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127話 カダス、精霊王を直接襲う



 邪神カダスは、勇者エレンおよび精霊王ルルイエの抹殺を命令された(と勝手に思い込んでいる)。


 話しは数日後。

 とある農村にて。


 家畜の柵の前には、数人の子供、そして白髪の美女、精霊王がいた。


「ねーねー! るるいえお姉ちゃん! もっと勇者様のおはなしきかせてー!」

「「「きかせてきかせてー!」」」


 ルルイエはまるで聖母のような笑みを浮かべながら、エレンの活躍を子供達に話す。


「えれんさまってすげーんだ!」

「ゆうしゃさまかっけー!」


「ふふ……そうだろう? エレンは凄いんだ♡」


 よしよし、と子供達の頭をなでる。

 ルルイエはエレンの敵を決して許さない。

 逆に言えば、エレン最高という思想に共感するものに対しては、とても優しい。


 さて、そうやってエレンの素晴らしさを広めていた……そのときだった。


「見つけたぞ! 魔女めぇ……!」


 遙か上空から、4本腕の魔神が出現する。

「…………」


 にぃ……とルルイエは薄く笑った。

 だがそれも一瞬のこと。


「お、おまえは……! 邪悪なる神、カダス! 勇者エレンとそして彼に力を与える存在である、僕の命を狙いに来たのだなっ!?」


「お、おう……そ、そうだ!」


 やけに説明口調なのは、周りにいる子供に状況を説明するためだった。


「うぇーん! こわいよぉ……」


 子供達が魔神を前に泣き出す。

 ルルイエは薄く笑うと、真面目くさった顔で言う。


「邪悪の化身め! 無関係の子供を巻き込むとはどういうことだ!」


「え……?」


 カダスが戸惑う。

 そう、彼はまだ来たばかりだし、なんだったら狙いはルルイエだけなので、人間の子供などどうでも良かった。


「子供達! ここは僕に任せろ!」


「け、けど……! るるいえおねえちゃんが!」


「なぁに、僕なら大丈夫。きっとピンチにはエレンが駆けつけてくれさ!」


 そう言って、ルルイエは子供達の前に立つ。


「ふっ……あんなこと言っても、体が震える。相手は魔神。僕もただではすまないだろう……かっこつけちゃったかな」


 と、【子供達に聞こえるボリューム】で、ルルイエが言う。


「おねえちゃん! がんばれー!」


 子供達がルルイエに声援を送る。


「さぁ邪神! 僕と勝負しろ!」

「お……おお! 良い度胸だなぁ!」


 グッ、とカダスが身をかがめると、高速で突撃する。


「食らえ【百烈連……】」

「きゃあああああああ!」


 ルルイエが大げさに、後ろに吹っ飛ぶ。


「え……?」


 ポカン……とした表情のカダス。

 一方でルルイエは、とても大げさに地面にドサッ……! と倒れた。


「「「おねえちゃん……!」」」


 子供達が倒れ伏すルルイエに元に集う。


「ば、ばか……みんな、僕のことなんて置いて、逃げるんだ……」


 ルルイエが弱々しく言う。

 だがどう見ても外傷は一切見られない。


 そもそも打撃を食らわせたはずのカダスが、「え……まだなにも……」と困惑していた。


「いやだよ! おねえちゃんがたたかってるんだもん!」

「おねえちゃんをおいてにげられないよー!」


 子供達が涙を流す一方で、ルルイエはにぃ……と唇をつり上げる。


「優しい子……僕は君みたいな子供が大好きだ。守ってあげたい……けど……僕はもう立てないや……」


「「「お姉ちゃん……!」」」


 カダスは困惑しながらも、ルルイエに近づく。


「は、ハンッ! やはり精霊王はたいしたことないではないか! そうだ! イグ様は過大評価しすぎなのだ! 所詮は魔女! 奇跡の力がなければ非力なただの女なのだ!」


 ……カダスは気づいていない。

 確かに奇跡の力を使わなければ、ルルイエの膂力パワーは大したことはない。


 だが、彼女が【故意】に、奇跡の力を使っていないことに……彼は気づいていなかった。


 ぽきぽき……と指を鳴らしながら、カダスが近づく。


「や、やめろぉ! おねえちゃんにてをだすなー!」


「ああっと! 子供のひとりが、勇敢にもカダスに立ち向かうー!」


 ルルイエが実況する一方で、カダスは子供を、まるでハエを潰すかのように、拳で叩きつけようとする。


 グシャッ……!


