101:芋くさ夫人、芋を投げる2
王子殿下が手配した兵士が、ロビン様たちを取り囲む。
しかし、そこに王妃殿下が待ったをかけた。
「無礼な! そのような真似は妾が許さぬぞ!」
扇を取り出し振り回す王妃殿下に向け、ベルトラン殿下がにっこりと微笑む。
「王妃! もちろん、お前も連行させてもらうから安心しろ」
「なっ! 妾が何をしたというのだ! 適当なことを抜かしよって!」
「良くそんな口が叩けたものだ。私やレオナルドが何度毒を盛られ、刺客を送られたと思う?」
ベルトラン殿下の言葉に、再び会場がざわめきだす。
貴族たちが、「まさか、第一王子殿下が、ずっと寝たきりだったのは……」などと、口走っている声が耳に入る。
実際にはベルトラン殿下は毒を回避して無事だったけれど、彼が寝たきりだったという話が、王妃が毒を盛った信憑性を高める形になってしまった。
「証拠などないではないか! お前たちのでっち上げにはうんざりだ!」
そのタイミングで、王妃殿下の前に三人の見知らぬ男性が現れる。
彼らに見覚えがあったのか、王妃殿下は大きく目を見開いた。
「俺たちは、王妃殿下に二人の王子殿下の暗殺を命じられました!」
「部下を盾に取られ、脅されました!」
「仕事を失敗したからと、身一つで城を追われました! しかも、暗殺者まで差し向けられ、間一髪のところをベルトラン殿下に助けていただきました!」
男性たちは口々に王妃殿下を糾弾し始める。
様子を眺めつつ、ベルトラン殿下がため息を吐いた。
「王妃よ。重要な仕事を任せた部下を無下に扱うものではないぞ? このように、嬉々として真実を話してくれるようになるからな」
「くっ……!」
唇を噛みしめる王妃殿下はまだ諦めていないようで、会場の端を睨んで声を張り上げる。
「お前たち、仕事だ! 無礼者共を一人残らず始末せよ!」
声と同時に、会場の隅にいた一部の兵士が動きだす。
彼らは王妃殿下の息がかかった私兵だった。驚いた貴族たちの悲鳴が上がる。
「皆さん、落ち着いてください。こちらへ……!」
私とリリアンヌ、ついでにポールはパニックに陥る貴族たちを宥めて避難誘導する。
もちろん、王女殿下とロビン様の赤ちゃんも避難させた。
その隙に、戦うことのできるナゼル様やトッレが、敵の兵士に立ち向かう。
しかし、王妃殿下の私兵の数が多く、階段の上からも次々に敵の増援が現れた。
兵士の中に自分の味方をたくさん紛れ込ませているなんて、さすが王妃殿下だ。
「ちょっと加勢してくるわ」
ドレスのポケットに手を忍ばせた私は、会場の真ん中へ向かって走った。
「そーれっ!」
ポケットから取り出したピンク色の物体を、王妃殿下の私兵に目掛けて投げつける。
これは、ナゼル様が品種改良したピンク里芋で、スートレナでもたくさん実るおいしい食べ物だった。ただ、皮が厚く剥かないままでは固いので、改良途中でもある。
そんな芋を私は魔法で強化し、自身の腕も強化した上で敵をめがけて投げつけたのだった。投擲の腕も上げたので、かなりの確率で敵に命中している。
「がっ……!」
「ふごっ!」
「ぐはあっ!!」
悲鳴を上げた王妃殿下の私兵が気絶し、次々と床に倒れていった。
落ちた芋を拾っては投げ、拾っては投げを繰り返すうちに、敵の増援はかなり少なくなる。ナゼル様たちも、すでに広間を制圧済みだった。




















