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25話 ディーナは失い、ティナは得る



 ぼくたちはエルフの里を出て、トーカの森の近くまで帰ってきた。


 街の中にテレポートするのはまずいからね。


「ぐすん……エレン……ありがとう……。アタシのために怒ってくれて……」


 ティナがぼくのことを、きゅっ、と抱きしめる。


 暖かい体温と、ほのかな胸の膨らみに、ぼくはクラクラしてしまう。


「嬉しい……アタシ、あんなふうに優しくされたの、あなたが初めてよ……」


「そっか……。本当に、酷い目にあっていたんだね」


 ティナは幼少のころから、魔力がゼロに近く、また魔法の才能が一切なかったらしい。


 ぼくはそれを聞いて、不憫に思った。


「ティナ、もう泣かないでいいよ」


 スッ……と彼女に手を伸ばす。


「な、なにするの……?」

「精霊に呼びかけてみる。ティナに魔法の力をくださいって」


「そ、そんなこと……できるわけが……」


========

精霊使いの能力が発動しました。


ティルティーナに【賢者】の精霊核エレメントを付与しました。


【賢者のスキル】を入手しました。

========


「ティナ。これでもう大丈夫」

「どういう、こと?」


 そのときだった。


「……そこにいるの、もしかしてティナ?」


「【ディーナ】姉さん!」


 かつてのパーティメンバー、賢者のディーナがいた。


 彼女の後ろには、護衛らしき冒険者の姿があった。


 ディーナは、ぼくらに近づいてきた。


「……奇遇ね、エレン。アスナ。ここで何をしてるの?」


 ぼくが答える前に、アスナさんが前に出ていう。


「クエストの途中よ。そっちこそ、何をしてるの?」


「……私は精霊力を回復する薬草の採取よ」


「精霊力……なに、それ?」


 ディーナは、しまった、みたいな顔になる。


「……なんでもないわ。ところで……ティナ。ここで何をしてるのかしら?」


 ティナに近づく。

 妹はビクッ、と体を震わせると、うつむきかげんに答える。


「里を、出たわ」

「……あらそう。ついにお父様に捨てられたのね、あなた。哀れな子」


 はぁ、とディーナがため息をつく。


「……里を出てなにをするの?」


「ティナは冒険者になるんだ。ぼくたちとパーティを組んだんだよ」


 ディーナは目を丸くする。


「……よした方が良いわ。あなた、才能ないもの」


 冷ややかに、彼女が言う。


「……魔法の才能がない落ちこぼれのあなたに、冒険者が務まると思って? そんな単純な理屈もわからないの? そんなに馬鹿なの?」


「そんなことないよ! ティナはもう昔と違うんだ!」


 そのときだった。


「グロオオォオオオオオオオ!」


 森の奥から、大きな【熊】が出現した。


「【血塗れ熊ブラッディ・ベア】よ! Aランクのモンスターだわ!」


 アスナさんが剣を抜いて、ティナをかばうようにして立つ。


 ディーナは青い顔をして、懐から煙り玉を取り出す。


 それを地面にたたきつける。


「わぷっ! え、煙幕……? なんで……?」


 彼女ならAランクくらい、容易く魔法で倒せると思うのに……。


 気づいたら、ディーナは消えていた。

 どうやら逃げたみたいだ。


「グロォオオアアアアアアアア!」


「たぁっ!」


 先読みスキルで血塗れ熊の動きをよみ、そのみぞおちに、ぼくは拳をたたきつける。


 吹っ飛んでいった熊は、木に体を激突させる。


「ぐ、グロォ……!」

「まだ生きてるわ! エレン!」


 ぼくはティナを見て、言う。


「ねえ、ティナ。とどめは君に任せてもいい?」


「な、なにを言ってるの……! アタシは魔法の才能が……」


「信じて。君のなかの、精霊ちからを」


 困惑するティナの手を、ぼくは取る。


「あっ……」


 ぴくんっ、とティナが小さく体を震わせる。


「賢者のスキル、使い方わかる?」

「え、ええ……だって、姉がそれを使ってたもの……」


「じゃあお姉さんが使ってたとおりに、やってみて」

「でも……」


 血塗れ熊が立ち上がると、ぼくらにかけてくる。


 カレンがぼくを励ましてくれたように、今度は、ぼくが仲間を励ますんだ!


