205話 はじまりの街へ
僕、シンラ。エレン父さんとルルイエ母さんの息子!
僕は故郷の精霊界をあとにして、人間界へとやってきたんだ。
「わぁ……! すごい……ここが人間の街かぁ! でっかいなぁ!」
僕がいるのは【トーカ】という街。
ここはなんと、父さんがかつて冒険者やっていたときに、拠点だった街なんだって。
「オジサン、送ってくれてありがとう!」
道中で知り合った商人のおじさんに、ここまで案内してもらったんだ。
「なんのなんの、命の恩人だからね君は」
「エリエスちゃんもありがとね!」
オジサンの運転している馬車の馬のことだよ。
僕はエリエスちゃんの顔をよしよしとなでる。
「それでシンラくん、これからどうするんだい?」
「冒険者になる!」
「なるほど……じゃあ冒険者ギルドにいって、登録しなくてはならないね」
「ギルド……? 登録……?」
どうやら冒険者は登録制なんだって。
ギルドって言う、冒険者たちの寄り合いに登録しないと駄目なんだそうだ。
「そうなんだ! 知らなかったぁ」
「はは、シンラくんメチャクチャ強いのに、結構色々知らないんだね」
「うん! 僕、生まれも育ちも精霊界で、外に出たことなかったからね!」
ルルイエ母さんが外にでたら危ない! といって外に出してくれなかったんだ。
「そりゃ過保護な母ちゃんに育てられたなぁシンラくん」
「でしょー? 外に出て英雄になりたいって言っても出してくれなくてさー」
僕は母さんの言葉を思い出す。
『いいかいシンラ。君は勇者であるエレンと、精霊王であるぼくの血と力を100%受け継いでいる。つまり君は常人とは桁外れの力を持った最強の精霊使いなんだ。力が制御できないうちは、外に出たらヤバいんだよ』
だって。
よくわからん!
「まあ何はともあれ、ギルドに登録しないことには冒険者にはなれない。おれがギルドまで案内してあげよう」
「ほんとっ! ありがとう! オジサンやさしいね!」
外って危ないって母さん言ってたけど、ほらいい人ばっかりじゃん!
全然危なくないよ。モンスターも今まで見かけてこなかったし!
空飛ぶトカゲくらいだったからね。
オジサン飛竜とか言ってたけど。
「じゃ、行こうか」
オジサンは馬車を人に預ける。
いっしょにトーカの街を歩いて、冒険者ギルドを目指す。
人間だけじゃなくて犬耳が生えたひとや、尖った耳の変な人も居る。
「獣人にエルフっていうんだ」
「へえ! あれがうわさの……初めて見たよ!」
「はは、獣人もエルフも見たことないなんて、すごい田舎からきたんだねぇ」
「うん。だから精霊界から」
「ははっ。精霊達の生まれ故郷といわれる、伝説の聖地から来たのかい。それじゃあ下界の常識を知らなくてもおかしくないねぇ。本当ならね」
「ほんとだってばー、もう信じてよー」
オジサンは僕が冗談言ってるって思ってるらしい。
うーん、本当なのに……。
トーカの街は色んな種族が入り交じっていた。
どこでも店が開かれて、冒険者や商人などたくさんの人たちが行ったり来たりしている。
「都会ってすげえ……!」
「まさか。ここは田舎の方だよ。王都へいけばこの比じゃないくらい人がいっぱいだ」
「マジで!? す、すげえ……!」
世の中人間ってこんなたくさんいるんだ!
そんなふうにショックを受けながらも、僕は新生活に期待で胸を膨らませる。
これからどんな出会いがあるんだろう……楽しみ!
ややあって。
「ここが冒険者ギルドだよ」
オジサンといっしょに僕はギルドに到着していた。
レンガ造りの二階建て。
手前は酒場みたいになっていた。
たくさんの冒険者達があちこちで酒を飲んでいる。
今から僕も……冒険者になるんだ!
「まずは登録を済ませよう。ついておいで」
「なにからなにまでありがとっ!」
「いいってこった。気にすんな」
オジサンちょーいい人。
何かお返ししたいなぁ。
そうだ! 精霊さんにお願いしてって……っと。
「ん? どうしたんだい?」
「なんでもないよ!」
オジサンの体に精霊がまとわりつく。
これで、よし!
僕はオジサンの後をついて行く。
「こんにちは、本日はどのような御用向きでしょうか?」
受付にはお姉さんが座っていた。
「この子が冒険者になるんだ。登録を頼むよ」
「シンラ・バーンズです! よろしくお願いします!」
初めての人にはちゃんとアイサツを。
わかってるよ父さん!
