106話 卑怯で臆病な魔王との戦い
テイマーのエレンが、魔王軍幹部【暴食】の少女を下した。
その様子を、魔王は玉座に座り見ていた。
「ふんっ! 使えぬガキめ」
見下した様子の魔王。
「幹部としての使命も果たせぬとは。まったく、どいつもこいつも……! 度し難いほど軟弱ものたちだな!」
手に持ったワイングラスに口をつけて、魔王が言う。
その隣に立っていた、側近の男が言う。
「ま、魔王様……それは少し、幹部の皆さまが不憫では……?」
ギロリ、と魔王が側近をにらみつける。
パチン! と指を鳴らすと、側近は吹き飛ばされ、壁に激突する。
「部下の分際で王たるわしに意見するなど2億年早いわ! 分をわきまえよ痴れ者が!」
「も、申し訳ございません……」
側近はふらふら立ち上がって、頭を深々と下げる。
「しかし、魔王様。勇者がこちらに向かっているのですが、戦の準備はしなくてよいのでしょうか?」
「フンッ。必要ない。なぜなら、もう勝負はついているからじゃ」
魔王の正面には、魔法の鏡が浮いている。
その中にはエレン一行が歩く姿が映っていた。
エレン達が歩んでいくそのさきには、魔王の間の入り口があった。
がちゃり、と彼らが扉を開ける。
『なっ!? 魔王がいないわ!』
賢者の少女ティナが、部屋の中の様子を見て驚く。
「くくく……! バカな勇者達だ。城に魔王がいるものと思い込んでいるなんてな!」
そう、魔王達がいるのは、城から随分と離れた場所にある古城のなかだ。
『エレン! これは罠よ!』
「バカが。もう遅いわ!」
魔王はパチンッ! と指を鳴らす。
突如として魔王の間、および魔王城全体に立体的な魔法陣が出現する。
『自爆の魔法陣!? しかもこの規模……城ごと吹き飛ばす気よ!』
カッ……! と魔法陣が輝くと、凄まじい爆音が鳴り響く。
魔法の鏡のなかでは、黒煙が立ち上っている。
「くくく……あーっはっはっはぁあああああああ! どうだぁああああああ! わしの勝ちじゃぁあああああああ!」
魔王が狂喜乱舞している。
一方で、側近は青ざめた顔でつぶやく。
「ま、魔王様……」
「なんじゃぁ? 人が勝利の余韻に浸っているときに?」
「あの城の中には、まだ魔族達が大勢おりました。しかし……今の爆発で……」
「死んだろうな、全員残らず。それがどうした?」
あまりにあっけらかんと言うものだから、側近は怒りで表情をゆがませる。
「そんな非道が許されて良いのですか!? あなたは魔族達の王! 民を守るのが王の役割では……ぐぇえええええ!」
魔王が重力魔法を発動させ、側近を押しつぶす。
「わしに逆らうな小童が。よいか、民とは王の道具。わしがどう使おうと王の勝手じゃ」
「くっ……! なんて……卑怯な人なんだ!」
「卑怯ぅ~?」
側近はうなずいて言う。
「罠を用いたということはすなわち、勇者に真正面から挑んで勝つ自信がなかったからだろう!」
魔王はピクッ、と反応を見せる。
……さもありなん。
彼は幹部の双璧たる怠惰のレイジを打ち破ったとき、勇者の強さを実感した。
側近が指摘したとおり、正面からの戦闘では力及ばないと思ったのだ。
だから、罠を張った。
「この卑怯者!」
「五月蝿い……! うるさいうるさい!」
重力魔法を何度も発動させ、側近の体の骨をべきべきとおる。
「図に乗るなよ、側近風情が……。貴様は今、ここで殺してやろう……」
またも魔法を発動させようとする魔王。
「くっ……! もう、この卑怯で最低の王を、殺してくれる人はいないのか……!」
「ふはははあ! そんなものはおらぬ! 唯一倒しうる存在は、ついさっき死んだのだからなぁあああああああああ!」
と、魔王が側近を殺そうとした、そのときだ。
「そこまでだ!」
ボッ……! と魔王の右腕が吹き飛ばされる。
「いぎゃぁああああああああああ!」
消し飛んだ箇所には、不死鳥の聖なる炎が燃えていた。
魔王は痛みで顔を歪め、玉座から崩れ落ちる。
「おおっ! 勇者様! ご無事だったのですか!」
魔王の前に立つのは、火矢を放ったばかりの勇者エレンがいた。
「エレぇええええええええン! なぜだっ! なぜ貴様がここにいるのだぁ!」
「ふんっ、愚か者め」
エレンの隣に、赤髪の美女が立つ。
不死鳥のカレン、人間の姿だ。
「あの程度のなまっちょろい炎で、不死鳥の加護を受けたエレンを燃やせるわけがなかろうが」
爆発の一瞬、エレンは聖なる不死鳥の炎で、城の中にいた人たちを守ったのだ。
「残念じゃったのぅ、チンケな魔法使いよ」
「くっ、くそっ! こうなったら……!」
バッと魔王が逆の腕を伸ばす。
「貴様を宇宙空間に転移させてやろう! 食らえぇ!」
しーん……。
「なぜだぁああああああああ!?」
精霊王によるペナルティを受けているからであるが、魔王は知るよしもない。
「魔王……おまえの非道の数々、見過ごすわけにはいかない」
エレンが聖なる剣を魔王に向ける。
「ここでぼくが、おまえを倒す!」
「ひっ……!」
魔王は怯えた表情を浮かべ、がくがくと体を震わせる。
彼は魔法の扱いに置いて、誰よりも長じている。
しかし何らかの理由で今、魔法が不発に終わった。
