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絶望と追放

 母が妊娠した。


 その話を聞いた時、私は血の気が引いたようだった。何故なら母が子供を産んだら私はスペアという価値も失って、家から追放されてしまうからだ。


 私のことをみんなに認めてもらうためにも、急がなければ、そう私は焦った。


 成人から半年ほどが経ち、今の私は普通級魔法師だ。ついに魔法を使えるようになったのだ。だがそれでも家族には認めてもらえなかった。だから今以上の希少級魔法師になるしかないだろう。


 その日からが今まで以上に努力をした。人を雇い、手伝ってもらい、どうにかして希少級魔法師になった。


 だが、それでも認めて貰えなかった。ちょうどよく姉が王国で唯一ともいえる神話級魔法師になったのだ。


 私は絶念した。

 

――どんなに努力をしたところで才能に敵わないことを知った。


――どんなに努力をしたところで認められないことを知った。


 それからの私は腐っていった、努力を一切しなくなった。今までの日々が馬鹿らしくなったのだ。



 そんな最中、私の妹が産まれたのだ。


 私は父に執務室に呼ばれた。いつもは話しかけられことすら滅多にないのにだ。


 執務室に行くと、家族が全員揃っていた。母、父、姉の三人だ。


「魔法の才能のないお前は、歴史あるタラッサ公爵家に必要ない。モネ、お前は勘当だ。家から出ていけ」


 その言葉を聞いたとき私の頭は真っ白になった。

 これも覚悟していたことだが、私は私なりに努力してきたつもりだ。


「待ってください。私、頑張りますから、今よりも頑張って絶対に神に認められて魔力量を増やして、もっと上の魔法を手に入れます……だから私を捨てないでください。お願いします」


 私は号泣しながらそう言ったが今度はお母様が話し始めた。


「これは家族みんなで決めたことなの。あなたの役割(スペア)はもうないわ。いつまでも公爵家の恥さらしのあなたをここに置いとくわけにはいかないのよ。だからわかってちょうだい」


 家族みんなで決めたこと? じゃあ私は家族じゃないの? 何故、血の繋がった私じゃなくて、義姉であるはずの姉がそこ(家族)にいるの? 


――私は世界を恨んだ。


――才能を恨んだ。


――魔法を恨んだ。


――両親を恨んだ。


――義姉に嫉妬をした。


 義姉になり変わりたいと……


「では、お前は追放だ」


 父がそう言った。だが父は姉には逆らえない。


 姉に頼れば大丈夫……次の当主は姉なのだから姉がいいと言ってくれれば私はまだここにいられる。

 それに姉は両親と違って、私に才能がないとわかってもいつも通り接してくれたのだからきっと大丈夫……


「お姉様……お願いします。家から追い出さないでください」


 私が姉に懇願する。

 姉はいつも通り冷たさを感じる青い目で私を見てきた。その目の奥は海よりもずっと深かった。私はなにを考えてるかわからないこの目が苦手だった。

 姉は冷たい声で私に言った。絶望の宣告を。


「あなたを使った実験はもう終わったわ……何か助けるメリットはある?」


 前半の言葉は小声で呟いていたので聞こえなかったが、その後の言葉に心が折れそうになった。姉まで私を見捨てる気だ。


「メリットはないかもしれませんが、なんでもします。お願いします……」


 私は必死になって頭を下げた。


 しかし姉は私に近づくと耳元で「私はあなたに興味がないの……いや、全ての人に興味がないの……ただ一人を除いてね。だから、あなたがどうなろうと私には関係ない」と言い放ち、部屋を出て行ってしまった。


 両親は姉が部屋から出ていくのを見ると、私を追放した。


 しかも公爵家の血筋の流出を防ぐために、魔道具によって私の身体を妊娠できない身体にした。


 私の心はそこで折れてしまった。


 そして、私は生きる気力を失った。


 両親はさらに私から名前を取り上げた。



 私はルーイと名乗ることにした。

 さらに妊娠ができなくなった私は女として終わった。今更、周りの男に言い寄られても、私はきっと靡く事はないだろう。だったらもういっそのこと男として生きることにした。



――この日から私は公爵令嬢のモネ・タラッサではなく……ルーイという平民の男になった。



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