109話 女神ユゴス、転落の始まり
テイマーのエレンが、世界を救う、だいぶ前の話。
ひとりの地球人が、トラックにひかれて目を覚ました。
『こ、ここはどこだ……?』
彼の周囲には、何もない真っ白な空間が広がっている。
自分が立っているのが地面なのかもわからない、天と地の境目が曖昧な白い空間が、どこまでも続いている。
『おれは……死んだのか?』
『その通りです』
目の前に現れたのは、顔の上半分を仮面で隠した、とても美しい女性だった。
ただよう荘厳な雰囲気、そして今自分が置かれている状況を照らし合わせて、彼が言う。
『もしかして……あんた、女神か?』
『そのとおりです。私は女神ユゴスと申します』
『じゃあ、おれもしかして……別の世界に転生したりする流れっ?』
『ええそうです。やはり日本の若者は理解が早くて助かりますね』
女神は手早く説明する。
彼がトラックにひかれて死んでしまった、このまま天へ導かれる道もあるが、別の世界へ転生する道もあると。
『やった! 早くおれを転生させてくれよ!』
死んでもう帰れないというのに、彼の心は実に晴れやかだ。
『あれだろ? 女神様が超凄い力を与えてくれるんだろ!』
『ええ、ですが、その前に【器】を測らせてもらいます』
『器?』
女神ユゴスはうなずいて説明する。
『人間にはそれぞれスキルをつけられる上限……【器】が存在します。あなたにわかりやすく言うなら【スキルスロット】とでもいいますか』
『なるほど、レアなスキルほどスロットを多く消費するんだな。器がデカいほどレアなスキルをつけられるし、たくさんスキルを手に入るってわけだ』
『その通り、今からあなたの器の大きさを調べます』
スッ……とユゴスが彼に手をかざす。
青白い光が手の先に宿り、彼の胸の中心部分を触る。
『どうどうっ? おれの器? 女神様に選ばれるくらいだからよ、すんげースキルつけられるほどデカいんだろ!』
しかし、くしゃり、とユゴスは顔を不愉快そうに歪める。
『スロット数……たったの5ですか。ゴミめ』
ぺっ、とユゴスはつばを吐いて悪態をつく。
『ご、ゴミ? なんだよいきなり! 失礼だろ!』
反論する彼だったが、しかし女神ユゴスが向ける目は、地を這う蟻に向けるそれと同じだった。
『黙りなさい。スキルスロットは、地球の日本人の平均値は50です』
『ご、50……おれは、5』
『理解しましたか。このクズ。おまえなんて不必要です。消え去りなさい』
ユゴスが彼に手を向けると、足下に扉が出現する。
『お、おれをどうするんだよ!』
『このまま異世界に放り捨てます』
『ふ、ふざけんな! おれは一般人だ! 今からいく世界でどうやって生き残れば良いんだよ!?』
はぁ、とユゴスはため息をついて、ぱちん、と指を鳴らす。
青白い光が、彼の胸の中心に入り込む。
『異世界言語のスキルを与えました。スロット消費数は5。あとは自分でなんとかしなさい』
『なっ!? ざっけんな! 異世界語をしゃべれるだけで、危険な世界を生き残れるわけないだろ!』
『知りません。小さな器しか持たぬおまえが悪いのです』
パチンッ、と指を鳴らすとゲートが開く。
『うわぁあああああああああああ! い、いやだぁあああああああ! 元の世界に帰してくれよぉおおおおおおおお!』
彼は悲鳴を上げながらその場から消えてしまった。
もちろん、モンスターや魔族が跳梁跋扈し、弱肉強食の異世界で、何の力も持たぬ一般人が生き残れる確率はゼロだ。
『また駄目でした。魔王軍幹部になるにふさわしい器を持つ転生者は、なかなか出てきませんね』
ユゴスが探しているのは、異世界を救う存在ではない。
人間を滅ぼし支配する、魔王の部下にふさわしい人材を探しているのだ。
地球から日本人を連れてきて、器を図り、強大な力を受け止められるだけの転生者を探す。
レイジと暴食の幼女を探すまでに、数え切れないほどの日本の若者達が、こうして犠牲になっていった。
『まあ適合者が出現するまで何回でもやり直せますから。なにせあの青い星には、転生者にふさわしい底辺のクズがウジのように湧いてますからね』
そう言って笑うユゴスは……とても女神とは思え得ぬほど、邪悪極まりない表情をしていた。
……さて。
そんなふうにユゴスは、大量の不幸な転生者達を、エレン達の世界へ投入した。
レイジ、そして暴食の幼女を引き当てた後は、転生者を連れてくる作業を中断していた。
そして……エレンによって、魔王および魔王軍が壊滅した現在。
転生者を召喚していた、真っ白な空間にて。
女神ユゴスは憤怒の表情を浮かべていた。
「くそっ! 畜生畜生! 畜生!」
普段彼女がかぶっていたおしとやかな雰囲気は投げ捨てられていた。
怒りで顔を醜く歪ませ、地面を蹴って八つ当たりをしている。
