90:力強い芋くさ夫人
「ねえ、一緒に行こうよ。俺ちゃんとイイコトしよう?」
「ひいっ!」
強引に手を引っ張るロビン様に逆らい、足を踏ん張った私は全身に力を込めた。
「ふんぬーっ!!」
自分の腕を引っ張り返すと、あっさりロビン様の手が離れる。
勢い余って尻餅をついた彼は、目をまん丸にして私を凝視した。
「えっ……? 小鳥ちゃん、怪力……?」
今は自分の体にも物質強化の魔法をかけている。だから、通常より力が強いのだ。
「わ、私のことは放っておいてください。もう部屋に戻りますので」
怪力だし、既婚者だし、ロビン様の興味も薄れるだろうと思ったけれど、彼は目をらんらんと輝かせて私を見つめる。
先ほどより目の輝きが増してはいないだろうか。
「簡単に手に入らないって燃えるよねえ……! 人妻略奪!」
「…………」
この人は何を言っているのだろう。
嫌な予感がした私は、そそくさと身を翻して部屋へダッシュする。
「ねえ〜、待ってよ〜。小鳥ちゃ〜ん!」
「ひいぃぃっ!」
なりふり構わずロビン様から逃げていると、曲がり角で私はボフンと誰かにぶつかってしまった。
「わぷっ、ごめんなさい」
顔を上げれば、戸惑った様子のナゼル様が立っている。
「アニエス、ここにいたの。部屋にいなくて、探していたんだ」
「ご心配をおかけして、すみません。中庭は危険地帯ですので、今すぐ部屋へ戻りましょう」
ナゼル様が首を傾げたのと同時に、花をかき分けたロビン様が「小鳥ちゅわ〜ん」と飛び出してくる。
しかし、彼はナゼル様に目をとめ、引きつった表情を浮かべた。
「ナゼルバート、何故ここに? ……もしかして、小鳥ちゃんはマジで芋くさちゃんだったわけぇ? 同一人物に見えないんだけどぉ!」
ロビン様の言葉で、ナゼル様は大体の事情を察したようだった。ぎゅうぎゅうと私を抱きしめてくる。
放してくれる様子がないので、素直に彼の胸に顔を埋めた。
「行こうか、アニエス」
私を伴い部屋に戻ろうとするナゼル様だけれど、後ろからロビン様が声をかける。
「ナゼルバート。いい気になっていられるのも、今のうちだからね〜? 王配の座は渡さないし、小鳥ちゃんももらっちゃうよ〜! 俺ちゃんの魔法さえあればぁ、イチコロだからっ!」
ナゼル様はロビン様を無視してスタスタと歩く。彼がここまで他人に塩対応をするなんて珍しい。
心に不安を宿しながらも、私たちは無事に部屋に戻ることができた。
「アニエス、あいつになにもされなかった?」
「ええ、特には。腕を引っ張られたくらいです。あと手の甲にキス……」
「……!? それは大変だ!」
そこから先は、ナゼル様の過保護が爆発する。
手を洗いに行ったあと、私はずっとナゼル様に抱えられて一日を過ごしたのだった。




















