第15話 木曜日が休みの名医
「あの~ゴホッゴホッ、体調が悪くて今日1日休みます」
社長の甥っ子が会社を休む時は、必ずこの言葉から始まる。
『どうしたの、風邪?』
「ゴホッゴホッ、はいギックリ腰です」
もう触れはしないが、このやり取りで毎月1回は必ず休みとなり、それは必ず金曜日。有給があるのだから、休むことには問題ない。
ただ問題なのは、それが必ず金曜日だということ。もしかすると、木曜日の仕事に何か問題があるのかもしれない。そうであるならば、これを放置しては大きな問題に繋がる。
だから今日は、ここで電話は終わらせない。
『もう一年、必ず金曜日に咳をしながらギックリ腰になる。何か仕事に原因でもあるの?』
「違います、ギックリ腰を一瞬で治してくれる医者が居るんですけど、たまたま木曜日に休みが多くて、ゴホッゴホッ」
『それなら今日は、医者に行った後で会社に出てこれる? 一瞬で治るんだろ』
「片道6時間かかるんで、今日は無理です」
『あのさ、それなら平日の仕事終わりに通院なんて不可能。そんな医者は本当に居るの? どんな医者なのか教えてくれる?』
「看板も出してないし……電話もない医者なので……行ってみないとボクにも分かりません、ゴホッゴホッ」
これ以降、ギックリ腰を一瞬で治してくれる名医は、木曜日に休んでいない。




