203話 勇者と精霊王の息子、下界に降り立つ
ある晴れた春の日のことだ。
故郷を出発した僕は、草原の上を飛んでいた。
そんなとき、僕は眼下に困っている人を見つけた!
「だいじょうぶですか!」
僕はすぐさま降りたって、その人の元へ向かう。
「君は……?」
「僕、シンラ!」
「シンラくんか。見たところ……冒険者かな? 腰に剣を差しているし」
商人風のおっちゃんが、僕の格好を見て言う。
「ううん。これから冒険者になるために、故郷を出てきたところさ!」
「おお、そうか。なら、悪いんだが手伝ってくれないかい? 馬車の車輪が泥にハマって動けなくなってしまってな」
右後方の車輪ががっつりと泥にハマっていた。
「うん、わかったよ!」
「いいのかい? 先を急いでるんじゃないの?」
「いい! 困っている人がいたら助けなさいって、父さんが言ってたからね!」
「そうかい。立派なお父さんだね、シンラくんのパパは」
「もちろん! 自慢の父さんさ! へへ!」
僕は荷台の後ろに立つ。
「じゃあ、せーので、おじさんと一緒に馬車を押してくれないかい?」
「え? 大丈夫だよ、僕一人で」
「え? いやいや、シンラくん。荷台には荷物がたくさん積んであるんだ。とてもじゃないが、君みたいな小柄な男の子じゃ……」
「よいしょ」
「なっ!? なにぃいいいいいい!?」
僕は左手で荷台を掴むと、ひょいっと持ち上げる。
そのまま荷台を下ろす。
「え、どうしたの?」
「い、いやいや! 大人だって持ち上げることはできないんだぞ!」
「そんなことないよ。父さんはその昔、竜を片手で持ち上げたことがあったんだから。それと比べたら大したことないよ」
「りゅ、竜!? え!?」
僕は荷台を下ろす。
馬がびっくりしていたけど、その頬をよしよしと撫でた。
「これでいい?」
「あ、ああ……助かったよ。君、凄いな。馬車を片手で持ち上げるなんて」
「えへへっ。父さんと比べたらたいしたことないよ」
「竜を持ち上げるなんて……君のお父さん、何者なの?」
「父さんは……」
と、そのときだった。
「ねえ! おじさん。トカゲがこっちに飛んでくるんだけど、どうする?」
「トカゲ?」
「うん。トカゲ。多分馬を狙ってるのかな」
「ははっ。トカゲなんて気にしなくてもいいよ。そのうち通りすぎるだろうし」
「ふーん。そっか」
ほどなくして、【トカゲ】が僕らの上空にやってくる。
「ど、どしぇえええええええ! わ、飛竜ぅううう!?」
おじさんが上空のトカゲを見て腰を抜かす。
「え、どうしたの?」
「し、シンラくん! 逃げるんだ! 相手はBランクの竜種、飛竜!」
「? え、どこにそんな凄そうなのいるの?」
「真上! 君の真上!」
上を見上げても、いるのはトカゲだった。
精霊界でよく見るあれね。
「よくわからないけど、アレが怖いの?」
「あ、ああ……おしまいだぁ……」
「大げさだなぁ。トカゲくらいで」
上空からトカゲが急降下してくる。
「ひぃいいいいいいい!」
大きな口を開けて、ぼくらを食べようとする。
ぼくは軽くしゃがんで、ジャンプ。
「そい」
トカゲのアゴを軽く蹴り上げると、ぱぁん……! という音ともに、トカゲが粉々に砕け散った。
「もう大丈夫だよ!」
「はえ…………?」
パラパラと降ってくるトカゲの破片を見ながら、呆然とおじさんがつぶやく。
「な、何が起きたのかね……?」
「え、ただトカゲを蹴っただけだけど?」
愕然とした表情で、おじさんが僕を見やる。
「どうしたの?」
「いや…………その、君、何者? 飛竜を蹴っ飛ばして倒すなんて……」
「僕はシンラ! エレン父さんとルルイエ母さんの息子さ!」
ぽかーん……とおじさんが凄い表情をしていたけど、どうしてだろう?
ま、いっか!
人助けできたんだから! これでまた少し、父さんみたいな英雄に近づけたよね! やったー!