「まあ礼儀正しい子ですね。ん……? バーンズ? エレンくんと同じ……? いや、まさかそんなこと……」
ぶつぶつと受付嬢さん(そう言うんだって)がつぶやく。
「おねえさんどうしたの?」
「あ、ううん! なんでもありません。では登録しますので、少々お待ちください」
紙に名前をかいただけで登録作業が終わってしまった。
「簡単だね」
「まあな。冒険者っていうのは結構ゆるいんだよ。流れ者や外れ者がなる場合も多いからな」
「どーゆーこと?」
「つまり、経歴や肩書きをあまり気にしない自由な奴らの集まりなんだ。だからそこまで入るのに色々厳しく言われないってわけ」
なるほど……! 僕でもなれるって事か。ほっとした!
「では登録料をお支払いください」
「とーろくりょー? え、お金いるの?」
「ええ、そうですよ」
しまった、人間のお金なんてもってないよ。
「ああ気にするなシンラくん。おれが払うから」
オジサンが懐から革袋を取り出す。
いや……だめだ!
父さんが言っていた、人の好意に甘え過ぎちゃ駄目だって!
「あの……そうだ。買い取りってしてもらえるんだよねっ?」
「モンスターの買い取りですか? ええ、行ってますよ?」
「モンスターじゃないんだけど……いい?」
「? とりあえずものを見せてもらっていいですか?」
僕は亜空間にしまってあった、ここに来る途中で倒したトカゲの死体を、カウンターに置く。
「なっ!? こ、これは……!」
お姉さんが目を剥いて叫ぶ。
あれれ、どうしたんだろう?
「わ、飛竜じゃないですか! どうしたのこれ!?」
「えー、トカゲだよ。なに飛竜って」
「いや飛竜! モンスターだから!」
「あははっ、お姉さん変なこと言うね! モンスターがこんな弱いわけ無いじゃん!」
父さんは昔、モンスターをたくさん倒したって言っていた。
あの英雄の父さんが戦っていた相手だよ?
こんな雑魚な分けないじゃん!
「………………」
受付嬢さんがなんか絶句していた。
「わかるぜ嬢ちゃん。だがまあ……こういう子なんだ。世話してやってくれ。えっと名前は……」
「あ、えっと……アリナです」
「アリナ嬢ちゃん。よろしくな、シンラくん。この姉ちゃんの言うこと、よーく聞くんだぞ」
僕はオジサンに向かってうなずくのだった。
★
英雄の息子シンラとわかれた商人は、馬車にのってトーカの街を離れていた。
「しかし面白い子だったなぁ。シンラくん。まさか……本当に勇者様の息子……なわけないか」
ないない、と商人は首を振る。
『おっちゃん、精霊の加護さずけておいたから!』
去り際、シンラが何か妙なことを言っていたことを思い出す。
「精霊の加護……? どういうことなんだろうか……」
と、そのときである。
いきなり馬が走り出したのだ。
「お、おいおいエリエス、どうしたんだよ?」
「ぶひひーん!」
もの凄い速さで駆けていく。
たどりついたのは、人気の無い森の中だ。
「こんな場所どうした……ん? んん!?」
商人は気付く。
そこら一面に、青く輝く珍しい花が咲いていることに。
「こ、こ、これは万能花! 万能薬の材料になる、超レアアイテムじゃないか! それが……こんなたくさん!?」
それだけではなかった。
この日以降、商人は次から次へ、幸運が続いた。
珍しいアイテムをゲット。レア鉱石の鉱脈たまたま見つける。
等々、幸福が次々とふりかかってきたのだ。
のちに、大成した商人は言う。
「シンラくんという、不思議な少年との出逢いが運命を変えてくれました。彼はまるで……幸運をおれに与えてくれたかのようでした」
そのとおり、シンラはお世話になった商人に、幸運の精霊の加護をさずけたのだ。
かつて精霊王が人から精霊の加護を奪っていたのとは対照に、この少年は精霊の加護を与えていた。
母と真逆のことをしていた。
それは母の犯した罪の贖罪……という自覚はない。
それでもルルイエが産み、育てた子どもが、こうして世界の人々を無自覚に幸せにしていく。
それはルルイエの贖罪の意味もあったのだろう。
【※お知らせ】
新作の短編、書きました!
【タイトル】
口下手ギルド職員、早く帰るためSランク召喚士としてボスを倒してた〜「定時で帰るから」とギルド追放した癖に、今更戻ってこいと言われても遅い。僕は病気の妹のためホワイトな冒険者ギルドに再就職した
【URL】
https://ncode.syosetu.com/n4754hc/
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頑張って書いたので、読んでくださると嬉しいです!