最強の魔法使いから、魔法の力を剥奪されれば……ただの老人。
先天的に魔法の才能があったゆえに、今まで魔法以外の戦い方を一切学んでこなかった。
相対するのは様々な加護をその身に受け、剣の訓練を怠らなかった勇者。
この場に於いて、どちらが強いかなど火を見るよりも明らかだった。
「いざ……参る!」
「う、うわぁああああああ! く、来るなぁああああああ!」
魔王は懐に手を伸ばし結晶を取り出す。
緊急用に、あらかじめ魔法を込めておいたクリスタルだ。
それらをばらまくと、封じられていた極大の魔法が発動。
だがエレンは恐るべき身軽さで、その全てをかわし肉薄する。
「ひぎぃいいいいいいい!」
「たぁああああああああ!」
懐まで潜り込むと、エレンは剣を振る。
魔王の体を斜めに切り裂く。
「うぎゃぁあああああああああああ!」
聖なる剣は魔王の体を切りつける。
「痛いいいいいいいいい! 痛いよぉおおおおおおおおおおお!」
その場に倒れて魔王はのたうち回る。
「こ、このぉおお! 出でよ、召喚獣どもぉおおおお!」
魔王がまたもクリスタルをばらまくと、魔物の大群が召喚される。
だがエレンは火矢を放つと、その全てが一瞬で消し飛ばされる。
「ば、化け物だ! 正真正銘の化け物だぁあああああああああああ!」
魔王は四つん這いになって、その場から逃げおおせようとする。
「逃がさんぞ!」
側近が魔王の足を掴んで、引き留める。
「離せ! 離せぇえええええええ!」
「いいえ、離さない! よくも……大勢の仲間を殺したな! おまえはさばかれるべきだ!」
「離せ! ザコの分際でぇええええ!」
「エレン様! 今でございます!」
エレンが冷たい目で魔王を見下ろしてくる。
「ひぃいいいいいいい! やめろぉおおおお! こ、こいつがどうなってもいいのかぁああああああ!?」
魔王は懐からナイフを取り出し、側近を抱き寄せて、首にナイフを突きつける。
「げへへへぇ! 知ってるぞぉ! おまえはたとえ魔族であろうと、無害なものを傷つけることはできない甘ちゃんだってなぁああああああ!」
血走った目で魔王が叫ぶ。
もはや勝敗は見えているのにも関わらず、今なお魔王は勇者より上に立とうとする。
「ゆ、勇者様! いいのです! わたくしごと殺してください!」
「できないよなぁ~!? そんなこと、できるわけがないよなぁああああああ!」
スッ、とエレンが手を前に突き出す。
ボッ、と聖なる炎が照射され、それは魔王達を包み込む。
「ほぎゃぁあああああああ!」
ゴロゴロ、と魔王が炎にあぶられながら転がる。
「熱くない……エレン様! 慈悲をかけてくださるのですね!?」
『エレンの炎使いとしての腕は達人に達している。誰を焼いて、誰を焼かないかなどの微調整など、造作もないのじゃ。さすがエレン見事じゃ!』
魔王は聖なる炎に焼かれながら悲鳴を上げる。
「だ、だずげでぐれぇえええええええ!」
手を勇者に伸ばすが、しかし彼は答えない。
「悪かった! わしが悪かった! 今までの非道はわびてやろう! だから、命だけは勘弁してくれぇええええ!」
「ふざけるな!」
ぴしゃり、とエレンが一喝する。
「今までたくさん酷いことして、多くの人がおまえの被害に遭ってきた……! 謝ってすむわけがないだろう!」
「そ、そんなぁ~……」
聖剣を片手に、エレンが近づいてくる。
「こ、こうなったら最後の手段だ!」
ふらつきながら、魔王が立ち上がる。
懐から取り出したのは1つの指輪だ。
「わが最大の魔法! 受けてみよ!」
魔王は上空に指輪を投げる。
出現したのは、巨大な邪竜だ。
「邪神龍! この星を滅ぼすほどの力を秘めた最強の召喚獣じゃ! 焼き殺せぇえええええええええ!」
龍が黒煙を吐き出す。
だがエレンは聖剣を振り上げて、魔力をためる。
聖なる白い炎が刃に宿る。
「これで……終わりだ!」
エレンは不死鳥の力を注ぎ込んだ一撃を放つ。
「【不死鳥天翔】!」
凄まじい炎が斬撃とともに噴射。
それは途中で巨大な不死鳥へと変化し、邪竜を、そして魔王をも飲み込む。
「うぎぁあああああああああ! このわしがぁあああああああああ! 魔王が負けるなどぉおおおおおおおおおお!」
邪悪なるものを焼き尽くし、古城を粉砕。
炎の鳥はそのまま天へと上っていき、魔界を覆っていた暗雲を焼き払う。
雲1つない青空が広がり、太陽の光が降り注ぐ。
『邪悪なるものを焼き尽くす、最大の一撃。見事な剣であったぞ、さすがはエレンじゃ!』
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いえぇええええええええええい!
エレンの勝利勝利勝利ぃいいいいい!
うんうん、良いね! 最高の一撃だったよぉおお!
これなら伝説に残ること間違いなしだね!
ちゃあんと語り部も残してあるしぃ~♪
これでエレンは魔王を倒した最強の勇者ってことで、末永く歴史に名を残すだろう!
やったー! FU~♪
……さてっと。
最後の仕上げといかないと……ね?
卑怯にも逃げた、魔王くん。
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