80:辺境暮らしで変わったこと
ナゼル様に心を開いたポールは、あれから彼に様々なことを伝えた。
その中の一つに、ロビンとエバンテール家が組む動きについての情報があり、ポールも片棒を担がされそうになっているとのこと。
「第二王子殿下や私たちに対する逆恨みでしょうか、あの人たちは悪い意味でプライドが高いから。影響力はさほどないですけど」
「ポールの処遇も考えなければね。伝書鳩に手紙を託して出てきたらしいから」
「弟がご迷惑をおかけしてすみません。とりあえず実家に返します」
「エバンテール家に連絡するよう伝えたのだけれど、ポール本人が嫌がっているんだ」
「ですが、このままだとナゼル様や私が誘拐犯扱いされかねません。いずれにせよ連絡だけでも入れておくべきでしょう」
家に戻りたくないなら、ポール自身の口から家出の理由と彼の要望を話さなければ。
今は向こうもこちらも領主同士、きちんとやり取りをする必要がある。
「あの両親とは連絡を取りたくないですけど……仕方がありません。私はスートレナの領主夫人なので」
ポールに手紙を書かせなければ、貴族同士のいざこざが発生してしまう。ただでさえ険悪なのに。
「問題は、ポールに話が通じるかだけれど」
私が行けば、また彼がへそを曲げるかもしれない。
「かくなる上は力ずくで……」
悩んでいるとケリーが声をかけてきた。
「アニエス様、まずは私にお任せください。これでも多くの弟たちの世話をしてきた身です。彼の着替えの世話などもいりますし、ついでに話をしてみましょう」
「ケリー、でも……」
「ご心配には及びません。魔法を使いながら対処しますので」
頼もしすぎる発言をして去って行くケリー。
私と弟が不仲だったばかりに……申し訳ない。
それから、ポールは両親宛に手紙を出した。
私は読ませてもらえなかったけれど、確認したナゼル様曰く、家を出た理由や辺境までたどり着いた経緯、自分の気持ちやスートレナに留まりたい旨が書かれていたらしい。
結果はわからないが、とりあえずすじは通せた。
ポールが来てから数日が経ち、彼の行動には変化が見られた。
まず、タイツ姿ではなくなった。タイツを洗濯する間に着るものがなかったからだ。
弟は洗わないタイツよりもケリーが手配したズボンを選んだ。
服装を変えたポールは、年相応の少年貴族に見える。
そして、センスの良い服を用意したケリーに懐いた。
この光景……まるで以前の自分を見るようだ。
両親から返事が来るまでの間、ポールは辺境での生活を満喫し始めた。
庭を散歩したり、恐る恐るダンクに触ったり、怖がっていたトッレと仲良くなり筋トレもしている。
私に対しては以前と同じ態度だけれど、エバンテール家の方針云々は言わなくなった。
彼もいろいろ考え、前に進もうと足掻いているのかもしれない。