18話 VS 吸血鬼の少女
ぼくらは吸血鬼の討伐のために、洋館へとやってきた。
奥の部屋に入ると、部屋の中央には、棺桶が置いてあった。
「う~~~……!」
『凄まじい魔力を感じるのじゃ。中の吸血鬼は、そうとうな強さのようだな』
相棒達が警戒態勢を取っている。
気を引き締めないと。
「はぁ……はぁ……」
「ひっ……ひ……ふぅ……」
振り返ると、アスナさんとナルシスさんが、その場でへたり込んでいた。
辛そうに、荒い呼吸を繰り返す。
「だ、大丈夫ですか!?」
ぼくは慌てて近づく。
「だい、じょうぶよエレン……ちょっと、立ちくらみが……」
『どうやら吸血鬼の放つプレッシャーに耐え切れぬようじゃな』
「ど、どうして君は……こんななか平然としてるんダイ……?」
たぶんぼくにはカレンがついてるからだと思う。
不死鳥が活力をくれるから、大丈夫なんだ。
「ふたりとも、下がっててください。あとは……ぼくがやります」
ふたりをおんぶして部屋の外に運ぶ。
ランとともに、棺桶に近づく。
ずっ……ずずっ……。
棺桶の蓋が、ゆっくりと、自動的にずれていく。
中から、ゆっくりと……何かが出てきた。
「小さな……女の子……?」
宙に浮かんでいるのは、とてつもない美少女だった。
10代前半くらいの見た目だ。
ショートヘアの銀髪。
ほっそりとした手足。
雪のような真っ白な肌。
黒いゴシックドレスを身に纏っている。
「こんな小さな子が、吸血鬼……?」
『若様! 気をつけてくださいまし!』
ランがぼくの前に立って、全身の毛を逆立てていう。
「ら、ラン……? やっぱり、おまえしゃべれてたの……?」
『それどころではありません! 今すぐ撤退を……』
吸血鬼の足下から、大量の蝙蝠が湧き出てきた。
それは一塊となって、凄まじい早さで飛んできた。
『若様! 危ない!』
ドンッ、とランがぼくを突き飛ばす。
ランは吸血鬼の攻撃を受けて、吹っ飛んだ。
『きゃんっ!』
「ランッ!」
壁に打ち付けられ、ランがずり落ちる。
ぼくは近づいて、癒やしの炎で、ランを治療する。
『ご心配かけて申し訳……ございません。気をつけて……相手は……かなりの手練れです』
がくん、とランが気を失う。
「フェンリルを一撃で倒すなんて……」
ぼくは立ち上がって、吸血鬼を見やる。
彼女は目を閉じて、黙っていた。
その周りに、蝙蝠がわだかまっている。
「いきなり攻撃するなんて、ひどいじゃないか!」
「…………」
吸血鬼は返答しない。
「人間の言葉は聞かない……ってこと?」
『いや……エレン。おそらくあやつは……』
そのときだ。
蝙蝠が一塊となって、ぼくに飛んでくる。
先読みスキルで着弾地点はわかっていた。
横に飛んでそれをかわす。
床はバキッ! と音を立て穴が空いた。
穴から無数の蝙蝠が出てきて、今度は雨のように1匹ずつ襲ってくる。
「【不死鳥の羽撃】!」
不死鳥の翼を出現させ、炎攻撃をする。
無数の蝙蝠が、一瞬で灰になった。
「な、なんてすごい炎ナンダイ……いったい……彼は何者なんだ……?」
「エレン! 気を抜かないで! 相手は吸血鬼……これで終わりじゃないわ!」
アスナさんの言うとおりだ。
ランを倒すほどの猛者が、これくらいで諦めるとは思えない。
「…………」
吸血鬼は自分の爪をとがらせる。
フッ……。
「き、消えた!? どこへいったのカネ!?」
「そこっ!」
ぼくは風神の剣を手に、斬りかかる。
吸血鬼の爪が、ぼくを斬り殺そうとしていた。
『先読みスキルで攻撃してくる場所を読んだのじゃな。うむ、さすがエレンじゃ!』
「えいやぁっ!」
ぼくは剣を振って弾く。
吸血鬼は吹っ飛ばされ壁に激突。
「な、なんてパワー! 吸血鬼を押し返すなんてッ!」
「すごいわエレン!」
吸血鬼はゆっくりと、壁から降りてくる。
「あれでノーダメージ……吸血鬼って、すごい頑丈なんだね」
『否。あやつはそもそもダメージを受けておらぬ。見よ、あやつの周囲を』
無数の蝙蝠が吸血鬼の周りを飛んでいる。
『攻撃を受けるタイミングで、あの影でできた蝙蝠が一カ所に集まり、鎧のような役割をするのじゃ』
「影の蝙蝠……それが吸血鬼のスキルなんだね。どうしよう」
『なに、問題ないさ。そなたは精霊使いじゃからな』
ぼくはカレンからアドバイスを貰う。
「本当にそんなことできるの……?」
『自分の可能性を信じるのじゃ』
こくりとうなずいて、ぼくは吸血鬼と向き合う。
彼女の影から、恐ろしい数の蝙蝠が出てきた。
それは無数の影の槍へと変化する。
「ひぃいいい! あんな数の槍がとんできたら、ワタシたちもただじゃすまない! 逃げよう! アスナくん!」
「大丈夫。エレンを信じましょう」
アスナさんがぼくを信じてくれる。
カレンも、ぼくの力を信じろといった。
……なら、ぼくも信じてみよう。
自分のことを!
「…………」
影の槍が、機関銃のごとく、ぼくに向かって射出される。
ぼくは右手を前に出す。
「精霊使いエレンの名の下に命じる……【契約解除】!」
無数の影の槍が、突如として消える。
前触れもなく、すべてかき消された。
「な、なにが……起きたのかネ……ワタシたちは……助かったのカ……?」
吸血鬼が手を上げる。
しかし影の蝙蝠はもうでてこない。
「無駄だよ。君に力を貸している精霊と、君との契約を強制的に解除したんだ」
精霊使いは、精霊に呼びかけてスキルの恩恵を得ることができる。
裏を返せば、スキルの恩恵を失わせることも可能なのだ。
対象は自分だけじゃない、相手にだって有効。
「スキルを打ち消したのカネ!? す、すごすぎる! とんでもない力だ!」
ぼくは吸血鬼に近づく。
「これで終わりにしない? ぼく、女の子とは戦いたくないんだ」
彼女は答えない。
だが、小さく口を開いて、こうつぶやいた。
「むにゃむにゃ……もう、食べられない……すぅ……」
「……ええっと、どういう?」
『寝ぼけておるのじゃろう。どうやらこやつ、戦闘中ずっと寝ておった』
「ね、寝ぼけて戦って……あの強さなの?」
吸血鬼の少女は地面にぺたりと降りると、また安らかな寝息を立てるのだった。
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