運命の出会い
恋愛物語のため戦闘描写は詳しく書いていません。詳しい戦闘描写が気になる人は偽りの英雄~彼女に振られて異世界転生~を見てください。
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それから私が平民になって一年が経った。
私は17歳になっていた。
この一年は呆然と生きていた。ただ寝て、起きて、食べて、寝るだけという生活をしていた。
普通の生活も出来ずにいた。そして気づけば両親から渡された資金も底を尽きた。
資金が無くなったので、冒険者になるか奴隷になるかどちらか選ぶしかない。しかし私は自主的に生きようとも思えなかったので奴隷になることにした。
奴隷になって自分で何も考えずに生きられるようにしようと……だが、娼婦奴隷になるのは嫌だったので、自ら危険とされるダンジョン奴隷に志願した。
そして私は奴隷になった。
ダンジョン奴隷は、ダンジョンでモンスターを倒さなければならないため危険だ。だが、私は公爵家としては落ちこぼれの希少級魔法だが、一般人から見れば凄い力を秘めているものだ。低位のダンジョン如きでは遅れをとらなかった。
だから、奴隷の生活は予想していたより悪くなかった。私は妊娠も出来ないのだし女であることを隠して男として生きているが、希少級魔法師であるということで大いに期待された。
それから少し経つと、周りの奴隷や教官たちに認められた。教官というのは、私たちに戦闘技術を教えてくれる人たちだ。まあ、私は公爵家で戦闘技術を学んでいたので意味はない。
認められたのがとても嬉しかった。周りは私のわがままをなんでも聞いてくれた。希少級魔法師である私の機嫌を損ねたくないのだ。こんなことなら初めから奴隷として生きてけばよかったと思うほどだ。
だが、そんな生活は長くは続かなかった。
ある日、ある教官から話を聞いた。
「今度の帝国との戦争はうちからも奴隷を兵士に徴兵するらしく、その部隊のリーダーに無色の奴隷が選ばれるらしいぞ」
無色の奴隷とは、ここの奴隷たちの中でも珍しい魔法の適正自体を持たない1人の奴隷のことだ。その奴隷は凄まじいほどの魔力操作と槍術を使いこなすらしく、ここのダンジョン奴隷の中で一番強いと噂されている奴隷だ。この希少級魔法師である私を差し置いてだ。
教官はまだ話を続ける。
「俺はそんな奴よりも希少級魔法師であるお前の方がいいと思うんだけど、お前は自分からリーダーになろうとか自発的な人間じゃないもんな……この話は気にするな」
当たり前だろう。
魔法の使えないそいつがなんでリーダーに選ばれるのはおかしい。
魔法の使えない奴が周りに認められるなんてあり得ない。
そんなことがあり得るなら、何故、私は両親に捨てられた?
