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純白の英雄

 

 奴隷部隊のリーダーがクオンに決まって、数ヶ月が経った。


 そして帝国との戦争が始まった。


 私たち王国側は開戦当時はとてつもなく不利だった。私たちの奴隷部隊以外は……


 そして今、クオンはその不利な状況を打開するための作戦会議に出席している。この戦争で一気に出世して奴隷から臨時とはいえ少尉になった。やはりクオンは凄い人間だ。


「ルーイ! やっぱり兄貴は凄いよな、俺もあんくらい強くなりたいぜ」


 私に話しかけて来ている男はヴォルフ、私と同じで奴隷部隊の副リーダーだ。


「クオンが凄いのは当たり前です!」


 ヴォルフは、奴隷部隊のリーダーでもあるクオンに憧れている。そして私と同じでクオンに認めてもらいたいと思っている。


「たださ、いつまでも兄貴に頼りっきりってわけにもいかないよな……俺も兄貴の役に立ちたいんだよ」


 ヴォルフの言う通りだ。私たちはクオンに訓練をしてもらって多少は強くなっているが、まだまだクオンの足を引っ張っているだろう。


「おい、ルーイ! ヴォルフ! 今から俺は少し単独作戦があるから、俺が戻ってくるまで部隊の奴らはお前たちに任せるぞ」


 作戦会議から帰ってきたクオンが私たちに声をかけて、戦闘に行ってしまった。


 戦場では大雨が降っていた……まるで不吉なことが起こるかのように



――――



 その後、単独作戦に行ってしまったクオンは帰ってこなかった。


「おい、ルーイ! 兄貴はどうなったんだよ?」


 そんなことはわたしにも分からない。ただ単独の作戦が終わり次第、部隊に合流すると言っていた筈だ。何かあったのは確かだろう。

 

「わかりません、捕虜になっているか、もしくは……」


 もしくは敵に殺されてしまっているかだろう……そんなの絶対に考えたくない……そして、今は考えている暇はない。

 私はクオンのことを思考するのを一旦やめた。


「……ただクオンのためにもここで勝たなければいけません!」


 私たちが率いる部隊たちは帝国兵と戦っていた。


 みんな、いつもより動きが悪い。天気が悪くて雨が降っているのもあるが、何よりクオンが不在なことにより不安だったのだ。


 それでも、クオンが鍛え上げた部隊のみんなは強く、帝国兵相手でも余裕があった。一人また一人と帝国兵を倒していく。


「このままならいける! みんな気合入れていこう!」


 みんなはクオン不在の中でも帝国兵を蹴散らしていった。尊敬するクオンのためにも。



――――



 そのまま私たちの部隊は敵を蹴散らしていき、帝国の兵をほとんど壊滅させた。


 しかし、そこに魔法を使い、風を纏った一人の男が空から飛んできた。


 見た目的に帝国兵の隊長だろう。


「俺はセト、特別級魔法師だ」


 目の前の男は貴族でもなるのが難しいとされる特別級魔法師。その強さはきっと私の想像以上だろう。そして、帝国の隊長ならばクオンの居場所を知っている筈だ。


「私たちの隊長を知りませんか? 白髪の20代ほどの男です」


 私の言葉を聞いてセトは少し考えて答えた。


「そうだな……あいつは俺が殺した」

 

 セトの言葉に部隊のみんなが殺気立つ。


 私は悲しみよりも先に怒りの感情が湧いてきた。私の大事な人を殺したという、目の前の男に対してだ。


「絶対に許さない……ヴォルフと部隊のみんなは前線に出てこいつを抑えてください。私は魔法で援護します」


 セトの周りをみんなで囲いだす。


「あ、そうそうクオンだっけ? 君たちの隊長は弱かったな。しかも最後には命乞いをして死んでいったぜ! お前たちも命乞いをして死んでいくのか?」


「ぶっ殺す」


 セトの言葉にヴォルフが激高し、気迫の一撃を放つ。それが戦闘開始の合図となった。



――――



 その後、セトと戦ったが私たちは、やはり無力だった。


 手足を失って重症の人や死んだ人もいる。私の率いる部隊はほぼ壊滅していた。


 みんなセトの魔法の前では無力だったのだ。


 たった1人に負けた。


「ヴォルフ! み、みんな無事ですか?」


 私がそう問いかけるが反応は無い。

 私は咄嗟に魔法を使えたので助かったが、ヴォルフやみんなの意識は無い。



 セトが唯一意識があり無事な私のところに歩み寄る。


「ほう、俺の魔法を喰らってもまだ立つか」

「……あなたは絶対に許さない!」


 大丈夫な人を殺されて、仲間も壊滅させられた。


 目の前の男に憎しみしかない。


 私は剣を構え攻撃をする。


 しかし、その攻撃をセトは楽々と防ぎ、私を弾き返す。


 私はもう限界だった。全身はボロボロでもう立っているのがやっとだった。


 気づいたら私は倒れていた。


「……せめての情けで一思いで殺してやる」

「……力のない自分が情けない、あの時から何も変わってないよ僕は――」


 私は静かに涙を流す。

 セトが私に剣を振りかぶる。


 ああ、死ぬんだな。でも死んだらクオンと同じ場所に行けるかな?…………


 いや、なぜクオンが死んだと決めつける? きっとクオンは生きている。絶対にだ。だってクオンは私を救ってくれた救世主なのだから……


 それに私の気持ちをはっきりと伝えてない。


 だったらまだ……


「……まだクオンに付いていきたい……死にたくないよ、クオン助けて」


 だが、私の助けの声には誰も反応しなかった。

 クオンはやっぱり来ないのだ……


 私に首にセトの剣が吸い込まれていく。

 もうここまで来たら間に合わないだろう。


 

 クオンが助けてくれるなんて、そんなに都合がいいことはないか……


 私の人生はクソだったけど、あなたと一緒に過ごした少しの間は、生きてる実感が湧いてきて、楽しかったよ……もし来世があるなら、またクオンに認められるように頑張らなきゃね……


そして、剣が首を飛ばす直前に私が思ったのはクオンのことだった。


――私を救ってくれてありがとう。好きだよ



 剣が私の首に当たる……直前に


 凄まじいほどのスピードでそこに純白の槍が割り込んできた。


 そして、剣を弾き飛ばした。



「ごめん、遅くなって……あとは俺に任せろ」


 雨もあがり、雲の隙間から月の光が漏れ出す。


 純白の髪が月光で煌めく。


 純白の槍が煌めく。


 血が飛び散り赤く染まった大地の中で見たクオンの姿は何故か美しかった。



 私はそのクオンの姿を見て、小さいころ書物でボロボロの本に書いてあった話を思い出した。


 亜人に寄り添った魔女の話だ。


 一般的には亜人は悪とされているが、亜人に差別感を持ってなく小さく純粋だった私には虐げられている亜人を助けるいい話だと思っていた。

 その物語に出てくる魔女は純白の髪をしていて、純白の槍を使い、目にも留まらぬ速さで移動していたという。

 まさしく今のクオンのようだった。


 確かその魔女の異名は純白の魔女。


 今のクオンの姿は私にとっては英雄だ。


「――純白の英雄……」


――私の英雄だ。


 そしてより一層、心の中にある好きという気持ちが大きくなり、クオンを自分のものにしたくなる。


――私の英雄は絶対に負けない


 私たちが手も足も出なかったセトが相手でもきっとクオンは勝つだろう。


 その安心感からか、私は意識を失っていった。



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