35話 ザックの失敗、遅すぎた復縁要請
テイマーのエレンたちが、アリの大群を始末した、一方その頃。
ザックは冒険者ギルドの一室に、軟禁されていた。
「ちくしょう! こんなところに閉じ込めやがって……くそっ!」
本来ならギルド長が事情聴取を行った後、騎士に身柄を引き渡す。
しかし今は、鋼鉄蟻の大群が押し寄せた、という緊急時。
ザックに構っている暇もなく、拘束されたうえで、こうして一時的にここへ放り込まれているのだ。
「まぁ……アリもかなりの数がいた。対処には時間が掛かるはず。そのあいだに逃げ出す算段を考えるか……」
自分のせいで世間に混乱を招いたというのに、この男、全く反省していなかった。
「このままじゃ犯罪奴隷堕ちしちまう……なんとか逃げ出す手立てを……」
と、そのときだった。
ワァアアアアアアアアアアアア!
と、部屋の外から、すごい歓声が聞こえてきたではないか。
ザックは何事かと思って、聞き耳を立てる。
【おい聞いたか! 鋼鉄蟻の大群が、見事討伐されたってよ!】
ザックは耳を疑った。
「そんなバカな話があるか! あんなにいた敵を、ものの数時間のうちに討伐するだと!? いったい、どうやって……」
再度耳をそばだててみる。
【エレン達、【緋色の翼】が倒したらしいぜ!】
ガツンッ……! とハンマーで頭を殴られたような、衝撃がザックに走る。
「え、エレンが……Aランクモンスターの大群を……倒した……だって……」
声が震える。
脇汗がじわり……とにじむ。
「バカな……そんなバカなあり得ない嘘だこんなの嘘だ! 何かの間違いだ!」
だが、過去の記憶がフラッシュバックする。
夜道で襲いかかろうとしたとき、エレンはすごい力でザックを圧倒して見せた。
誰も発見できなかったミスリル鉱脈を探し当てたのも彼だ。
「もしかしてあいつ……とんでもなくすごい……やつなのか……?」
【でもさすがだよな。あのパーティのメンバー、アスナさんや新人のティナさんも、そうとうヤバいらしかったな】
【剣聖の剣術に、賢者の魔法とエルフの弓が、見事だったって聞いたぜ!】
ザックは首をかしげる。
「剣聖……? アスナは魔法騎士だったはず。それに……ティナってたしかディーナの妹だったような……?」
以前、ディーナから、出来の悪い妹が居ることを、雑談の中で聞いていた。
ディーナは妹には職業も魔法の才能もないと、嘲笑しながらそう語っていた。
「アスナは、より上位の職業を手に入れた。無職のティナは、賢者の職業を手に入れた……なんでだ?」
そこで、ザックはディーナの言葉を思い出す。
──エレンは【精霊使い】だったのよ。
──精霊に愛され、その力を引き出すことに長けた職業よ。無限のスキルを精霊から引き出せる、と文献にはあるわ。
──精霊に愛された人間に、嫌われると、加護を失う。
エレンに嫌われ、スキルを失った、ザック。
エレンに好かれ、スキルを得た、アスナとティナ。
「……ディーナの言葉は、本当、だったのかよ」
諸々の状況証拠から、ようやく、エレンのすごさを実感した。
「精霊使い……か。く、くくく……ぐひゃひゃひゃ! なるほどなるほど、そーゆーことかよぉおおお!」
不要だと切り捨てたあの少年を、お荷物テイマーだと当初は馬鹿にしていた。
しかしそれは間違いだった。
彼は、幸運をもたらす存在だったのだ。
「そうと決まれば話は早い!」
ザックは靴に仕込んでいた小刀で、拘束されていたロープを切る。
「あのガキに媚び売っときゃ、精霊に愛され力を取り戻すわけだ! しかも、スキルと成功まで保証されるときた!」
Aランクモンスターの大群を退けたとなれば、エレン達は英雄扱いをされるだろう。
今、この場で彼をパーティに引き入れれば、ザックの罪も帳消しになる。
英雄のパーティメンバーなのだ。
多少のおいたは免除してくれるはずだ。
ロープを切ったザックは、ぐっぐっ、と屈伸する。
「後はエレンが帰ってくるのを待つ……」
【来たぞ! 英雄のご帰還だぁ!】
ちょうど都合の良いことに、エレンがギルドに来たらしい。
にやりと笑い、ザックは部屋を飛び出る。
「え? おいザック! おまえ……」
「どけ! モブ冒険者がぁ!」
廊下にいた冒険者達を押しのけて、急いで1階へと向かう。
そこには帰還したばかりのエレンが、数多くの冒険者に囲まれて、賞賛されていた。
「おお! 帰ったか、わが親友エレンよぉ!」
ザックは駆け足で、エレンの元へと向かう。
「ザック……」
「聞いたぞエレン! すごい活躍をしたみたいじゃないか! 【パーティメンバー】として、鼻が高いよ!」
なれなれしく、ザックがエレンの肩に手を置く。
「なぁエレン。戻って来いよ。おれのパーティにさ」
「は……?」
目を丸くするエレンに、ザックが続ける。
「おまえを無能と誤解してた。おまえはたいしたヤツだった。おまえを追放したおれが間違ってた」
別に自分に非があるなんて微塵も思っていない。
だがこうしておだててやれば、エレンも気持ちよくザックの提案に乗るだろうと思ったからだ。
