197話 希望の勇者と孤独な未来神【後編】
勇者エレンと未来神クトゥルーの激闘は、徐々にクトゥルー劣勢になってきた。
というより、エレンが全くと言っていいほど消耗していない。
「なぜだ!? なぜボクが息を切らし、おまえは平然としてるんだぁえれぇえええええええええん!」
獄炎のつぶてを、速射砲のごとく放つ。
だがエレンは光の剣でそれを打ち払う。
弾かれた炎は、すべてクトゥルーへと押し寄せる。
「ぐあぁあああああああああ!」
体を削らられるクトゥルー。
一方でエレンも、すべてをはじき返せたわけじゃない。
彼もまた傷ついているはずなのに、一向に倒れる気配はない。
「なぜだぁ!? なぜまだ立ち上がる!?」
「ぼくは、背負っているからだ! みんなの希望を、みんなの未来を!」
「未来、だとぉ……」
未来神を自称する彼にとって、それは侮辱に等しい行為だった。
「この未来をつかさどる神をさしおいてぇえええ! ふざけるなぁああああああ!」
クトゥルーは手を体の前で合わせる。
炎が吹きあがり、それは獄炎の竜へと変わる。
「ボクは未来を創造する神だぞぉ!」
「ふざけるな! おまえの創る未来は、自分に都合のいい世だろ!」
炎の竜を放つクトゥルー。
「それがどうした!? 誰かに支配されて、自らの望む未来を作ってもらった方がいいに決まってるだろ!?」
「そんなの! 僕が許さない!」
炎は大地を削りながらエレンに高速で飛翔する。
その余熱だけで山は溶け、灼熱の空気は人々の命を燃やそうとする。
だがエレンの持つ鍵から、放たれし聖なる光は、地上に住む人々を守り、傷ついた星を癒す。
「がんばれ、エレーン!」
上空でぶつかり合う、エレンと獄炎の竜。
その様子を見ていた人間たちは、勇者にエールを送る。
「負けるな勇者さまぁ!」「おれらの未来を守ってください!」「あんな化け物に、負けないでー!」
がつん、とクトゥルーは頭を殴られたような、衝撃を覚えた。
「ばけ、もの……」
皆が応援しているのは、未来神であるクトゥルーではなかった。
彼らを導く支配者である自分を、彼らは化け物と蔑む。
「なぜだ、なぜだなぜだぁあああああああ!?」
クトゥルーは理解できなかった。
なぜ、人々は自分ではなく、エレンを応援する。
なぜ、彼らは未来を神ではなく、勇者に託す。
わからない。理解できない。認められない。
「ぼくは、負けない! 絶対に!」
光の剣をさらに輝かせ、エレンは強烈な一撃を放つ。
炎の竜は真っ二つにされ、そのままクトゥルーの右腕を切り飛ばした。




