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74:侍女の目にも……?

「それで、ケリーはベルトラン殿下と前々から知り合いなのかな?」

 

 ナゼル様に問われ、ケリーは瞑目しながら頭を下げる。

 

「……はい。私が王城で働けるようになったのは、街で偶然出会ったベルトラン殿下のおかげなのです。最初は王子妃殿下のメイドとして働いていて、王女殿下の使用人に引き抜かれたのは予想外でした」

「辺境で暮らし始めてからも、何度か接触していたようだね」

「王子妃殿下が私を心配してくださったようで。ナゼルバート様に拾っていただいたあとも、ベルトラン殿下が様子を見に来てくださいました」

 

 ケリーがすまなさそうに言うと、ベルトラン殿下もまた言葉を続ける。

 

「今まで黙っていたことについては、ケリーを責めないでやってくれ。彼女はナゼルバートに忠実だが、俺が口止めしたんだ。フロレスクルス公爵家出身のお前を味方に引き入れるか悩んでいたのでな」

「責めていないよ、ケリーは我が家の大切な一員だし優秀な侍女だから。あなたと繋がっていたからといって、彼女自身の献身を否定したりしない。それに、こちらに害のある動きはなかった」

 

 私はケリーを疑ってはいなかったけれど、ナゼル様は気づかないところで色々見ていたようだ。

 

「それで、ナゼルバート。私の方からも君に協力を頼みたい」

「……すでに無理矢理レオナルド殿下の派閥に引き込んだでしょう」

「それもあるが、俺自身にも協力して欲しいんだ。悪い話じゃないだろう」

 

 ナゼル様はあまり乗り気ではないように見えた。

 艶めく赤髪をかき上げながら、悩ましげな視線を床に落とす。

 

「正直言って、私は辺境さえ安泰なら他はどうでもいいのです。王家のゴタゴタに巻き込まれるなど、本来ならごめんなのですが」

「ロビンの馬鹿がまたちょっかいを出してくるんじゃないか?」

「……そこなんですよね。追い落とした相手に構う理由なんてないはずなのに」

「あいつ、性格悪いよなぁ。でも、やり方が杜撰すぎる。そろそろ、あちこちでほころびが目立ち始める頃合いだ。王家はどこまで隠し通せるかな」

 

 ベルトラン殿下の目は確信に満ちていた。

 

「殿下に協力するにしても条件があります。公爵家の母と弟が損害を受けず、俺やアニエスがこの辺境で平和に暮らせることを最低限約束していただきたい」

「王都に戻る気はないのか?」

「ありません。俺はスートレナを気に入っていますから」

「それでいいから手を貸してくれ。今回の事件もそうだが、ロビンはお前に接触してくる可能性が高い」

「わかりました、今回手出しされた分の証拠は全部集めておりますので」

 

 ナゼル様とベルトラン殿下はしばらく話し込んでいた。

 いつまでも水着姿でいるのはどうかと思った私は、ケリーに頼んで着替えに行く。

 部屋に戻るとケリーがいつもより沈んだ調子で言った。

 

「アニエス様、申し訳ございません。言えなかったとはいえ、私は殿下の存在を隠し、商人として屋敷へ招いてしまいました」

 

 私は少し考え、ケリーに自分の考えを伝える。

 

「大丈夫よ、ケリー。ベルトラン殿下に命令されたら逆らえないよね。それに私は何も困っていないし、屋敷のものを処分できて感謝しているの」

「ですが……」

「エバンテール家にいた頃の侍女は、いつも私を『できが悪い令嬢』だと馬鹿にしていたわ。皆が母の言いなりで、心を許せる相手じゃなかった。怪我をしても見て見ぬ振り。私を心配してくれたのは、ケリーが初めてだったの。気にかけてもらえて……とても嬉しかった」

 

 ケリーの服をきゅっと掴み、続けて訴える。

 

「だから、辞めないでね」

 

 無表情だけれど戸惑いを含んだケリーの眼差しがこちらへ向けられる。

 

「はい……」

 

 相変わらず動きの見られないケリーの顔面。

 けれど、私には……いつもよりほんの少しだけ、彼女の目が潤んでいるように見えたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ケリー、ベルトラン殿下の影の者じゃなかったんですね。 よかったよかった。 これでケリーがアニエスの元から去るようなことにはならないですね。
[一言] >「あいつ、性格悪いよなぁ。でも、やり方が杜撰すぎる。そろそろ、あちこちでほころびが目立ち始める頃合いだ。王家はどこまで隠し通せるかな」 ロビンの末路はろくでもないコース確定ですな…。
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