普段は自分から行動をするタイプではない私だが、この時だけは違った。魔法の適性を持たないそいつだけは、認めるわけにはいかなかったのだ。
「私がリーダーになります。魔法の使えない奴に負けるわけにはいかない……」
教官に私がそう言うと喜んで私を候補にあげた。
奴隷部隊の隊長の候補が2人になったということで、どちらがリーダーに相応しいか、試合をして決めようということになった。
そして、そいつとの試合の日がやって来た。
そいつは平均よりも少し高めの身長で、細身だが、筋肉は付いていてしっかりした体、10人が見れば6、7人が振り向くくらいのそこそこに整った顔、何よりの特徴は世間一般的に魔法を使えないとされる白い髪の毛をしていた。そのくせそいつの纏う雰囲気は自信満々といった感じだった。
「俺はクオンです。なんか戦うことになってしまったけど、よろしくお願いいたします」
「僕はルーイです。よろしくお願いいたします。僕はリーダーになりたいわけではないのですが、ただあなたのような無能には負けるのは嫌なので、本気で行かせてもらいます」
「……はは、まあお手柔らかにお願いするよ」
私はそいつに負けるはずがないと思っていた、魔法の使えないそいつに。
しかし、試合が始まり蓋を開けてみると、私は防戦一方だった。
私の魔法で防壁を作ったが、そいつの使う槍の一振りでかき消さた。そして、その一瞬の視界が塞がっているうちに攻撃魔法を使ったがそれも槍で防がれた。
その後は魔法を絡め、手もまじ合わせて戦ったが無意味だった。
そして、魔法の使えない近距離に持ち込まれた。私は剣術も一般人よりは出来るが、そいつの槍術の前では無力だった。
数十秒のうちに私は首に槍を突きつけられて、敗北した。
魔法という価値を粉々にされた。
私は今までの人生を否定されたようで落ち込んでいた。
そんな私を見ると、そいつは私に微笑んで話しかけてきた。煽られているようだった。
「凄い魔法だったので、手加減をあまりできなかったです。怪我はないですか?」
「怪我はありません。あとお世辞はいりません」
私はそう言って、そっぽを向く。
全然凄い魔法ではない。姉はもっと凄い魔法を使える。
「お世辞じゃありません。最後の魔法は俺の意表がつけていて、防ぐのがギリギリになったので、危なかったです。ほんとに凄かった、魔法も凄かったけど……なにより頭もいいんですね」
「魔法以外がよくても何も意味がありません」
私の価値は魔法だけだ。魔法の才能がないから、家族に認められなくて家を追い出された。魔法が使えるから奴隷になってから認められた。
だが、そいつは話し続けた。
「いや、そんなことはないですよ、魔法だけじゃなくて戦略も詠唱速度も凄くて、あと俺の攻撃を剣で防いでたじゃないですか。自慢じゃないですけど、俺の攻撃を防げるのは奴隷の中でもそう多くはないと思いますよ。ちゃんと魔法だけじゃなくて訓練をしてるんだなと思いました」
そいつは私を否定する。
それを否定されたら、私には何も残らない。
「ですがそんなのは関係ないです! 僕の価値は魔法だけなんです!」
私がそう言うと、そいつはニコニコとした表情を辞めて真剣な表情になった。
「……人の価値が魔法だけのわけはないだろ!」
「あなたに何がわかるんですか!!」
こいつには私の過去はわからないだろう。
「君のことはわからない。でも俺も鉱山奴隷だったときは、魔法の適性の無いこの白い髪のせいでさんざん嫌な目にあってきた……殺されかけたこともある……それでも今はこうして強くなっている、教官に認められている。別に魔法がなくても強くなれるし、人に認められているじゃないか……君の過去に何があったのかわからないけど、過去と今の君は違う! 俺は今の君を認めているんだよ」
そいつも魔法によって、散々嫌な目に合ったようだった。
しかし、そいつは人の価値は魔法だけでないと言った。魔法以外でも認められると、私の価値は魔法だけじゃないと、
私は涙を流した。初めて魔法以外で私は認められた。
「なんで褒めてくれるのですか? 僕はあなたを貶したんですよ」
「褒めてるわけじゃなくて事実だし、別にそんなに気にしてないよ。魔法が使えない無能だからどうしたって感じだね」
私の今までの人生は魔法が全てだった。貴族の時は魔法の才能がないからと捨てられ、奴隷になってからは希少級魔法師だからと認められた。
――結局、周りの人間は私の魔法しか見ていないのだ。そして私自身も魔法でしか価値を測れなかった人間であったことに気付かされた。
そして、そいつは唯一、私のことを魔法以外でも見てくれたのだ。
――私の魔法は今日で終わりだ。そして今日から新しく人生をはじめよう。
そして、クオンは貴族の時のモネではなく、今のルーイを認めてくれたのだ。
だから、これからは私はルーイになろう。偽名としてでは私の今の本名として。
そして今よりも、クオンに認められるためにも頑張ろうと思う。
それが私の新しい人生の目標だ。