「………………え?」

「だい、じょうぶかい……?」


 ルルイエが子供を突き飛ばした。

 カダスの拳をもろに受け、ルルイエは重傷を負う。


「おねえちゃん……! そんな、ぼくのために……」


「良いのだよ……子供を助けるのは、大人の役割なんだぜ」


 カダスはフンッ! と鼻を鳴らすあざ笑う。


「クサい芝居をするな魔女め!」

「しばい?」


 はて、と子供が首をかしげる。


「いいかこの女はなぁ! 邪神すらも虫けらのようにムゴムグムゴゴゴッ!」


 突如としてカダスの口が閉じて、しゃべれなくなる。


 もちろん、そうしたのは不都合を伝えないための措置だ。


「ああ……僕はもう駄目だ……子供達……今のウチに逃げなさい……」


 ルルイエが弱々しくつぶやく。


「むりだよ!」

「くそっ! こんなときに……えれんさまがいてくれれば!」


 にぃ……とルルイエが口の端をつり上げる。


「そう……だね。こんなときエレンがいればこんな化け物倒してくれるというのに! ああ! エレン! 早く来てくれ!」


 途中でヒートアップしたルルイエに続くように、子供達が叫ぶ。


「えれんさまー! たすけてー!」「えれんさま!」「ゆうしゃさまぁ!」


 ルルイエは酷薄な笑みを浮かべると、パチン、と指を鳴らす。


 カダスにかけていた呪縛を解く。


「くそっ! 舐めたマネしやがって! ガキもろとも死にさらせえええええ!」


 と、カダスが拳を振り上げた、そのときだった。


「そこまでだ!」


 ボッ……! とカダスの腕の1本が吹き飛ぶ。


「貴様!? 勇者エレン!」


 幼さの残る顔つき、赤い眼、そして聖なる剣を携えた少年。


 勇者エレンが、農村に現れたのだ。


「ばかなっ!? なぜここに、今このタイミングで!? 今回はルルイエだけを狙ったはず!?」


 ……彼は知らない。

 ルルイエがいた場所は、旅の途中のエレンが進んでいる進行方向にいたことを。


 それは決して、偶然ではなかったことを。

 エレンがここに来るよう、彼女が誘導していたことを。


 そして何より、すべては精霊王の手のひらで踊らされていたことを、この愚かな邪神は何も知らなかったのだ。


「! ルルイエさん! 大丈夫ですか!?」


 エレンは炎の翼を生やし、高速で彼女を回収し、距離を取る。


「うひょっ」

「うひょ?」

「う……うう……エレン……来て、くれたんだね……」


 ルルイエが弱々しくつぶやく。


「ゆうしゃさま!」「おねえちゃん!」


 エレンは子供達の元へ着地する。


「えれんさま! おねえちゃんをたすけてあげてください!」

「おねえちゃんはおれたちをまもってくれたんです!」


 子供達がエレンに、必死になって訴える。ルルイエは寝転びながら「駄目だ……まだ笑うな……」と体を震わせる。


「ルルイエさん……小さな子供達を守るために体を張ってくださるなんて! さすが精霊達の王さまです!」


「ふひ♡」

「ふひ?」


「ふ……君と……比べたら……ちっぽけな……正義だよ……」


 それだけ言うと、ルルイエはガクンッ、と失神する。

 ダメージが蓄積したことによる気絶、ではない。


 エレンに褒めてもらって、嬉しすぎて気を失っただけだ。


「「「おねえちゃんがしんだー!」」」

「大丈夫! まかせて!」


 癒やしの炎がルルイエを包み込む。

 するとたちまち、彼女の体が癒えていくではないか。


「これでもう安心だよ!」

「「「よかったー!」」」


 エレンは子供達に微笑みかけ、彼らの前に立つ。


 一方でカダスは腕を再生させ、エレンの前に立ち塞がる。


「まぁいい。どうせてめえもあの世に送ってやるつもりだったしなぁ……!」


 ボコボコッ! と腕がもう1対生える。


 6本の筋骨隆々とした腕を前にしても、しかしエレンは微塵も怯えない。


「なぜならエレンの背後には守るべきか弱き存在達がいるからだ! 勇者は人を守るとき、何倍もの力を発揮するのである!」


「「「なるほどー!」」」


 ルルイエの解説に、子供達が納得したようにうなずく。


「ハッ……! ザコを背負っているからなんだ! それで強くなるわけが……」


 ボッ……! と6本の腕が全て切断された。


