63:護衛騎士、運命の再会
私たちは揃って、男爵の屋敷へやって来た。
トッレだけ、先ほどの盗人軍団を牢屋へ連れて行く手伝いをしている。終わり次第合流する予定だ。
男爵家にはなぜか、近くに住む貴族が集まっていた。
豪奢な屋敷の中が、まるでパーティー会場みたいに飾り付けられている。
いつ、準備をしたのだろう?
「ん……? あそこに飾られているギラギラした置物、うちの屋敷にあったような?」
ベルが不要品を売った先は、この家だったらしい。
ちょっと複雑な気持ちになりながら、男爵に案内されるままナゼル様と歩く。
ヘンリーさんとケリーは別行動だ。
彼らは部屋で休むと言いつつ、抜け出して屋敷で不正の証拠集めをしていた。
ベルも彼らについて行ったみたいだけれど、市場調査でもするつもりなのだろうか。
とにかく、私は領主夫人として、この場を乗りきらなければならない。
格好いいナゼル様が屋敷内に現れて、集まった女性たちが色めき立つ。
その中には、先ほど助けた令嬢もいた。以前面接に来たレベッカの姉のようだ。
当のレベッカはナゼル様に脅え、隅っこで小さくなっている。
私たちに絡む気配はない。
キギョンヌ男爵は過去に横領をしたらしく、ナゼル様やヘンリーさんの裁きを受けたと聞いた。
にもかかわらず、金遣いの荒さは消えない。別ルートで資金を得る方法があるのだろう。
男爵家の長女と次女はナゼル様にしつこく話しかけているし、他にも数人の令嬢が彼を囲むように取り巻いていた。
「ちょ、ちょっと?」
ナゼル様は、私の夫なんですけどー!
令嬢たちの勢いで彼と引き離された私は焦ったが、今度はそんな私の肩を掴む人たちが……
「こんにちは、領主夫人。噂とは違ってお美しいですね。我々とお話しませんか?」
振り返ると、ずらりと若い男性が並んでいた。
「だ、誰?」
今度は私が男性陣に囲まれ、ナゼル様との間に二重の壁ができてしまう。
「ど、どうしよう」
ナゼル様もこちらへ来ようとしているのだけれど、令嬢を乱暴に押さずに移動するのに苦労している。
そこへ、新たな令嬢が駆け込んできた。
他の令嬢に比べて清楚で大人しめの格好だけれど、積極的にナゼル様に近付いていく。
「まあ、ナゼルバート様。お目にかかりたいと願っていましたの。私、私……」
そこで私は違和感を覚えた。
令嬢の栗色の髪がブワリと不自然に膨らんだかと思えば突如、鋭く突き刺すような棘の形状に変化する。
「危ない、ナゼル様!」
叫ぶ間もなく、令嬢の髪はナゼル様に向けられた。
他の令嬢は悲鳴を上げてその場から一斉に逃げ出す。
「ごめんなさい、あなたに恨みはないの。でも、私にはもう、こうするしか……」
消え入りそうな声で告げた彼女は、鋭い髪を振り乱しながらナゼル様に迫った。
しかし、髪はナゼル様の体をかすめるだけで、一向に刺さる様子は見られない。
それもそのはず。彼の体は、私が強化魔法をかけたままなのだ。
魔獣が踏んづけても、棘が当たってもびくともしない。
「な、なっ……?」
あり得ない事態を前に、令嬢がにわかに焦り始める。
困り顔になったナゼル様は、いつも通り普通に立っていた。
「なんでっ、どうして刺さらないの?」
同時に異変を察知した兵士が集まってくる。
その中には、盗人の引き渡しから戻ったトッレもいた。
「こちらのご令嬢を頼めるかな」
ナゼル様の指示に頷いたトッレは、素早く駆け寄って件の令嬢を見ると……
「リ、リリアーンヌッ!!!!」
屋敷中に響き渡るような、魔獣顔負けの雄叫びを上げたのだった。