100:証人の皆さんと言い訳する人々
「現在、私は証言のために一時的に釈放されています。罪を犯すに至った経緯を、包み隠さずお話しします」
覚悟を決めたリリアンヌは、スートレナ領で起きた事件の背後関係やロビン様の手口などを詳しく説明し始めた。
「そもそもは、ロビンが各地で悪事を働いていたのが原因でした。魔獣の被害に手を焼いた領主の一人が……」
スートレナ領の貴族間で不正が行われた事実や、彼らとロビン様の実家が繋がっていたことなど、次々と罪が明らかにされていく。
「そうして、ロビンは実家を勘当されて行き場を失った私に、ナゼルバート様の暗殺を命じたのです。愚かな私は彼の言いなりになって犯罪に手を染めました」
全てを言い終えたリリアンヌに向けて、ロビン様が反論する。
「はあ? 俺ちゃん、知らないんですけど~! ちょっと優しくしてやっただけなのに、なに勘違いしてるの、ブス、ブ~ス! 困るんだよね~、自意識過剰な女って」
リリアンヌをけなし始めたロビン様だけれど、彼の襟を捕らえているトッレの拘束力が強まったのか、「グエッ」と一声呻いて大人しくなった。
私は証言を終えたリリアンヌを保護し、離れた場所で休ませてあげる。
「証言してくれてありがとう、リリアンヌ様。大丈夫?」
「ええ、アニエス様。私のことは気になさらないで。あなた方が与えてくださった、寛大な措置に報いたかっただけです。少しでもお役に立てたのなら、良かった……」
毅然とした表情で、リリアンヌは成り行きを見守っている。
そこにいるのは、他人に依存し縋ることで精神の安定を保つ弱々しい令嬢ではなく、現実を受け止め前を向く、一人の強い女性だった。
続いて、人身売買について、留学先から一時的にデズニム国に帰国したポールが証言する。
「ロビン殿に唆されて両親が関与した、人身売買についてお話しいたします。社交の場で孤立を深めていたエバンテール家に、ロビン殿の使者と名乗る男が現れて……」
すっかりエバンテール式の装いを卒業したポールは、堂々とした態度で両親やロビン様の罪を明らかにした。
留学の効果か、弟が以前よりもしっかり成長した気がする。
「両親は実家を勘当されて修道院に身を寄せた令嬢と、人身売買業者の繋ぎの役目を果たしていました。その後の調査で、業者はロビン殿のご実家が経営していた事実が明らかになっております。なお、男爵家は別ルートでも人身売買に関与していました。それとは別で王女殿下が数人の貴族に接触し、令嬢の売買情報を流したことも発覚しております。どうやら、気に入らない令嬢を、より悪質な貴族に売り渡そうと動いていた模様で……」
孤立し弱った相手に近づき、甘い言葉で唆すのがロビン様のやり口みたいだ。
藁にも縋る思いで彼の手を取った者は、上手い具合に騙され、都合よく使われた揚げ句に捨てられてしまう。
そのような悲劇は、ここで断ち切らなければならない。
王女殿下のなりふり構わないやり口も、正されるべきである。
ポールの後にも、王子殿下が手配した証人が次々に現れて、王女殿下やロビン様の罪を明らかにした。証拠の品も提示されている。
会場は騒然とし、ミーア殿下とロビン様には貴族たちからの冷たい視線が刺さる。
「な、なっ、悪いのは令嬢たちですわ! わたくしの相手と知りながら、ロビンに手を出したのですから!」
言い訳する王女殿下だけれど、彼女の話す内容は自分の罪を認めたも同然。
「俺ちゃんだって、悪くないし~! 全部、パパンがやったことだよ~!」
ロビン様も、この期に及んで他人に罪をなすりつけようとしている。
親である男爵も会場にいたようで、彼の方へ一気に視線が集まった。
金に糸目を付けない贅沢な装いと、飽食でたるみきった体の男爵は、息子から受けた言葉に動揺し目を泳がせている。
「な、何を言うのだ、ロビン! 全てはお前が計画した犯罪じゃないか! パパは資金と人手を貸してやっただけで……」
なんと、男爵までうっかり自分の罪を肯定してしまった。
もう、彼らに逃げ場はない。
 




















