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14:芋くさ令嬢と王宮からの連絡

 ふと肌寒さを感じ、私は重い瞼を開けた。目の前には豪華なベッドの天蓋がある。

 カーテンの間からは、すっかり暗くなった窓の外が見えた。少し開いているので、そこから風が吹き込んできたのだろう。

 先ほどの出来事を思い出した私は、もぞもぞと上体を起こす。

 

「うう、頭が痛い……壁にぶつけたからかな」

 

 手で触ると、後頭部にたんこぶができていた。

 あのまま廊下で気を失って、二階の部屋まで誰かに運ばれたみたいだ。

 ベッドの外に出ると、いつになく焦った様子のケリーが飛んできた。

 

「アニエス様! 立ち上がって大丈夫ですか!?」

「今のところ、平気です」

 

 ……めちゃくちゃ心配かけちゃったな。

 いつも無表情だけれど、ケリーはとても優しい。

 

「ナゼルバート様が、大変心配しておられました。ここへ、アニエス様を運ばれたあとも、珍しく取り乱しておられましたから」

「え、そうなんですか? わぁ、迷惑かけちゃった!」

 

 謝らなければと、私は急いで彼のいる一階へ向かう。すると、客室ではなくダイニングの方に、ナゼルバート様と、見知らぬ赤髪の少年が座っていた。

 気絶をしたせいで顔が確認できなかったけれど、彼がジュリアン様か?と思う。

 私に気づいたナゼルバート様は、勢いよく椅子から立ち上がり、こちらに駆け寄ってきた。

 

「アニエス嬢、具合は大丈夫かい? 無理しないで」

「ナゼルバート様、このたびはお騒がせしてすみませんでした。あと、運んでくださってありがとうございます。私なら、もう大丈夫ですので」

「待って、君が謝る必要なんてない。悪いのは、前を確認せずに部屋を飛び出したジュリアンなんだから」

 

 ナゼルバート様に睨まれたジュリアン様は、おずおずと私を見て言った。

 

「その、すまなかった……というか、詐欺だろ。お前、本当に芋くさ令嬢なのか?」

 

 質問してきたジュリアン様に向かって、ナゼルバート様は無言で机の上に置かれていた分厚い冊子をぶん投げる。冊子は見事ジュリアン様の顔面にヒットし、彼は椅子から落下した。

 

「アニエス嬢、不肖の弟がごめんね。ちゃんとしつけ直すよ」

「あの、私のことはお気になさらず」

 

 今、ナゼルバート様、冊子投げたよね? 穏やかなナゼルバート様が……

 戸惑っていると、ジュリアン様が素早く立ち上がり、私の方へ歩いてくる。意外と頑丈だ。

 

「はじめまして、僕はフロレスクルス公爵家の三男、ジュリアンだ」

「私はアニエス・エバンテールです。ナゼルバート様には、大変お世話になっております」

「事情は兄上から聞いた。我が家の問題に巻き込んでしまって申し訳ない」

「いいえ。こちらこそ、ごめんなさい。罰で、ナゼルバート様と私の結婚を命じられて、フロレスクルス家は迷惑していますよね」

「そ、それは……」

 

 慌てるジュリアン様だけれど、気絶前に彼の本音は聞いている。

 その通りだと私も思った。けれど……

 

「俺は、迷惑だなんて感じていないよ」

 

 キッパリと私の言葉を否定したのは、傍らに立つナゼルバート様だった。

 

「へ、え?」

「アニエス嬢、とりあえず座ろうか。寝込んでいた令嬢を立たせっぱなしにするわけにはいかない。それに、君が眠っている間に王宮から使者が来たから、それについて話がしたい」

「わかりました」

 

 王宮からの使者、意外と早かったな。

 促されるまま椅子に座った私の前に、ジュリアン様が床から拾った資料を置いた。

 

「これは、王家の使者がもってきたやつだ」

「……すごく分厚いですねえ」

「王女の行い、兄上のえん罪、ロビンの行動などが書かれている。あちらでも調べたようだ。そして、表に公表される作り話も、兄上とあなたの処遇も……」

「陛下からの沙汰が下ったのですね」

 

 顔を曇らせたジュリアン様は、黙って頷いた。どうしよう、なんだか嫌な予感。

 戸惑う私に、今度はナゼルバート様が話しかける。

 

「アニエス嬢、その書類は厚すぎるから、俺が内容をかいつまんで説明するね」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 

 言うと、彼は冊子のページをめくりつつ、口を開いた。

 

「まず、陛下は俺のえん罪を認めた。ミーア王女殿下の素行の悪さや、ロビン殿が彼女を何度も誘惑していたことに対して、目撃者が複数人いたらしい。俺がロビンを襲ったと証言した者たちは、彼や王女殿下に金を渡され演技していた」

「では、ナゼルバート様は無実だと決まったのですね!」

 

 しかし、それにしては、ナゼルバート様は嬉しくなさそうだった。

 

「でも……王女殿下はすでにロビン殿の子を妊娠している。そして、その話を多くの貴族が耳にしている。これは、もう隠し立てできない事実だ」

 

 たしかに、子供のことはどうしようもない。今さらナゼルバート様が王女殿下の伴侶に戻るのは難しいよね。

 

「表に公表する情報は、王女は国のために聖なる力を宿した特別な人間……ロビン殿の子供を産むことにした、という内容に決まりそうだよ。王家の意向という形にするんだって」

「どうしてですか!?」

 

 人を雇って嘘の証言をさせるなんて犯罪だ。

 そんな真似をしたロビン様や王女殿下が見逃されるなんておかしい。

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ後には引けないしあるあるですね。ただ女王の話が残るのかどうかで評価が分かれます。 王家の直系に男爵家それも庶子(平民)の血を入れるのと王家の傍流にでは大きく話が変わりますからね。 後継者…
[一言] まぁ、まぁ。 ありますよね。 そんな改竄は。ww
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