105話 VS暴食の少女
ぼくたちはついに、魔王の居城へとやってきた。
「せやぁああああああああ!」
アスナさんが魔銀の剣を振ると、行く手を阻んでいた魔族達が消し飛ぶ。
ぼくらがいるのは長い廊下の途中だ。
「凄い数の魔族ね……アタシたちを見るなり問答無用で襲ってくるなんて」
まだ悪い魔族も結構な数がいるんだなと、ここへ来てから実感する。
「しっかし魔王の城ってことで、なんだい敵が次から次へとうっおしいったらありゃしないねぇい」
紫音さんがため息をつく。
「ぼくの代わりに戦ってくれて……ごめんなさい」
城に入ってからぼくは戦闘をしていない。
否、させてくれない。
「気にしないの、エレン。あなたには魔王を倒す使命があるんだから」
「そうよ、こんな雑魚達に力を使う必要ないわ」
「ザコの相手はあたいらに任せな」
「……みんな、ありがとう!」
仲間達が笑顔でうなずく。
ぼくらは魔王の城を進んでいく。
『若様、この先の【墳墓】を超えると、いよいよ魔王の部屋になっている、とアウルからうかがっております』
城へ来る途中で、アウルさんと別れた。
さすがに敵地のど真ん中に、非戦闘員を連れてはいけない。
ぼくたちは大きな扉の前までやってくると、がちゃり……と開ける。
薄暗い室内へと、侵入する。
「墳墓っていうから、遺体があるのかと思ったけど……」
「骨ばっかりさね。ん? アスナ、どーしたんだい?」
「ふぇ!? べ、べつにぃ!?」
青ざめた顔で、アスナさんが震えている。
アスナさん怖いの苦手だからなぁ……
「大丈夫、アスナさん?」
ぼくは彼女の手を握って問いかける。
アスナさんはホッ……と安堵の吐息をつく。
「うん、大丈夫よエレン。ありがとう、あなたのおかげ」
「おふたりさん、良い雰囲気のところわりぃけど……敵さん、お出ましのようさね」
紫音さんがにらむ先には……小柄な人物がいた。
体をボロ布ですっぽりと覆っている。
『くっ……! なんてプレッシャーです! 若様……!』
「ラン、大丈夫。戻ってて」
ぼくは神狼たる彼女に手を向ける。
ランは青い光へと変化し、ぼくの身体の中に入った。
これは精霊の神子の技能、【精霊収納】だ。
従えている精霊を主人の身体の中に収納する技能である。
「…………」
「おまえが魔王軍幹部の、最後の一人かっ!」
ぼくの問いかけにフードの人物は応えない。
『くくく……よくぞ来たな、愚かなる勇者よ……』
いずこからか老人の声が響いてきた。
「だれだっ!?」
『この城の主、といえば貴様のような小さな脳みそでも理解できるかなぁ? んんぅ~?』
「魔王……!」
勇者が倒すべき相手の声が、墳墓のなかに響いてくる。
「どこだっ!? 出てこい!」
『くく……その必要はない。なぜならば貴様らは、そこにいる魔王軍最後の幹部、【暴食】に喰われて死ぬからだ……!』
ボロ布を纏った人物が、2本の腕を前に向ける。
……やけに細く、それでいて色白な腕だった。
特筆すべきは、両手の平に空いた【穴】だ。
『さぁ暴食よ! 食ってしまえ!』
魔王の呼びかけに応じるように、それは発動した。
ごぉおおおおお……! と激しい風が吹く。
「なっ!? なに!? 風!? どこから!?」
「いいえ、アスナ違う! あたしたち吸い込まれてるのよ! あの【手の穴】に!」
暴食の手へと、風が吸い込まれていく。
墳墓にあった遺骨たちが一瞬で全部吸い込まれた。
「なんて吸引力……きゃぁあああああ!」
「紫音さん!」
バッ……! とぼくが手を伸ばす。
「坊や来るな! おまえが死んだら元も子もない!」
「けど……!」
『エレンよ、まずは結界を張るのじゃ』
ぼくは風の結界を張る。
なんとかあの吸引力からは逃れられた。
すっ、とぼくの前にアスナさんが立つ。
「エレン、任せたわよ」
「アスナさん!」
バッ! とアスナさんが穴に向かってジャンプする。
片方の手で紫音さんを掴み、逆の手で剣を地面に突き刺す。
「よ、良かった……これで……」
『ハッ……! その程度で救ったつもりかぁ!? 本気を出せ、暴食よぉ!』
そのときだ。
カッ……! とボロ布の奥で、赤い光が発生する。
「う、ぐ……うがぁあああああああああ!」
「な、なに……!? 突然あいつ、苦しみだしたけど……」
暴食はさらに吸引力を強めた。
「く……! もう……だめ……!」
「アスナさん!」
剣が手から離れると、彼女たちは暴食のもつ穴の中へと、吸い込まれていった。
「そんな……ふたりとも……」
大事な仲間を助けられず、無力感が襲ってくる。
「エレン、しっかり!」
ぱしっ、とティナがぼくの頬をぶつ。