「あのエレンとか言うガキのせいで! 【主】と他の邪神どもの前で、大恥をかいてしまったじゃないの!」
ユゴスは先ほどのことを思い出す。
ユゴスを含めた他の【邪神】たちは、主たる存在の元に集って会議を開いていた。
議題は、魔王消滅と救世主エレンの登場についてだ。
無論、やり玉に挙げられたのは、魔王グシオンと2名の転生者を用意したユゴスだった。
邪神達はユゴスの無能を、主の前であげつらわれたのだ。
「あのクソ野郎どもが! 馬鹿にしやがって! 馬鹿にしやがって! 馬鹿にしやがってぇえええええええええ!」
会議中は怒りを抑えていたが、誰もいないこの空間に於いて、取り繕う必要もない。
ユゴスは本性とともに怒りをあらわにしている次第だ。
「というか想定外過ぎるだろ! 私が厳選した2名の転生者を下し、魔王をも倒しうる存在が、こんな異世界で見つかるなんてどうかしてるのよ!」
女神が言及しているのは、勇者エレンについてだ。
ユゴスは世界を滅ぼすために、厳選に厳選を重ね、力を与えるにふさわしい器たちを選んだはずだった。
結果は惨敗。
そのせいで同僚達からは蔑まれ、【主】からも失望されてしまった。
「エレン……! 覚えておきなさいよ! この屈辱はおまえの死を以て晴らす!」
ユゴスはミスを取り返すべく、世界を救った存在たるエレンを倒すことを、主に誓ったのだ。
「より強力な転生者を呼び出し、おまえを殺してやる!」
バッ……と女神が両手を広げる。
「さぁ来なさい未開の星にすむ愚かなる若人の魂よ!」
しーん……。
「なっ!? そんなバカな!」
女神ユゴスが驚愕の表情を浮かべて、自分の手を見やる。
「くっ! このっ! 召喚! くそっ! どうして転生者の魂が召喚されないっ!」
と、そのときだった。
『くすくす……無様だねぇ、ユゴスちゃん』
「!? 誰だぁ!」
ユゴスが周囲を見渡すが、声の主の姿は見えない。
『誰だと問われて、僕がバカ正直に名乗るとでも思ったのかい? バカだねー君は』
謎の声に、ユゴスは聞き覚えがあった。
魔王グシオンを処分する際に聞いた、あの女の声だ。
「ここは結界が張ってあり、私以外絶対誰も入って来れない聖域のはず!」
『この程度で聖域とかちゃんちゃらおかしいね。ま、自称女神じゃあこの程度か』
女神ユゴスは怒りとともに、内心で冷や汗をかいていた。
この絶対不可侵の結界に容易く入りこんだこともそうだが、必死になって探知の魔法を使っているというのに、声の主を見つけることができないからだ。
『僕を探しているみたいだけど無駄だから』
……しかも、こちらの動向までも見抜かれている。
「おまえは何者なのですか!? いや、何をした!」
『別に、ただ、君から異世界人を召喚する権限を剥奪しただけだよ』
「召喚権限の、剥奪ですって!? バカな! あり得ない!」
『現実から目を背けるなよ、だから君は三流女神なんだよ』
力の差を見せつけられ、力のなさを馬鹿にされ……ユゴスの怒りは頂点に達していた。
「……女神たる私に、このような屈辱……万死に値するわよ!」
ユゴスは怒りとともに魔力を解放する。
魔王なんて比じゃないレベルの力の波動に、空間にピシピシと亀裂が入る。
『く……くくく……! あーはっはっは! いやぁ……おかしいおかしい』
力を見せつけても、謎の声はまるで萎縮する様子を見せなかった。
『君レベルがいくらすごんでも、ちーっとも怖くないよ』
「なんだと! この女神に対してなんて無礼な!」
『黙れ、子犬が』
その瞬間、ユゴスは声を発せなくなった。
あまりに唐突に、絶大な力を見せつけられ、恐怖で足が震える。
『末端じゃこの程度か。正直君なんて眼中にないけど……エレンに敵意を向けた以上、僕は容赦しないよ』
いずこより響く、氷のように冷たい声に、がくがくとユゴスは体を震わせる。
『じゃあね、愚かで小さな自称女神……いや、子犬ちゃん♪』
その場から気配が消えると、ガクッ……とユゴスはしゃがみ込む。
「はぁ……! はぁ……! くそ! くそぉおおおおおおおお!」
だんだん! とユゴスは地面を拳で殴りつける。
「覚えてろよ! エレン! それに、謎の女! 女神の私にここまでの無礼を働いた以上、ただではすまさないからなぁああああああああああああ!」
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あーあ、バカな女。
力の差をあそこまで見せつけられて、なお復讐しようとするんだもん。
学習能力がないのかね。
ま、挑んでくるならかかってきなよ。
君を不幸のどん底にたたき込むことなんて、僕にとっては赤子の手をひねるより簡単なんだからね。
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