19話 吸血鬼との契約
棺桶の中で眠る、吸血鬼の少女。
しばらくすると、パチッ、と目を覚ます。
「…………」
寝ぼけ眼で、ぼくを見やる。
スッ……と手を伸ばす。
『若様はわたしが守るっ!』
ぼくの前にランが飛び込んできて言う。
だが吸血鬼少女は、手を上げる。
「おはよう……なの」
「う、うん……おはよう」
よいしょ、と少女が起き上がる。
くぁ、とあくびをした。
「あなた……誰なの?」
「ぼくはエレン。冒険者。君は?」
「【アビゲイル】。アビー……なの」
「アビー……。君はここで何をしてたの?」
「寝てたの……空腹をまぎらわせるためなの」
話を聞いてみると、どうやらアビーは吸血鬼の末裔。
現在吸血鬼はほとんど生き残っておらず、この国ではアビーしか居ないそうだ。
「人間怖いの。吸血鬼だとわかるとすぐに集団でボコってくるの。でもお腹すくの……だから寝てたの」
『吸血鬼の食事は、人間の体液に含まれる魔力じゃ』
食事である血液は、人間からしか摂取できない。
でもアビーは寝て空腹をごまかしていたっていっていた。
「じゃあ、ここで人を襲っていたわけじゃないんだね」
「そんなことしないの。余計お腹すくの……」
ぐぅう~……と彼女のお腹が鳴る。
「しゃべったらカロリー使ったの……」
くらり、と彼女が寄りかかってくる。
「だ、大丈夫?」
「もうだめ……ママ……アビーは空腹で死ぬの……」
人を襲っている悪い子じゃなさそうだ。
空腹で困っているなら……助けてあげたい。
「アビー。よければぼくの血、吸ってもいいよ?」
「いいの……?」
「お腹すかせてる子を、ほっとけないよ」
ぼくは人差し指の腹をかみきる。
じわ……と指先に血が出る。
「すんすん……! とっても……いいにおいなの……♡」
アビーがぼくの人差し指を、しげしげと見やる。
「こんなのはじめて……とっても美味しそうなの……ぱくっ♡」
指を口に含むと、ちゅうちゅう、と赤ちゃんのようにしゃぶってくる。
「♡」
アビーの目がトロンととろける。
夢中になって、彼女が血を吸っている。
『ちょっとあなた! いつまでそうしているのです!』
『そうじゃ! 離れろ! 愛しのエレンからどれだけ血を吸うつもりじゃあ!』
オオカミとヒヨコが、ぐいぐいと吸血鬼を引き剥がす。
「あーん。もっともっとなのぉ~……♡」
うっとりとした表情で、アビーが手を伸ばす。
ぼくの腰に手を回すと、そのままぐいっと引き寄せる。
「わぷっ」
むにゅっ、と彼女の胸に顔が当たる。
気づかなかったけど、この子……幼い見た目に反して、胸が大きい。
「もっとほしいの……♡ いっぱい吸わせてほしいの……♡」
あーん、とアビーが口を開く。
ぼくの首筋に、口をつけようとする。
『そーーーーい!』
ランが凄まじい勢いで、横からアビーに突進する。
アビーは吹っ飛ばされて、壁に激突した。
『若様は渡しません!』
『よくやったぞ犬ぅ!』
カレンがランの上でピヨピヨと歓声を上げる。
「だ、大丈夫!?」
「へっちゃらなの、これくらい」
壁から降りて、アビーがぼくの前までやってくる。
「ごはんありがとうなの。それと……勝手に血を吸おうとして、ごめんなさいなの」
「う、ううん……気にしないで」
ほんと、悪い子じゃなさそうだ。
「じー」
「な、なに?」
「血、もっともっと欲しいの」
「う、うん……いいよ」
ぼくたちは座る。
アビーは指をちゅぱちゅぱ、と夢中にしゃぶっていた。
「デリシャスなの……♡ こんなおいしい血は初めてなの……♡」
「ねえカレン。どうしてアビーはぼくの血をこんな美味しそうに飲むの?」
『こやつも精霊じゃからな』
「精霊……? 吸血鬼だよね?」
カレンの体が燃え上がる。
人間の姿になる。
「吸血鬼も精霊の一種なのじゃ。高位の精霊は人の姿を取る。わらわや……そこの犬もな」
「え? ランも?」
ランはうなずく。
彼女の周りに、嵐が巻き起こる。
そこに居たのは……変わった衣装を着た、美しい大人の女性だ。
「若様を守る【忍】、ラン、ただいま参上いたしました」
深い藍色の短い髪の毛。
頭の上からは、犬耳がぴんっと立っている。
お尻の部分からはふさふさの犬尻尾が生えていた。
「なーにが忍じゃ。肝心なときに何度も倒れよって」
「くっ……! し、仕方ないでしょう! わたしは忍び……諜報員なのです! 戦闘は不向きなのですよ!」
「主人を危険にさらして良い道理にはなるまい。あーあ忍びのくせに主人を何度もピンチに遭わせてあーあ」
「ぬわぁあ! 若様申し訳ございませんぅうう!」
大人の犬耳お姉さんが、コロコロと地面を転がる。
あ、良かった。
ぼくの知ってるランだ。
急に綺麗なお姉さんになって、ちょっと戸惑ってたんだよね。
「気にしないで、ランはいつも頑張ってるよ。いつも本当にありがとう」
「ああ……! 若様ぁ♡ 好きぃ~♡」
ばっ、と飛び上がって、ランがぼくに抱きつく。
「むぐ……胸……くるしぃい……」
ランはカレンに劣らぬ巨乳だった。
甘酸っぱい果実の匂いがして、くらくらする。
「離れろこの万年発情期のメス犬め」
べり、っとカレンがランを引き剥がす。
「しょくじちゅーなの。だまらっしゃいなの」
アビーが不機嫌そうに言う。
「話を戻すが、こやつもまた精霊。わらわたちのような強力な精霊を【大精霊】という」
「大精霊……」
「人型に近ければ近いほど、強力な精霊と言える。なのでこやつは、まあそこそこ強いの」
確かに。
アビーは精霊なのに、影の精霊を従えていた。
精霊を使う精霊なんているんだ……すごい……。
「おぬしはいつまでチューチューしておる。そろそろ離れるのじゃ!」
「そうです! ずるい! わたしだってチューチューしたいのを我慢してるのですよ!」
べり、とお姉さんふたりが、アビーをまた引き剥がす。
「やーん……もっとぉ~……♡」
「まったく、とんだ食いしん坊じゃな!」
「若様お怪我はありませんか! 不肖このランが傷口をペロペロいたしましょう!」
「だ、だいじょうぶだから……」
さておき。
「これからどうしよう? アビーを討伐するわけにはいかないし」
ぼんやりとした表情で、アビーが目の前に座っている。
こんないたいけな少女を殺すわけにはいかない。
「では契約するのはどうじゃ?」
「契約?」
「こやつをテイムしたとギルドに報告するのじゃ。討伐はできなかったが従えることはできた。ゆえにもう安心じゃ……とな」
なるほど、その方がみんな幸せになれる。
「アビー。ぼくと契約……する?」
「する! するの! 大賛成なのッ!」
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条件を満たしました。
【吸血鬼】の精霊核を獲得しました。
【吸血鬼のスキル(SSS)】を入手しました。
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