表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/120

63:護衛騎士、運命の再会

 私たちは揃って、男爵の屋敷へやって来た。

 トッレだけ、先ほどの盗人軍団を牢屋へ連れて行く手伝いをしている。終わり次第合流する予定だ。

 男爵家にはなぜか、近くに住む貴族が集まっていた。

 豪奢な屋敷の中が、まるでパーティー会場みたいに飾り付けられている。

 いつ、準備をしたのだろう?

 

「ん……? あそこに飾られているギラギラした置物、うちの屋敷にあったような?」

 

 ベルが不要品を売った先は、この家だったらしい。

 ちょっと複雑な気持ちになりながら、男爵に案内されるままナゼル様と歩く。

 ヘンリーさんとケリーは別行動だ。

 彼らは部屋で休むと言いつつ、抜け出して屋敷で不正の証拠集めをしていた。

 ベルも彼らについて行ったみたいだけれど、市場調査でもするつもりなのだろうか。

 とにかく、私は領主夫人として、この場を乗りきらなければならない。

 

 格好いいナゼル様が屋敷内に現れて、集まった女性たちが色めき立つ。

 その中には、先ほど助けた令嬢もいた。以前面接に来たレベッカの姉のようだ。

 当のレベッカはナゼル様に脅え、隅っこで小さくなっている。

 私たちに絡む気配はない。

 

 キギョンヌ男爵は過去に横領をしたらしく、ナゼル様やヘンリーさんの裁きを受けたと聞いた。

 にもかかわらず、金遣いの荒さは消えない。別ルートで資金を得る方法があるのだろう。

 男爵家の長女と次女はナゼル様にしつこく話しかけているし、他にも数人の令嬢が彼を囲むように取り巻いていた。

 

「ちょ、ちょっと?」

 

 ナゼル様は、私の夫なんですけどー!

 令嬢たちの勢いで彼と引き離された私は焦ったが、今度はそんな私の肩を掴む人たちが……

 

「こんにちは、領主夫人。噂とは違ってお美しいですね。我々とお話しませんか?」

 

 振り返ると、ずらりと若い男性が並んでいた。

 

「だ、誰?」

 

 今度は私が男性陣に囲まれ、ナゼル様との間に二重の壁ができてしまう。

 

「ど、どうしよう」

 

 ナゼル様もこちらへ来ようとしているのだけれど、令嬢を乱暴に押さずに移動するのに苦労している。

 そこへ、新たな令嬢が駆け込んできた。

 他の令嬢に比べて清楚で大人しめの格好だけれど、積極的にナゼル様に近付いていく。

 

「まあ、ナゼルバート様。お目にかかりたいと願っていましたの。私、私……」

 

 そこで私は違和感を覚えた。

 令嬢の栗色の髪がブワリと不自然に膨らんだかと思えば突如、鋭く突き刺すような棘の形状に変化する。

 

「危ない、ナゼル様!」

 

 叫ぶ間もなく、令嬢の髪はナゼル様に向けられた。

 他の令嬢は悲鳴を上げてその場から一斉に逃げ出す。

 

「ごめんなさい、あなたに恨みはないの。でも、私にはもう、こうするしか……」

 

 消え入りそうな声で告げた彼女は、鋭い髪を振り乱しながらナゼル様に迫った。

 しかし、髪はナゼル様の体をかすめるだけで、一向に刺さる様子は見られない。

 それもそのはず。彼の体は、私が強化魔法をかけたままなのだ。

 魔獣が踏んづけても、棘が当たってもびくともしない。

 

「な、なっ……?」

 

 あり得ない事態を前に、令嬢がにわかに焦り始める。

 困り顔になったナゼル様は、いつも通り普通に立っていた。

 

「なんでっ、どうして刺さらないの?」

 

 同時に異変を察知した兵士が集まってくる。

 その中には、盗人の引き渡しから戻ったトッレもいた。

 

「こちらのご令嬢を頼めるかな」

 

 ナゼル様の指示に頷いたトッレは、素早く駆け寄って件の令嬢を見ると……

 

「リ、リリアーンヌッ!!!!」

 

 屋敷中に響き渡るような、魔獣顔負けの雄叫びを上げたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

1巻 2巻 3巻 4巻
5巻 6巻 7巻 8巻 コミック連載
コミック1巻 コミック2巻 コミック3巻 コミック4巻 コミック5巻 コミック6巻 コミック7巻
書籍発売中です
七浦なりな先生によるコミカライズ


こちらもよろしくお願いします。

拾われ少女は魔法学校から一歩を踏み出す

― 新着の感想 ―
[一言]  リリアンヌ、可哀想と言えるかどうかわからないけど、終わったな。  普通に、本当の自分をトッレに打ち明けてりゃ良かったんだ。
[一言] 想像の百倍くらい話が早いというか、物理に訴えてきた……。 え? 辺境で活躍しているって噂聞いた嫉妬で浮気相手に暗殺依頼したの? マジで何考えてんですかね、あのチャラ男……。 まあ、失敗して…
[一言] シビアな世界観の話なら領主を襲った時点で人生終了ですが、 人を襲った魔獣が情状酌量で殺処分を免れるぐらいですからリリアンヌもワンチャンあるかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