第10話 開放された力
「どうして叡智の鍵のことを!?」
「俺の目を欺くことはできないんだぜ? っていうか、寒いな! どこだよここは」
「さぁ。あの部屋から落ちた先だけど……見ての通り道に迷っちゃってるの」
氷の壁で囲まれた迷路の中にいるって感じだ。
どおりで寒いわけよ。
「んで? この壁の模様はなんだ?」
「覚えてないの? それ、アンタが描いたんだけど」
俺が描いた?
このワケのわからない模様を?
言われてみれば描いたような気もしてくるが。
いいや、全然覚えてねぇや。
「ん。ちょっと待てよ? この模様はもしかして、地図なんじゃないか?」
「地図?」
「あぁ。この迷路の地図だ。ここにある三角が現在地で、この二本線が出入口。ここは……穴でも空いてるっぽいな」
「どうしてそんなことが分かるワケ?」
「そりゃお前―――」
生前に地図を作る時に、俺が使ってた記号だからな。
なんて言っちまったら、ダメだよな。
アブねぇ。
でもどうする?
ここからなんて言い訳すればいいか、分かんねぇよ。
なんて考えてた俺を睨みつけるイザベラが、壁に描かれた地図を指さして告げた。
「始めてきた場所なのに、どこに出入口があるとか道順とか、どうやって把握したの? もしかして、やっぱり私を騙そうと」
そっちか!
まぁ確かに、そっちの方が気になるよな普通。
良かったぜ。
それに関しては、ある程度説明ができそうだからな。
「それについて説明するのは良いけどよ、話は進みながらしようぜ。ここで止まってるのは得策じゃねぇ」
「でも」
「道案内なら俺に任せろ。こう見えても俺は、お前のナビゲーターなんだからな」
そういいながら、俺は改めて右腕の文様に目を落とした。
もはや見慣れてきた説明文。
それらの中に、真新しい文言がいくつも追加されてることに、ついさっき気が付いたんだよ。
追加されている文言は、次の2つ。
『見通す瞳』と『見出す瞳』。
どちらも見物する瞳からの派生能力らしい。
見通す瞳は、あらゆる物事を見通す力だ。
この力を使えば、迷路の地図を作ることも簡単な話ってわけだ。
なんなら、地図なんかなくても道案内できるぜ。
もう1つの見出す瞳は、未知なる可能性を見出すことができるらしい。
これの効果についてはまだよくわかっていない。
1つ変化があるといえば、見物する瞳で表示される情報に、新たなものが追加されたことくらいか。
例えば、お湯を出す魔術のケトルについて、氷魔術との組み合わせで新たな魔術の習得が可能。
と追記されてたりな。
湯と氷の魔術を組み合わせるってことはつまり、霧の魔術でも習得できるのかもしれないな。
とまぁ、俺は新しく分かった情報をイザベラに伝えたんだぜ。
ん?
どうして急に赤面して、その場にしゃがみこんだんだ?
「どうした?」
「氷の壁を見通せる? それじゃあ服も……見たでしょ」
「何をだ? それより、ここは本当に寒いなー。はやく抜け出したいぜ」
「話を逸らすなっ!! 絶対見てるじゃん! だから鍵のことも分かったんでしょ」
「……あぁ、見たぞ。眼福だったぜ」
「サイテー」
「仕方ないだろ。おれも突然のことで、驚いてたんだよ。決してやましい目的があったわけじゃねぇ」
ただ、自分に起きた変化を理解するために、情報を集めようとしただけだ。
「そんなことより、今度はイザベラの番だぜ。俺に何があった? 簡単でいいから、話してくれよ」
「……」
納得いかないって感じの表情で俺を睨みつけてくるイザベラ。
これは、また別行動をした方がいいのか?
なんて俺が考えてると、予想に反して彼女は俺に手を伸ばしてきた。
そのまま掴んだ俺を、頭の上に乗っける。
「これからルースは私の頭の上から降りるの禁止ね」
「は? ちょ、あんまり頭を動かすな。落っこちるだろ!」
「落ちたフリして私の裸を見るつもりでしょ」
「んなことしねぇよ!!」
「信じないからっ! 解決策が分かるまでは、絶対に降りないで!!」
「仕方ねぇなぁ。分かったよ」
まさかこんな提案をされるとは思ってなかったけど。
確かに、イザベラの頭の上にいる限り、彼女の身体を見るのは簡単じゃない。
少なくとも、身を乗り出したりしないと見えないはず。
もちろん、そんなことをすれば彼女にもバレるわけだ。
いや、しないけどなっ!
「で。何があったんだよ。あ、そこは右な」
「……叡智の鍵については、その、スペクテイターとかいうので知ってるんでしょ?」
「まぁな、持ち主の望んだ物を開放できるんだろ? 次の分岐は左だぞ」
「うん。で、アンタの右腕にある文様に、鍵穴っぽいものがあったから、当ててみたの」
「鍵穴? ……あぁ、確かにあるな」
「そうしたら、叡智の鍵を挿し込めて、そこまでできるってことは回せるかなって思ったから回してみたら―――」
「ちょっと待て、挿しこんだ? 回した? 何を言ってる? この文様に鍵を挿したのか? 穴なんて無いぞ?」
「とにかくやってみたの。そしたら文様が光り出して、起き上がったアンタがケトルで地図を描き始めたわけ」
「めちゃくちゃだな、おい」
普通に聞いてれば理解なんてできない話だ。
でも、俺はすでに意味の分からない状況をいくつも目にしてきた。
だからこそ、分かることもある。
「つまりあれか、この文様に秘められてた力が叡智の鍵の力で開放された。ってところか」
「そうかもね。でも、そもそもその文様は何なの? それに、アンタがあの地図を描き始めたことは説明できてない気がするけど」
「まぁ、それに関しては後でじっくり考えようぜ。それよりも今は、ここから脱出することが大事だろ?」
「そう言うことにしてあげる。それから、私は高いものを支払ったワケだから、ちゃんと活躍してくれないとダメだからね」
「何の話だ? ……って、あぁ、そういうことか」
そんなに裸を見られたのが嫌だったんだな。
まぁ、そりゃそうか。
この分だと、当面はこうして脅されるのか。
早く対策を考えないとだな。
でなきゃ俺は、ずっとイザベラの頭の上で暮らすことになっちまうぜ。
それはそれで、歩く必要がないから楽ちんで良んだけどな。
「で? この先には何があるの?」
「あぁ、とりあえずこの氷の迷宮からは出れると思うぞ」
「ホント? いい加減寒すぎて死にそうだから、ホントならありがたいな」
嘘なんかついちゃいない。
でもなぁ。
この先には奴がいるんだよなぁ。
例のガーディアン。
しかも、2体とか3体どころじゃなく、大量に。
それを伝えると、イザベラは顔を強張らせながら身構えた。
どちらにしても、出口に向かうためには進むしかない。
それくらいのことは、彼女も理解してるみたいでよかったぜ。
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