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37話 ディーナの失敗、戻らぬスキル



 スキルを取り戻すため、本心を隠してテイマーの少年に謝罪することにした。


 トーカの街の、冒険者ギルドにて。


 ギルド会館の酒場にて、エレンはパーティメンバーと、食事をしていた。


「エレン……」

「ディーナさん……? どうしたの?」


 彼の前に立ち、ぐっ、と歯がみする。


「パーティに……入れてください、お願いします……」


 深々と、彼女は頭を下げた。


「……お、おいディーナが頭下げてるぞ」

「……あのプライドの高いエルフ女が、う、うそだろ?」


 下等生物にんげんたちから、にんげんに頭を下げている姿を見られるのは……嫌で仕方が無かった。


 けれど、我慢だ。


「きゅ、急にどうしたのディーナさん?」

「……エレン、聞いて。私の、現状を」


 現在、ディーナはどのパーティにも所属していなかった。


 元々はザックのSランクパーティにいた。

 だがパーティはザックの悪行によってSランク剥奪のうえに解散。


 新しいパーティに入れて貰おうとしても、誰もディーナを入れてくれない。


 ザックという、犯罪者のパーティに所属していたからだ。


 麻痺で置き去りにしたのも、ディーナが自分の意思でやったのではないか。


 そういう悪評が山火事のように、あっという間に広がってしまった。


「そんな……可哀想……」


 エレンが、哀れみの表情を浮かべる。


 ……人間ごときが、このエルフ様に同情などするな! 


 心の中で湧き上がる激情を、ディーナは高すぎる自尊心によって押し殺した。


 すべては、魔法を取り戻すため。

 スキルが元通りになれば、こんな屑、二度と頭など下げるものか。


========

精霊使いへの敵対行為を関知しました。


ディーナへのペナルティを実行します。


→【賢者のスキル】喪失による再申請は、棄却されました。

→【賢者の精霊核エレメント】の複製を中断します。


ペナルティが合算されます。

→【賢者】スキルを永久的に失いました。

→魔法の使用権限を永久に剥奪しました。

※今後再申請は全て自動却下されます。

========


 精霊王は冷酷に、ジャッジを下す。


 エレンは知らない。


 この判断はあくまでも、彼を愛する精霊の王が下したものだから。


「……もう誰も私とパーティを組んでくれないの。お願い、エレン……あなただけが、頼りなの」


 劣等種に媚びへつらっていることが、ディーナの怒りをさらに燃え上がらせる。


 憤怒の炎に身を焼かれていても、彼女の高い高いプライドが、理性的な行動を取らせていた。


「……事情はわかったよ。ディーナさん」

「それじゃあ! パーティに入れてくれるのね!」


「ただし、ひとつだけ。条件があるんだ」


 条件だと? ……図に乗るなよ下等生物が! という気持ちを、グッと抑える。


「条件って……なにかしら?」

「謝って欲しいんだ」


「ああ……あなたに麻痺をかけて、地下に置き去りにしたこと? でもあれはザックに命令されて仕方なく……」


「ううん、違う。ぼくにじゃない」


 エレンは、背後で縮こまっていた、ティナを見て言う。


「ティナに……謝って」

「なっ……!?」


「あなたは前に、ぼくらと出会ったとき、妹であるティナに、酷いこと言ったよね」


 確かに、落ちこぼれの妹だの、才能が無いだのと、言ったことがある。


「あれは事実を言ったまでじゃない!? どうして謝らないといけないのよ!」


 エレンの顔が、不愉快そうに歪む。

 イケナイ……! とディーナは慌てる。


 精霊使いを怒らすことは、すなわち、精霊に嫌われてしまうことと同義だからだ。


 ……まあ、もっともすでにかなり手遅れではあるのだが。


「ティナの心をあなたが傷つけたのは事実だ。ぼくは仲間を傷つけるひとを、絶対に許さない」


「エレン……ありがとう……」


 くすん、とティナが涙を流す。

 エレンは微笑んで、妹の頭をなでる。


 ……腹立たしい。

 腹立たしい、あぁ腹立たしい!