「戻って来いよ、エレン。おれたちの、Sランクパーティにさ」
そう、なんだかんだ言ってまだ、ザックのパーティはこの世界最高峰のパーティとしてのブランドがある。
「今のお前の実力なら、このパーティにふさわしいと思うんだよ。アスナとティナもいれてやってもいいぜ? なぁエレン、帰って来いよ。また一緒に冒険行こうぜ」
別にエレンと冒険なんてしたいとはこれっぽっちも思っていない。
ザックの頭の中にあるのは、打算のみだ。
英雄を引き入れて、英雄パーティとなれば、ザックの起こした不祥事はうやむやにできる。
さらに精霊使いを引き入れれば、失ったスキルは帰ってくる。
しかも成功のおまけ付きだ。
「なぁほらエレン! Sランクパーティとして一緒に……」
「悪いけど、断るよ」
「へ?」
目を丸くするザックに、エレンが言う。
「ぼくはもう、大切な仲間とパーティ組んでいるから、ザックのパーティには戻らない」
きっぱりと、エレンから拒絶された。
「お、おいおいおい! なに血迷ってるんだよぉ! Sランクパーティからの勧誘だぜ? こんなの……滅多に入れないんだぞぉ!?」
「知らないよ。ぼくはぼくで、Sランクを目指すから」
「い、いやいや! 何年かかると思ってるんだよぉ! 今ならすぅぐにSランクパーティ入りだぜぇ? ギルドから金借り放題! そのほか特権もりだくさん! 左うちわな生活がすぐ手に入るんだよぉ!」
「だから、要らないって言ってるだろ!」
エレンに気圧され、ザックは尻餅をつく。
「そんなもの欲しくない! ぼくが欲しかったのは、信頼できる最高の仲間だ! それは、もう手に入れてる!」
エレンの背後には、アスナ、ティナ、そして彼の使い魔達がいる。
ギリ……と歯がみする。
「あ、あーあ! ばーかじゃねえの! せっかくSランクパーティになる機会を棒に振ってさぁ!」
と、そのときだった。
「それは間違いです、ザック様」
受付嬢が、こちらにやってくる。
「エレン様のパーティ【緋色の翼】は、今回の活躍でSランクパーティに昇格しました」
「なっ、なんだってぇええ!?」
ザックは驚愕の表情を浮かべる。
「ふざっけんな! こいつら新設したばかりのFランクパーティだろ!? それが一気にSだと? 前代未聞だろ!」
「ええ。ですが、今回の活躍を勘案し、ギルドマスターが、【空いた席】に【緋色の翼】を据えると判断なさったのです」
「そんなバカな……って、待て! 待て待て待て!」
ザックが青い顔になる。
「いま、なんて言った! 【空いた席】って、どういうことだよ!?」
「言葉通りの意味です、ザック様のパーティは、Sランクパーティの権利を剥奪された、ということです」
どさ……とザックがその場にへたり込む。
「そ、そんなぁ~……どうしてぇ~……」
はぁ、と受付嬢が呆れたようにため息をつく。
「あなたのしでかした数々、それはもはや無視できないほどになっていました。よって、あなたのSランクパーティは解散。あなたのギルド証は剥奪」
つまり……。
「ザック、あなたはギルドから追放処分される、ということです」
ぽかん……とザックは大きく口を開く。
「おれが……追放? このおれが……勇者の……おれが……?」
呆然とつぶやくザック。
一方で、受付嬢が、他の職員に言う。
「ギルドマスターをすぐに呼んできて。尋問の後に騎士に身柄を引き渡します」
「いやだ……いやだぁああああああ!」
ザックは必死になって、エレンの足にすがりつく。
「エレンぅううううう! お願いだぁあああああ! おれを、パーティに入れてくれぇえええええええええ!」
泣き叫びながら、ザックが懇願する。
「もうパーティに入れなんて言わない! たのむ! 悪かった! おれが悪かったよぉ! だから頼むよぉ! おれをパーティに入れてくれぇえ! Sランクの地位を失いたくないんだよぉおおおおおおお!」
だが、エレンの目は、ゴミを見るような目だった。
決して、仲間に向けるような目では、ない。
がちゃがちゃ、とギルド職員が、ザックを拘束する。
「立て!」
「嫌だぁあああ! たのむよおおお! エレンぅううう! おれたち、仲間じゃないかぁああああああああああ!」
しかし、エレンは言う。
「ザック、あなたはぼくの仲間じゃない。真の仲間は、たとえどれだけ使えなくても、支え合って、時には救いの手を差し伸べるものだよ。……そう、アスナさんのように」
「アスナぁああああ! てめえひとりだけ美味しい思いしやがってぇえええ!」
ザックは拘束をふりほどき、アスナに向かって殴りかかる。
だがエレンが間に入ると、拳を振るった。
「ぶべぇええええええええええ!」
凄まじい威力の拳を食らって、ザックは吹っ飛び、地面に激突する。
「ぼくの仲間に……手を出すな!」
「ぢ、ぎ、しょぉ~……ぢくしょぉ~……」
ザックは悔し涙を流しながら、気を失うのだった。
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