7話 不死鳥の力
ぼくらはダンジョンを脱出した。
拠点としている街へと帰還。
今は、冒険者ギルドに向かって、アスナさんと歩いていた。
「ザック達の荷物を返さないとね。それに……エレンを置き去りにしたことも、ギルドにきっちりと報告しないと」
アスナさんは眉間にしわを寄せながら言う。
とても美人なので、怒った顔は、より一層迫力があった。
「アスナさん。ぼくは良いですよ。もうあんな人たちのことなんて」
「駄目よ。あの人達がやったのは、立派な殺人未遂! あなたに秘めたる力がなかったら、死んでいたのよ? 許せないわ!」
ぼくのために、ここまで怒ってくれるなんて。
優しい人だなと、改めて思う。
「荷物を返して、しかるべき処置をギルドからザック達にしてもらって……ようやくあなたの二度目の人生が始まるの」
「わかりました。アスナさんの言うとおりにします。ありがとうございます」
アスナさんは照れくさそうに笑う。
「ねえ、エレン。もし良かったらでいいんだけど。わたしとパーティを組まない?」
「えっ? な、なんで……? だって、アスナさんは追放されてませんよ?」
「子供のあなたを1人放り出すことなんてできないわ」
彼女の優しさに、ぼくは泣きそうになる。
「それにもうあの人の横暴にはついていけない! エレンを、病気のおじいさんのために頑張ってる、けなげな男の子をいじめるんですもの!」
ぼくには両親が居ない。
家族は、おじいさんがひとり。
しかも今は、病気を患っている。
薬代を稼ぐために冒険者になったのだ。
「じゃあ……その、よろしくお願いします。アスナさん」
「はい、こちらこそ。よろしくね、エレン」
こうしてぼくらは、新しいパーティを組むことになった。
ややあって。
冒険者ギルドに到着したぼくを、受付嬢さんが出迎える。
「エレンくん! 大変よ! おじいさんが!」
知り合いの受付嬢さんは、真っ青な顔で、ぼくのもとへやってくる。
「【ジョエル】おじいさんが、どうしたんですかっ?」
「危篤状態だって、フクロウ便が届いていたわ!」
「な、なんだって!?」
受付嬢の持っていた手紙を、ぼくは急いで手に取って破る。
そこには、ジョエルおじいさんの様態が急変した。
至急戻られたし、と書いてあった。
「急いで帰りましょう、エレン!」
「け、けど……ここからおじいさんの居る田舎の村まで、馬車で10日もかかる距離……帰っても、もう……」
そのときだった。
『そんな悲しい顔をするな、エレンよ!』
ぼくの肩に乗る、不死鳥が、自信満々に言う。
『わらわがおる。不死鳥の力を……己の可能性を信じるのじゃ!』
彼女の力強い言葉に、ぼくは勇気づけられる。
「ぼく、おじいさんのところへ行きます!」
「わたしもついて行くわ!」「わんわん!」
アスナさんにランも、力強くうなずく。
「け、けど……今からじゃ馬車は手配できないし……」
「大丈夫です。カレン、力を貸して!」
『おうとも! ゆくぞ、叫べ!』
「【不死鳥の大翼】!」
ぼくの体から、深紅の炎が吹き出る。
それは大きな翼となって、左右に広がる。
「飛びます! ふたりとも、ぼくのそばへ!」
彼女がぼくの体を、むぎゅっと抱きしめる。
広がった翼が、ぼくらを包み込む。
そして周囲に炎による嵐を巻き起こすと、ぼくらの体は……消えた。
宙に浮く感覚がしたと思った、次の瞬間……。
「わっ! な、なに……ここ? 知らない……村……?」
アスナさんが呆然とつぶやく。
遠くに山脈が広がる。
だだっ広い草原に、ぽつんとその村はあった。
生まれ故郷の村だ。
「す、すごいわ! 転移よ! 宮廷魔導師さまだって使えない……って、驚いてる暇はなかった! エレン!」
ぼくたちは走って、村へ入る。
高速移動で、おじいさんの家へ。
アスナさんを乗せたランが、後ろから走ってくる。
ぼくは超特急で、おじいさんの待つ家までやってきた。
バタンッ!
「ジョエルおじいさん!」
部屋の中には、ベッドに横たわる……おじいさんの姿があった。
ベッド脇には、白衣を着た女性がいた。
「あなたは……?」
「孫のエレンです! ジョエルおじいさん! ぼくだよ! 帰ってきたんだよ!」
ぼくはおじいさんの元へ向かい、しゃがみ込む。
返事がない。
呼吸は浅い。顔色は……真っ白だった。
「どなた様でしょう?」
アスナさんがやってきて、白衣を着た女の人に尋ねる。
「私は医者です。ジョエルさんの診察をし、お孫さんに手紙を出したものです」
女医さんはぼくを見て、呆然とつぶやく。
「街まで馬車で10日もかかるはず……彼はいったい、どうやってここへ来たのだ……?」
「おじいさん! 目を覚まして! おじいさん!」
肩を揺すっても、ジョエルおじいさんは目を覚ましてくれなかった。
素人のぼくでも、わかる。
命の火が、消えかけているのが。
「残念ですが、すでに手遅れです。病気が末期まで進行していました。せめて……万病を治すという、【不死鳥の羽】があれば……」
「不死鳥の羽……そ、そうだ!」
ぼくは右肩に乗っている、赤い鳥を見やる。
『ふふっ、聡い子じゃ。そう、思い出したか? おぬしの相棒が、いったいなんであるか?』
強くうなずいて、ぼくは言う。
「不死鳥よ、ぼくに……おじいさんの病気を治す力をください!」
『あいわかった。好きなだけ使うがよい♡』
その瞬間、不死鳥が羽ばたく。
空中で、カレンの体が炎に包まれる。
「綺麗……」
「そんな……不死鳥……実在していたなんて……」
呆然とするアスナさんと女医さんをよそに、不死鳥は燃えながら羽ばたく。
火の粉が舞い散る。
それは炎の羽だ。
羽はおじいさんの体に、いくつも降り注ぐ。
不死鳥の炎は、ぼくの思いに反応する。
おじいさんの肉体ではなく、彼の持つ病のみを、焼く。
……そんなことが可能なの?
いや、できる。
今のぼくなら、おじいさんを救えるんだ!
『その通りじゃ。わらわと契約したことで、おぬしの人生からは、不可能と後悔の2つが完全に取り除かれたのだから!』
やがて、カレンの炎は収まり、ぼくの肩の上に乗る。
「う……うう……」
「ジョエルおじいさん! 良かった! 良かったぁ!」
「エレン……おまえ……どうして……?」
困惑するおじいさんの体に、ぼくは抱きつく。
子供のように、みっともなく泣いてしまった。
その様子を、後ろで女医さんが見ていた。
「……すごい。私は、奇跡を目の当たりにしてる。完治できないとされた病を瞬時に治し、不死鳥を従える。この少年は、いったい何者……?」
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