が言うことは少なくなってきたよね。

 うっとおしいことこの上ないから、良いんだけど。


 なんて思いながら失笑を溢した私は、ふと、胸の中で何かが繋がった感覚に陥った。


 貸しを作る必要がなくなったのは、助け合うことが日常になったからだ。


 出会った頃のルースは、

 貸しを作らなければ、私に何かを頼むことすらできなかった。


 まぁ、出会った頃の私も、応じなかっただろうけど。


 それから考えると、今の私たちはちゃんと『仲間』なんだろう。


 いつから、仲間だったんだろうか。

 思い返した私は、きっとあの時からだと思った。


 私達が、はっきりと願いを共有した―――あの時から。


 安全に暮らせる家と。

 温かいご飯と。

 綺麗な服。


 焚火を囲んで、笑いながら語った未来。


 高らかに宣言する彼を見て、胸が高鳴ったのよね。

 彼らとなら、本当に成し遂げられるかもしれないって。


 なんだ。

 それでいいんじゃん。


 ルースが何者なのかなんて、今更どうだっていいこと。

 もし、彼が私たちに何かを隠してたんだとしても、それは別に、咎めるようなことじゃないはず。


 少なくとも彼は、一緒に旅してきてくれたんだから。

 とんでもない秘密を抱えてたんだとしても、それは一つの貸しとして済ませてしまえばいいのよね。


 なにより、人を騙し通せるような器用な男には見えないし。

 私は、彼に騙されてここまで歩いてきたわけじゃないから。


 自分の足で―――意思で。歩いてきたんだから。

 その道のりを、彼一人の責任として押し付けるワケにはいかないよね。


 胸の内でくすぶってた何かが、スーッとほどけた気がした。

 ジワーッと広がる熱が、胸元から湧き上がってくる。


「……?」


 懐から取り出したそれは、父の形見。

 絶炎の首飾り。


 スザクとの戦いで使ったっきり、身に着けていたもの。


 それが焚火のような、仄かな温もりを放ち始めてる。


 優しく、確かに生きている熱。

 こんなこと、今までなかったのに。


 明らかに様子の変わった絶炎の首飾りを、私はルースの元に持って行った。


 そして判明する。

 ―――名前が、変わったんだ。


 宿炎しゅくえんの首飾り。


 炎を“絶つ”ものじゃない。

 炎を“宿す”もの。


 強い願望が魔術を生む。

 それは本当なんだと、私は自信を持って言えるよ。


 まるで私の想いを証明するように、焚火の火がぱちりと弾けた。

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