93:芋くさ夫人の反論
「お二人とも、おかしいです」
顔を上げる私に二人は目をつり上げて反論する。
「おかしいって、どこが? おかしいのはあなたのほうよ! 身勝手な行いを世間が許すと思っているの?」
「そうです! エバンテール家に嫁いだ女性たちが皆、どんな思いでいるか……」
「私たちの子供にも悪影響なのよ! 周りのことも考えてよ、教育に支障が出たらどうしてくれるの?」
世間、皆、周り……二人の言葉は主語が大きすぎる。
彼女たちは自分たちがいかに苦労しているか、いかに我慢しているかを主張し、自由になった私をずるいと責め続けた。
そして、一族の皆が我慢するのだから、お前もそうしろと威圧してくる。
けれど、そんなのはもうたくさんだった。
皆で苦しめだなんて、ちっとも建設的ではない。
「悪影響、出ればいいのでは? 残されたエバンテール一族は、これから変わっていくでしょう。私たちのように辛い思いをする子はいなくなればいいんです」
「な、何を言っているのよ! そんなの、誰も許すわけがないのよ!」
「誰も? 許していないのは、あなたたちではないですか。自分の意見に周りを巻き込むのは止めたほうがいいです。実際にそう思っている人々は残されたエバンテール一族だけで、他にはいませんから」
「そ、そんなことっ……」
しかし、いつの間にか自分たちに注目が集まっているのを見た彼女たちは口をつぐんだ。
明らかに自分たちが不利だと理解しているのだ。
「嫌なら、止めればいいだけです。それとも、自分と同じ苦しみを子供にも負わせますか? これからを決めるのはあなたたちです。周りでもないし、私でもない。確かに簡単ではないです。私はずっとあらがい続けましたが、勘当されるまでエバンテール式から逃れることはできませんでした。しかし、あなたたちは一人じゃない。他に共通の思いを抱えた仲間がいるのなら、道は開けるかもしれない……」
野次馬中の貴族から「そうだ!」という声が複数上がった。
「私からは以上です」
言い置いて、ナゼル様のほうへ向かう。
自分が苦しいからと、他人に同じ辛さを強要しても、なんの解決にもならない。
「アニエス、助けようと思ったけれど……そんな間もなく、君が対処してしまったね」
「元エバンテール家の者として、私が対応しなければいけないことです。ナゼル様はこれからすべき重大な任務があるのですから」
私たちは手を取り合い、これからの戦いに備える。
大丈夫、準備は整えたのだ。
見つめ合っていると、あらぬ方向から私に声がかけられた。
「やあやあ、小鳥ちゃん! こんなところにいたんだね~」
瞬間、私の全身に鳥肌が立つ。
「……ロビン様」
声のするほうを見ると、王女殿下をほっぽり出して歩きだしたロビン様が、キラキラと目を輝かせながら近づいてくるところだった。