「大丈夫、ぼくを信じて!」


「……わかったわ!」


 ティナは目を閉じて、精神を集中させる。


「賢者のスキル【詠唱破棄】! 【業火球バーン・ストライク】!」


 突如、ティナの目の前に、灼熱の火の玉が出現。


 それは高速で飛翔し、血塗れ熊の土手っ腹に命中した。


「グロォオオオ…………」


 激しい爆風とともに、血塗れ熊はその場に膝をついて、倒れる。


「うそ……魔法が……使えた」


 ぶるぶる、とティナが体を震わせる。


「今まで……いくら練習しても……使えなかったのに……」


「良かったね、ティナ。すごいよ!」


 だきっ! とティナがぼくを強く抱きしめる。


「ありがとうエレン! あなたのおかげよ! 本当にありがとう!」


 むぎゅーっと、強く抱きしめられる。

 苦しかったけど、笑っているティナが見れて、良かった。


「そんなっ! 嘘よぉ!」


 どこからか、金切り声が聞こえてきた。

 茂みの向こうに、ディーナがいた。


 青い顔をして、ディーナが妹を指さす。


「そ、それは……賢者のスキル。私の……スキルよ……!」


 ダッ! とこちらに彼女が駆けつけてくる。


「返して! 私の力! 返して! 返してよぉ!」


 一体全体、なにを言っているのか、ぼくにはわからなかった。


「返すもなにも……ディーナさんにも賢者のスキルがあるでしょ?」


「違う! 違うの! 私のは……」


 と、そのときだ。


「わんわんっ! あおーん!」


 ランが敵の接近を、ぼくに教えてくれる。


『若様! 大量の血塗れ熊です! おそらくは若様の魔力に惹かれてやってきたのかと』


 ぼくはうなずき、仲間達を見やる。


「アスナさん、ティナ、やろう!」

「ええ!」

「了解!」


 ティナが手を前に出す。


「【風烈刃ウィンド・ストーム】!」


 突如、嵐が発生する。

 それは木々をなぎ倒しながら、大量の血塗れ熊たちを上空へと放り投げる。


「聖剣技……【光刃乱舞】! せやぁああああああああ!」


 アスナさんの振るった剣が、光の刃となって、地上の残りの熊たちを滅多斬りにする。


「【不死鳥の火矢フェニックス・アロー】!」


 上空の熊たちめがけて、ぼくは強烈な一撃をお見舞いする。


 炎は風に巻かれてさらに燃え上がり、大量の血塗れ熊たちを、瞬殺した。


「う、そ……なんて……力なの……」


 ディーナが、膝をついて、がくん、と頭を垂れる。


 一方でぼくらは、3人でハイタッチをかます。


「パーティの初陣にしては、上出来よね!」


「うん! ティナ、これからもよろしく!」


 ぼくたちは固く握手を交わす。


「え、エレン!」


 ディーナが青い顔をしながら、ぼくに近づいてきた。


「私をパーティに入れなさい!」


 血走った目で、ディーナがぼくの肩をつかむ。


「私の方が賢者としての経験も長いし優秀よ! こんな半人前を入れるくらいなら、私を入れたほうがあなたにとって得だわ!」


 鬼気迫る勢いの彼女を、しかし、ぼくはぐいっ、と押す。


「悪いけど、お断りさせて貰います」


「そんなっ! どうして!?」


「ぼく……ディーナさんを信用できないから」


「な、なぜ!?」


「だってあなた、地下でぼくに麻痺の魔法をかけましたよね?」


「そ、それは……ザックが!」


「確かに命令したのはザックだけど、実行したのはディーナさんですよね? 命令に従わないって選択肢もあった。けど結局ぼくに魔法をかけたのはあなたの意思だ。違う?」


 うぐぐっ、とディーナが言葉を詰まらせる。


「自分の家族に平気で酷い言葉を吐いて、自分の仲間を平然と切り捨てる。そんなあなたを、どうして仲間にするんですか?」


 ぼくはハッキリと、ディーナに言う。


「あなたなんかより、ティナのほうがよっぽど良い」


 ガツンッ! と頭をハンマーで殴られたような表情になる、ディーナ。


「そ、そんな……」


 その場にひざをついて、がくん、と頭を垂れるディーナ。


 どうしてここまで、大げさにショックを受けてるんだろう……?


「じゃあね」


 ぼくらは後のことを、護衛の人たちに任せて、街へと戻ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >「あなたなんかより、ティナのほうがよっぽど良い」  これだとなんか、ティナをあまり褒めてない気がするのねん。  こういう時はもっと、ティナをベタ褒めして欲しいのねん。  そうする…
[一言] ディーナは力無くしても仕方ないよねー。 怒らせちゃったからねぇー(笑)
[一言] その後のエルフの里の話を希望します
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