 ディーナは怒りで憤死してしまうところだった。


 人間ごときの命令に従わなければならないこと。


 自分が見下していた相手に、謝罪しなければならないこと。


 何より許せないのは、全てにおいて劣っているティナが、何の努力もせず、精霊使いに好かれていることだ。


 自分の方が美しい。

 自分の方が賢者としての経験が長く、役に立つ。

 自分の方が、パーティメンバーとして、長く時を共有してきた。


 誰がどう見ても、ティナよりも、好かれて当然なはずなのに。


 エレンが選んだのは、自分が下に見ていた、落ちこぼれの妹だった。


「ディーナさん、謝って」

「うぐ……ぐぎぎ……」


 バキッ! と奥歯が砕けた。

 それほどまでに、ディーナは妹に頭を下げるのが、嫌だった。


「どうしたの? 謝ってくれないの……?」


 エレンの瞳に、失望の念が浮かぶ。


「わ、わかった! わかったから! 謝れば良いんでしょう!?」


 ディーナは妹の前に立つ。


 もう、嫌で嫌でしょうがなかった。

 なぜこんな愚かなる妹に、こんな人目のある場所で、謝らないといけないのか。


「ティナ……」

「姉さん……」


 湧き上がる激しい怒りを、エルフとしてのプライドがねじ伏せる。


 そうまでしても、ディーナは魔法の力を、取り戻したいのだ。


「申し訳……ございません、でした……」


 ディーナは深々と、妹に頭を下げる。


「……ディーナがまた頭下げたぞ」

「……お高くとまったエルフ女が謝罪するとか、初めて見たわ」

「……つーか、エルフってもっと気高い存在だと思ってたのにさ。人に頭下げるとか、なんかがっかり」


 ギャラリーの言葉が、ディーナにさらなる屈辱を与える。


 なぜ、上位存在たるエルフが、底辺の人間どもに馬鹿にされなければいけないのか!


 魔法が使えれば、この場の人間を皆殺しにしてやるのに!


 なのに……できない。

 魔法の力がたとえ戻ったとしても、戻った力を使って人を襲えば、エレンの不興を買う。


 無敵の魔法も、エレンの前では無力。


 所詮賢者なんて、精霊使いと比べれば下なのだ。


 それが……なおのこと悔しくて仕方が無かった。


「姉さん。もういいよ」


 ディーナは頭を上げる。

 ティナは、微笑を浮かべていた。


「今までのことは、もうこれでおしまいにしましょ。今日からアタシたち……仲間じゃない」


 頭が、真っ白になった。


 ……同情されたのか?

 この……出来損ないの妹から?


「良かった! これで姉妹で仲直りできたね、これから仲間として、よろしくディーナさん……ディーナさん?」


「うぎ、うぎぎぎ、うがぁああああああああ!」


 激しい怒り、そして屈辱。

 ディーナは狂ったように、髪の毛をかきむしる。


 確かに今、エレンは仲間と認めた。

 すなわち精霊使いの力によって、失われた賢者の力を取り戻しただろう。


「殺すぅぅうううう! ぶち殺してやるぅうううううう!」


 ディーナは右手を前に出す。

 向けるのは、ティナだ。


「私にぃいいいい! 同情するなよこの出来損ないのクソ妹がぁあああああああ!」


 もう、精霊使いがどうとか、ディーナの頭にはなかった。


 自分に劣る妹に馬鹿にされた、と思ったからだ。


「死ねぇ! この忌々しいクソ妹めぇええええ! 死ねぇえええええええ!」


 妹に向け、大魔法を発動させる……つもりだった。


 しーん……。


「そ、そんな!? なんで!? どうしてよぉおおおお!?」


 いくら念じても、魔法が発動しない。

 つまり、スキルが戻っていないのだ。


「なんで!? ねえなんでぇ!? このくそサルに! 下げたくない頭まで下げたのに! なんで戻ってないのよぉねぇええええええええ!?」


 悲痛なる呼びかけに、しかし誰も答えてくれなかった。


「ディーナさ……ディーナ……」


 ハッ……! とエレンを見やる。

 そこには、心底失望したような表情を浮かべた、エレンがいた。


「ち、違うの! 違うのよエレン! 誤解なの!」


「……行こう、みんな」


 エレンが言うと、アスナが立ち上がる。


「姉さん……ひどい……仲直りできるって思ったのに……嘘だったのね……」


 ぐすぐす、と涙を流すティナ。

 その肩を、エレンが抱き寄せる。


「待ちなさい! 待ちなさいよぉ!」


 エレンに触れようとする。

 だが、彼の前にランが立ち塞がり、ばうっ! と吠える。


 驚いてディーナは尻餅をつく。


 彼らは、仲間達だけを連れて、ギルドを後にした。


「待って! ねえ待ってお願い! 私を置いてかないで! エレン! 戻ってきて! お願いだからぁああああああ!」


 ……エレンが振り返ることは、なかったのだった。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] チェックメイトだ、クソアマ(ディーナ)。
2022/06/15 08:25 退会済み
管理
[一言] ゲスな小物の末路に、話数をちょっとさきすぎかなーと感じました。 代わり映えしない行動と結果が繰り返されすぎてて、やっとけりついたの?と小食気味です……
[良い点] 意外と主人公は顔芸が得意で感心した。 無自覚に心理戦が強いタイプ この手の話でライバルとなるキャラが退場しちゃうと一気に面白くなくなるので、出来ればこの2人はずっと絡んできて欲しい
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