21話 ザックの失敗、夜道を襲って返り討ち
テイマーのエレンが、Sランク冒険者に認定された。
それから数日後の夜。
元パーティのリーダー・ザックは、エレンの居る【トーカ】の街に来ていた。
「クソッ……! エレンがソロでSランクだと……ぜってぇ嘘に決まってる!」
前回、ソロでザックはダンジョンに挑んだ。
だがDランクのモンスターに完敗。
つまり今の彼の実力が、Dランク以下であることが証明されてしまった。
命からがらなんとか地上に逃げてきたが、二度のダンジョン探索失敗は、ザックの地位をさらに失墜させる結果となった。
そこへ、折り悪くSランクとなったエレンのウワサを聞いた。
……許せなかった。
「あのカステイマーめ! ずるしてSランクになったに違いねえ! 化けの皮を剥いでやる!」
ふいをついて攻撃すれば、本当の実力は判明するはず。
暗がりから襲いかかってやるつもりだ。
きっとなにもできずに無様を晒すはず。
……愚かにもこのザックは、とことん人の言葉に耳を傾けない男だった。
ディーナに、精霊使いに嫌われたから弱体化したと知らされていたというのに……。
さらに嫌われるようなマネをしようとしている。
その結果、精霊達からさらに嫌われることは明確なのだが……。
「おっ! でてきやがった!」
ギルドからエレンが出てくる。
どうやらアスナとは一緒ではないらしい。
そのあとをこっそりとつけていく。
「ひとりで裏路地に入っていきやがった……好都合だぜ!」
ザックは懐から、1枚の仮面を取り出す。
「ディーナから借りてきたこの認識阻害の仮面をかぶって……よし、いくぜ!」
エレンの通った曲がり角を、曲がったそのときだった。
「うぅ~~~! わんっ!」
「うぉ! な、なんだぁ!?」
突如、何かが襲いかかってきたのだ。
それは藍色の毛皮が美しい、オオカミ。
エレンが連れていたランだった。
「わんっ! ばうばうっ!」
ランにのしかかられて、ザックは仰向けに倒れる。
「くそっ! どきやがれ!」
『若様を襲う気だなこの不埒ものめ! かみ殺してくれます!』
押しのけようとするが、ランの体重が重くて動かせられない。
がぶっ! と腕を強くかまれた。
「いってぇええええええ!」
騒ぎを聞きつけて、エレンが戻ってきた。
ザックはまずいと思って、ランの顔面を蹴飛ばす。
『きゃんっ!』
牙を離したところを、ザックは離れる。
「どうしたの、ラン?」
『若様! 襲撃者でございます!』
エレンがザックに、敵意を向けてくる。
暗がりだったこと。
そして目深にフードをかぶり、相手からの認識を阻害する仮面をかぶっていたことから、ザックだとバレていないらしい。
「誰!? ぼくに何のようだ!」
「…………」
バレると後々面倒だと思い、ザックは無言を貫く。
腰からナイフを取り出して、エレンにちらつかせる。
「そんなもの怖くないぞ!」
アスナの後ろでビクビクしていた彼が、いつの間にか、勇敢になっていた。
……気に入らない、と内心で悪態をつく。
だがザックはエレンが強がっていると思った。
一度だけ、エレンに殴り飛ばされたことがあった。
だがあのときは何かの間違いだった。
火事場の馬鹿力てきなものが働いたのだろう。
でなければ、あの貧弱な少年がそんなパワーを発揮するわけがない。
ザックは思考する。
結局のところエレンはなにも強くなってはいない。
ディーナがごちゃごちゃいっていたが、彼が精霊使いなんて選ばれし職業の訳がないのだ! と。
ゆえにザックは、エレンを弱虫のままだと誤解したまま、襲いかかる。
振り下ろしたナイフを、しかしエレンは余裕でかわした。
「なっ!?」
エレンは体をかがめて、肘を突き出す。
それはカウンターとして、ザックのみぞおちに入った。
「うげぇ……!」
がくり、とザックは膝を折る。
げほげほっ、と咳き込みながら……そんなバカな……と愕然とする。
攻撃を完璧に見切って、反撃してきた。
まぐれだ……! と自分に言い聞かせ、2撃目を食らわせようとする。
突如、エレンの足下から、影が伸びたのだ。
影で出来た触手は、ザックの腕に巻き付き、ナイフを回収。
逆の手でザックがエレンを殴りつけようとする。
だがエレンはまたも回避し、ザックの頬に拳をたたき込んできた。
「ぶぎゃぁあああああ!」
ザックは上空へと吹っ飛ばされる。
風に吹かれた木の葉のように、高く飛ばされる。
やがて離れた地面に、グシャッ! と倒れる。
近くにゴミ置き場があった。
そこに落ちれば骨折は免れただろう。
「いてえ……! 折れた! 骨が……いてぇえええ!」
だが都合良くゴミ置き場に落ちることはなかった。
低い確率だったこともあるのだが、それ以前に……だ。
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精霊使いへの敵対行動を探知しました。
ザックの行為は、精霊使いエレンへの明確な殺人行為と認定しました。
ディーナの行為は、認識阻害の魔法道具を貸与したことによる、殺人幇助行為と認定しました。
精霊はザック・ディーナ両名への罰を実行します。
→幸運を失います。
→魔力を失います。
→スキル【貧乏神】を付与します。
→etc.…
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誰も居ない夜道で、ザックは地面でのたうちまわりながら、助けをもとめる。
「だれかぁ~……助けてくれぇ~……だれかぁ~……」
だが精霊に見放され、【幸運】を失った。
都合良く、こんな夜中に通りかかる人間などいない。
「いでぇ~……いでぇよぉ~……くるしいぃよぉ~……たずげでよぉ~……」
……結局、その後ザックは誰からも助けてもらえなかった。
痛む体を引きずりながら、なんとか医者の元まで向かった。
しかし夜更けに医者がやっているわけもない。
都合良く医者が夜中に起きていることもなかった。
結局、朝になって医者がシャッターを開けるまでの間、ザックは長い時間苦しみ続ける羽目となった。
無論治療費を請求されることとなる。
だが借金まみれのザックに、治療費を払うことができないのは明白。
騎士に通報され、再び逮捕される羽目となったのだった。
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