76:白タイツVS護衛
辺境スートレナでは相変わらず雨期が続き、プールではしゃぐジェニとダンクの機嫌はいい。さらに植物の成長も乾期より早く、スートレナの食糧事情はめざましく改善され続けていた。
プールでジェニたちと遊んでいると、トニーがやって来た。
彼はダンクを騎獣にするための訓練士として、魔物討伐の仕事がないときは屋敷を訪れている。ダンクも暴れることなく、トニーに素直に従った。
トニーは私を見て、何かを思い出したように口を開く。
「そういえばアニエス様、先ほど屋敷の前に不審者がいましたよ」
「不審者ですって?」
「はい。子供で害はなさそうでしたけれど、新手の露出狂のような格好で空中に浮いていたので、とにかく不気味で……」
「露出狂だったら大変だわ。追い返してきます」
子供なのに今からそんな真似をするなんて将来が心配だ。
門へ向かうと護衛のトッレもついてきた。
「アニエス様、危険ですから私が先に出ます。空中に浮いているなんて、得体が知れません」
「きっと魔法ね、同じような使い手が身内にいるの。弟で……ん……? んん?」
――どうしましょう。
空中に浮いている、露出狂のような格好の子供に、とても心当たりがあるような。
「トッレ、相手は子供なのだから、いきなり乱暴するのは駄目よ」
「わかりました! 三秒待ちましょう」
「せめて、もう少し猶予を!」
言いながら門を出ると、件の子供が浮かんでいた。
空中浮遊の魔法が使えるものの、門を飛び越えるほどの高度は出せない模様。
子供は私を見ると、スウッと宙を移動してくる。うーんデジャヴ。
「できれば予想が外れて欲しかったけれど、駄目だったわね」
私と同じ髪色に目の色、マッシュルームヘッドに白タイツの少年は、ポール・エバンテール。十二歳になる私の弟だった。
彼は伯爵令息ヤラータのパーティーで会ったときと同様、ねめつけるように私を見下ろす。
「相変わらず恥知らずな姿ですね。まるで痴女のようだ」
魔獣たちと水遊び中だったので、私は水着に上着を羽織っただけの格好だ。
しかし……
「あなたにだけは言われたくないわ」
不審者に間違えられた、白タイツ姿の弟に指摘されるのは嫌だ。
せめて上に短いズボンでもはいてくれればいいものを、父も弟も白タイツ一丁で出歩くのだから。
「それにしても、ポールはどうして辺境にいるの? お父様とお母様は?」
問いかけると、彼はきゅっと唇を引き結んだ。
「……だ」
「なんて言ったの?」
「お前のせいだ! お前のせいで、お父様もお母様もおかしくなったんだ!」
叫ぶなり、弟は私に飛びかかってきた。
白タイツが目前に迫りあわやというところで、トッレが私たちの間に割って入る。
「よくわからないが、アニエス様を守ーるっ!」
トッレは勢いよくポールに体当たりした。
そして、ポールは護衛の渾身のタックルにあらがえず、あえなく捕まってしまったのだった。




















