表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/120

102:芋くさ夫人の痴漢撃退術

 部屋の隅に避難してキーキーわめいている、真っ赤な顔の王妃殿下と王女殿下が見える。

 ナゼル様の父君や兄君は武闘派ではないのか、同じく端の方で震えていた。母君は避難済みで、ジュリアン様は残っているけれど平気そうだ。

 

(よかった、皆無事……どころか、相手を圧倒しているわ)


 しかし、ホッとした私の後ろから、ニュッと小麦色の腕が伸びる。

 ハッと気づいたときには、いつの間にか移動したロビン様に後ろから抱え込まれていた。

 ナイフを手にした彼はその切っ先を私の頬に当てる。


「ロビン様、放してください」

「嫌だね。う~ん、いい匂いだね、小鳥ちゃん」

「ひいっ!」


 首元でクンクン匂いを嗅がれたせいで、全身に鳥肌が立つ。


「柔らかい抱き心地……ナゼルバートめ、羨ましい……」

「変なところを触らないでください!」

「え~。せっかくお近づきになれたのに、触らないともったいないじゃん~」

 

 セクハラ行為を働きながら、ロビン様はナゼル様に向かって叫んだ。


「ナゼルバート! 小鳥ちゃんの命が惜しければ武器を捨てて、俺ちゃんに土下座しろ!」

 

 彼の言葉で、二人の王子殿下やナゼル様がたじろぐ。

 なんて卑怯な人なのだろう! この期に及んで人質を取るなんて!


(でも、人選ミスなのよね)

 

 怖いけれど、ただ震えているだけでは状況は変わらない。

 私は足を上げ、そのまま「えいっ」と、ロビン様のつま先を踏みつける。

 以前、ラトリーチェ様に教えてもらった、変態撃退用の護身術だ。

 武闘派のラトリーチェ様は親に虐待されていた私に酷く同情し、スートレナ滞在中に護身術を一通り仕込んでくれたのだった。


「……っ!」

 

 高いヒールではないが、パーティー用の靴はかかとの部分が硬めだ。

 ぐりぐりと足を動かしていると、ロビン様は苦悶に満ちたうめき声を上げる。


「ぐっ!?」

「まだまだ!」


 右手側に体をずらし、肘の先で相手のみぞおちを突く。

 

「ぐはっ!」

「もう一息!」


 ロビン様の左腕を掴んで、くるりと相手の左脇の下をくぐり、ギュッと相手の腕を背中側へ引っ張る。


「痛でででででっ! 関節技……だと!?」

 

 無理な体勢に悲鳴を上げるロビン様をめがけて、ナゼル様が駆け寄ってくる。

 

「アニエス!」


 相手が関節技を受けて動けないところへ、長い足で容赦なく跳び蹴りを決めるナゼル様。

 

「ロビン! よくも私の妻に……!」


 私を保護して抱きしめるナゼル様は、ロビン様を捕縛するよう指示を出す。

 すると、王妃の息がかかっていない兵士がやって来て、素早く彼を拘束した。

 気絶したロビン様はブクブクと泡を吹いている。


「ごめんね、アニエス、怖かったね。大丈夫かい?」

「はい。ロビン様が、めちゃくちゃ弱かったので、なんとかなりました」

「この期に及んでアニエスに抱きつくとは。なんて危険な奴なんだ……」


 私が関節技を決めなくても、ナゼル様は助け出してくれたと思う。けれど、皆の足を引っ張るような真似はしたくなかった。

 護身術の師であるラトリーチェ様が、嬉しそうにこちらをチラ見している。

 

「王妃と王女を連れて別室へ」


 ベルトラン殿下の言葉に、兵士が忠実に従う。王妃たちに味方する者は、もう一人もいなかった。

 その光景から、すでに王宮の勢力図が書き換わったと理解する。

 最後に陛下を仰ぎ見たベルトラン様は、ニヤリと笑って彼に話しかけた。

 

「そういうわけですので父上、約束は守ってくださいね」


 瞑目した陛下は、ゆっくり頷く。

 

「……もとよりそのつもりだ。よくやったベルトラン、レオナルド。ナゼルバートよ、協力感謝する」

 

 きびすを返した陛下は、連行される王妃と王女を追うように、悠々とした足取りで大広間を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

1巻 2巻 3巻 4巻
5巻 6巻 7巻 8巻 コミック連載
コミック1巻 コミック2巻 コミック3巻 コミック4巻 コミック5巻 コミック6巻 コミック7巻
書籍発売中です
七浦なりな先生によるコミカライズ


こちらもよろしくお願いします。

拾われ少女は魔法学校から一歩を踏み出す

― 新着の感想 ―
[一言] 屁以下…やっぱり食えない狸タヌキであったか……
[一言] ナゼルさん、ロビンに飛び蹴りやるのはいいけど、関節技かけてるアニエスを巻き込む危険がありそう…。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