駄菓子の誘惑 【月夜譚No.277】
こんなに長いレシートは見たことがない。自身の脚の長さほどもあるレシートを片手に、彼は息を吐いた。しかし、隣の席に置いた大きなビニール袋の塊を見ると、なんだか少し嬉しくなる。
とはいえ、流石に買い過ぎた。そこは反省しなくてはなるまい。
気晴らしのドライブでやってきた大型ショッピングモール。そこをぶらぶらしていたら、駄菓子屋を見つけた。懐かしいパッケージに惹かれて入店し、あれこれと目移りした挙句、レジに行く頃には商品を籠一杯に詰め込んでいた。
中身は童心に返ったのに、財布は大人のままだから質が悪い。子どもの頃は限られた小遣いの中でやりくりするのに苦労したな、などと思い出して苦笑いを浮かべる。
懐は寒くなったが、心は温かい。もう暫く、気持ちは子どものままでいようか。
彼は口元に笑みを浮かべて、当たりつきのラーメンスナック菓子の蓋に爪を立てた。