204話 僕は普通ですよね?
僕、シンラ!
エレン父さんとルルイエ母さんの息子さ!
今、僕は街に向かっている途中だった。
トカゲに襲われてる商人のオジサンを助けたところなんだ。
「オジサン、ありがとう! 街まで載せてくれて!」
「なんのなんの。君はわしを助けてくれたからね。これくらい当然さ」
オジサンは運転席に座っている。
一方で、僕は荷台にのっていた。
飛んでいった方が早いのは確かなんだけど、僕、下界の地理しらないからねー。
オジサンは商人だし、色々街知っているってことで、載せてもらってるんだ。
「シンラ君はどこから来たんだい?」
「精霊界!」
「せーれーかい? ……聞いたことないね」
「え、うそー。おじさん精霊界知らないの?」
「聞いたことないなぁ~……」
精霊王ルルイエ母さんをはじめとして、アドラお爺さんとか、精霊がたっくさんいる場所。
それが精霊界。
うーん……有名な場所だと思ったんだけどなぁ~。
「精霊界って場所は、どこにあるんだい?」
「あっちかな」
僕は背後の大きな山がある方をさす。
「山超えてきたのかい! すごいなぁ」
え? 違う違う。あの奥の海と、山と、また海を越えた先にある孤島に存在するんだけど。
「ここまでどれくらいかかったの?」
「一日かなー」
「へえ! 一日で山越えかい! すごいなぁ」
「いやいや、山と海と山と海超えてきたよ」
「ははっ、シンラくんの冗談は面白いなぁ」
あれれ、信じてくれてない?
なんでだろう……?
「ほんとだってば。飛行魔法を使えばそれくらいの距離あっという間だよね?」
「飛行魔法? おいおいシンラ君。飛行魔法なんて超高度な魔法、普通の人は使えないんだよ?」
え、うっそぉ。
父さんも母さんも普通に空飛んでたよ。
なんだったらアドラおじいちゃんもカルラおばあちゃんも、兄妹たちもみーんな空飛べるのに……。
ハッ……! そ、そうか……!
「オジサン、ごめんね!」
この人……飛べない系の人なんだ。
父さんが言っていた。
『シンラ、外に行きたいならよく覚えておくんだ。自分ができて当たり前のことがね、他人もできるとは限らないんだよ』
って!
つまり、周りの人間の皆は飛べるけど、オジサンだけは飛べないんだ……!
しまった! オジサンに辛い思いさせちゃったかも!
「? 何を謝ってるんだいシンラ君?」
オジサン……みんなが当たり前のように飛べるのに、自分だけ飛べないで辛いだろうに……。
普通に振る舞っている……辛いだろうに……強い人だなぁ。
「オジサン、困っていることがあったら何でも言って! 僕……できる限りのことはするよ!」
「ははっ! シンラ君は良い子だねぇ。まあ困ってるって言えば……そうだなぁ。うちの相棒がもう歳でさ。引退させようか悩んでいるところだよ」
オジサンが前を歩くお馬さんの首を優しくなでる。
「最近歳だろうな、走る速度が日に日に遅くなっているんだ。引退させるべきかな」
オジサンが寂しそうに言う。
「どうなの?」
僕はお馬さんに聞いてみる。
『…………』
「ねえお馬さん、走れる?」
『わっ! び、びっくりしたぁ……きみ、わたしの言葉がわかるの?』
「え、当たり前でしょ?」
精霊界じゃ皆動物と話してたし……え、普通だよね?
「シンラ君、誰と話しているの?」
「このお馬さんとだけど?」
「ははっ。夢のある話だね」
「夢って言うか現実なんだけど……ねえ、君、なんて名前?」
僕はお馬さんに尋ねる。
『エリエスよ』
「エリエスちゃんって言うんでしょこの子」
オジサンが目を剥いてぼくを見やる。
「な、なんでそれを……? わしはまだ名前教えてないのに……?」
「? 本人が言ってたじゃん。ね、エリエスちゃん」
『す、すごいわねあんた……』
困惑するお馬さんとオジサン。
「ね、エリエスちゃんはもっと走っていたいよね? オジサンと」
『そ、そうね……ずっと。でも……あたしのせいで荷物が遅れるのは、心苦しいわ』
エリエスちゃんがしょぼんと首を下げる。
「だいじょうぶ! 君を元気にしてあげるよ!」
僕はぺたん、とエリエスちゃんのお尻を手で触れる。
『きゃっ! なにすんの! って……ええ!?』
「なにをして……って、ええええ!?」
エリエスちゃんも、オジサンもなんか目を向いて叫ぶ。
「『は、羽が生えたぁあああああ!?』」
エリエスちゃんが空を駆けている。
え、何に驚いてるのかな?
「ど、ど、どうなってるんだいこれはぁ!?」
「え、普通に【空歩】のスキルを付与しただけだよ?」
「スキルの……付与だってぇ!?」
あれれ、何に驚いてるんだろう?
ルルイエ母さんも、エレン父さんも普通にできるし、僕も兄妹もできるし……外の人たちも普通にできるよね?
「これでエリエスちゃんともっと働けるね! よかった!」
『う、うん……ありがとう……』
「シンラ君……きみ、何者なんだい?」
ふたりに聞かれたので、僕は答える。
「僕はシンラ! エレン父さんと、ルルイエ母さんの間に生まれた……普通の子さ!」
するとふたりが声を荒らげる。
「『きみは、普通じゃない!』」
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