「は、早い! 早すぎて見えねえ!」

「たぁああああああああ!」


 たんっ! とエレンが地面を蹴って、カダスに接近する。


「エレンは炎の噴射を利用し高速移動を実現しているのだよ!」

「す、すげー!」「さすがエレン様!」


 高速での打ち合い斬り合いを前に、子供達は憧れのまなざしをエレンに向ける。


 ルルイエは腕を組んで満足げにうなずきながら、エレンが今何をしているのか、子供達に解説(と云う名の自慢)をしている。


「せやぁ……!」


 ザンッ……! とエレンの剣がカダスの胴体を真っ二つに切り裂く。


「くそっ! なんて強さだ!」


「当たり前さ! なんと言っても僕のエレンは、数々の強敵を倒してきた経験がある! 邪神と互角に戦えるのは必定さ!」


 といいつつも、きちんとルルイエはカダスにデバフをかけていた。


 もちろんエレンが勝つようにである。


「降参しろ!」

「ふ、ざけんなぁ!」


 ごぉおおおお! と魔力が邪神の体から吹き出る。


 圧縮した魔力が黒く輝きだし、空気がビリビリと振動し出す。


「こ、こわいよぉ~……」

「安心なさい、子供達」


 ルルイエは慈母のごとく微笑んで、子供達を抱き寄せる。


「エレンがいる限り誰も死なない。目を見開いて、きちんと彼の力をさぁ見るんだ」

 


 エレンは邪神の力を前にして、微塵も恐れない。


 聖剣を構えて、邪神の攻撃に対して受けて立つ構えだ。


「食らえ! 【崩壊撃アルティマ・キャノン】!」


 圧縮した魔力から放たれるのは、強烈な黒い光線。


 それは地面を、空間をえぐりながら、エレンに向かって超高速で近づいてくる。


「【不死鳥の超新星矢フェニックス・ノヴァ】!」


 エレンの手から放たれるのは、聖なる炎を超圧縮して放つ、爆炎の矢。


 それは崩壊の黒い光とぶつかり合い、対消滅させる。


「ば、バカなぁああああ! あれは、おれの全身全霊をこめた一撃だったんだぞぉ!?」


「す、すげえ!」「さすがえれんさま!」

「うひょー! エレンかっけー! さすが僕のエレンだ最高-!」


 子供に交じって大興奮の精霊王。 


「たぁあああああああ!」


 エレンは聖剣を構えて高速接近し、聖剣を振り下ろす。


 ズバンッ……! と凄まじい一撃を受けた邪神が、空中へと吹き飛んでいく。


「うぎゃぁあああああああああああ!」


 空の彼方へと消え去った邪神を見て、エレンは振り返る。


「もう大丈夫だよ!」

 

 ワッ……! と子供達とルルイエが、エレンに抱きつく。


「ありがとー! えれんさまー!」

「やっぱえれんさますげーや! ちょーかっけー!」

「うひひ♡ エレンぅ♡ さすが僕のエレンだよぅ♡」


========

えへへへ♡ どさくさにまぎれてぇ~♡ エレンに抱きついちゃった~♡


きゃっ♡

……ま、カダスくんはよくやってくれたよ。

勇者エレンに倒される、哀れな駒として、十二分に役割を果たしてくれた。


だからご褒美をあげよう。

もっとも、ペナルティって名前のご褒美だけどね。


========

【※お知らせ】


先日投稿した短編が好評だったので、新連載としてスタートしてます!


「無駄だと追放された【宮廷獣医】、獣の国に好待遇で招かれる~森で助けた神獣とケモ耳美少女達にめちゃくちゃ溺愛されながらスローライフを楽しんでる「動物が言うこと聞かなくなったから帰って来い?今更もう遅い」」


https://ncode.syosetu.com/n1158go/


リンクは下に貼ってありますので、そちらからも飛べます!


頑張って更新しますので、こちらもぜひ一度読んでくださると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] カレン「母上、貴方はなに三文芝居を..え、えぇ〜.......?」
[良い点] マッチポンプなんだけど実に良いマッチポンプwww
[良い点] ルルイエおねえちゃんが純粋なちびっ子達を守ろうと演技…もとい盾になるところ。 あとカダスの戸惑いに笑ってしまった [一言] ルルイエさん、そこまでするのかと爆笑した 子供達の純粋なところも…
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