198話 堕ちた神【中編】
勇者エレンが、クトゥルーに哀れみの目を向ける。
人間ごときが、神を相手に同情した。そのことがクトゥルーの逆鱗に触れた。
「殺す……! 今ここで貴様も! この星もろとも! ぶち殺してやるぅうううううううううううう!」
魔竜から受け取った魔力の全てを、その体に集中させる。
暗黒のオーラが遙か空の上まで伸びる。
『どうやらヤツは、星の外から、エレンごと吹き飛ばすつもりだろうね。最後の力を振り絞って』
「そうはさせない。ぼくが……皆を守る」
たとえ相打ちになっても。
言葉には出さなかったが、エレンには決死の覚悟があった。
「ダメよ、エレン」
振り返ると最愛の女性、アスナがいた。
「自らを犠牲にしようなんて、考えちゃだめよ」
「……アスナさんには、敵わないや」
勇者の力の全てを使って、敵を討つつもりだった。
「辞めてよね。そういうのさ」
「そうですよ若。ハッピーエンドは、皆で迎えるべきです」
「おぬし一人が格好つけようったって、そうはいかぬのじゃ」
人が、精霊が、生きとし生けるものの魂たちが……エレンの死を拒んでいた。
それと同時に勇者神の勝利と、彼が勝ち取る未来を、硬く硬く信じていた。
「エレン。僕に考えがある」
「ルルイエさん……?」
精霊王は顕現すると、この世界に住む全ての人に向けて……。
スッ……と頭を下げる。
「どうかみんな。エレンに、世界を救おうとしている勇者に、力を貸してくれ」
ルルイエの言葉は、精霊を媒介として、全世界に広がる。
この世界の人間達は皆、何らかのスキルを持つ。
スキルの正体、それは、一人一人に与えられた、精霊の力だ。
精霊王は人間達の持つ精霊を通して、彼女の作戦を告げる。
「これを実行すれば、不自由にはなる。けど、信じてくれ。必ずエレンは未来を勝ち取る。そしてその未来で、君たちが笑っていられるよう、僕は精一杯がんばる。だから……どうか……!」