「あれは【暴食の風穴】ってスキル。取り込んだものをいったん、異空間へと収納するの。そこで時間をかけてため込んだものを消化する」
「そ、そうか……! すぐに死ぬわけじゃないんだね!」
「そうよ、だからエレン……まずはあの暴食を倒しましょう」
ぼくらはうなずいて、改めて敵を見やる。
ボロ布を纏った小柄な人物。
伸ばした両手のひらには、全てを吸い込む【風穴】。
依然として風穴はぼくらを吸い込もうとする。
「魔法で目くらましするから、エレンは倒して!」
「了解!」
ティナが杖を前に出して魔法を発動。
「【煉獄業火球】……!」
極大の炎は、弾丸となって射出される。
『ハッ……! 無駄無駄ぁ! 魔法すらも風穴に吸い込まれてしまうわぁ! そんなこともわからぬのかバカどもめ!』
「ええ、わかっているわ。だから!」
魔法が途中で軌道を変える。
正面じゃなく、ティナは最初から天井を狙っていた。
瓦礫が暴食の元へと堕ちる。
暴食は襲われないように、両腕を頭上に向けた。
一瞬で、瓦礫が吸い込まれる。
「今よ!」
風穴が吸い込む対象を変えたことで、ぼくらをむしばむ風は消えた。
一瞬で暴食の懐まで潜り込むと、ぼくは聖剣を振るう。
だが、紙一重で暴食は避けた。
『なっ!? そんなバカな。今のエレンの強化された一撃をかわすなど!』
『はははぁ! どうだぁ! 暴食はなぁ、取り込んだ者の力を自分のものにできるのだぁ!』
暴食は風穴に手を突っ込むと、そこから魔銀の剣を取り出す。
「それは……アスナさんの剣!」
無言で暴食はぼくに向かって斬りかかってくる。
鋭く、そして神速の剣戟。
これは剣神の剣術!
『ふはははぁ! どうだぁ! 風穴ですべてを飲み込み、また風穴を抜けたとしても今まで彼奴が吸い込んできた敵の力をこうして模倣し倒すことができる!』
「そんな……そんなの、無敵じゃない……」
「ティナは下がってて!」
暴食の剣術は、剣神のものだけじゃなかった。
一撃一撃が重く、そして変則的だ。
取り込んだ敵の剣術全てをトレースしているようだ。
『どうだぁエレぇええええン! うちの暴食は無敵! 誰にも絶対勝つことはできぬのだぁああああああああ! ふははははぁああああああああ!』
暴食が超高速で、魔銀の剣を振り下ろす。
ぼくはその軌道を見切り、聖剣で弾く。
パリィン! と金属音とともに、魔銀の剣が弾じかれる。
『なっ!? そ、そんなばかなっ!』
「てやぁああああああああ!」
がら空きの胴体に、聖剣の一撃をぶち込む。
体勢を向こうが崩したらしく、致命傷にはならなかった。
暴食は距離を取り、また風穴でぼくを吸い込もうとする。
こっちも距離を取って、風の結界を張る。
『な、なぜだ!? なぜ暴食の剣が効かなかったのだ!?』
「当然だ! その剣術が……借り物だからだ!」
剣筋を見て一発でわかった。
敵は剣のプロじゃないと。
単に獲得した剣術スキルをトレースしているだけ。
つまり、本人は剣の素人だった。
「だから【契約破棄】で剣術スキルを消させてもらったよ!」
『なるほど、エレンは今日まで剣の稽古を怠らなかった。純粋な剣術ではエレンの方に分がある、というわけじゃな。さすがはエレンじゃ』
風穴をどうにかし、接近すれば勝てる……!
『く、クソ……! だ、だが……くくく、果たして暴食を切れるかなぁ、エレンぅ?』
「気をつけてエレン! まだ何か隠し持ってるのかも!」
ぼくはティナがやったように、不死鳥の炎で壁を壊す。
そちらに暴食が意識を向けている瞬間、接近する。
「これで終わり……なっ!?」
そのとき、ぼくは気づいた。
ボロ布がぱさりと……切れた。
そこにいたのは、年端もいかない女の子だったのだ。
「女の子……」
「苦しい……苦しいよぉ……」
ぽろぽろと暴食……いや、女の子が涙を流している。
「もう、食べたくない、おなかいっぱいだよぉ……」
ぼくの剣は……止まってしまう。
「エレン! 斬って!」
『ふはははあぁ! できぬよなぁエレンぅ! おまえは女子供を切れぬと報告を受けているぞぉ……!』
いくら敵だからと言って、女の子を、しかもこんな小さな子を斬ることなんて……。
でも……アスナさんは吸い込まれてしまっているし……。
『今じゃ! やれ、暴食ぅ!』
魔王が彼女に命じる。
だが暴食は首を振る。
「もうやだよぉ……これ以上食べられないよぉ……」
涙を流しながら、彼女は首を振る。
風穴で食べていたのは、彼女の意思じゃなかったのか……?
『わしに逆らえると思うなよぉ……!』
そのときだ。
彼女の額に、なにか【印】が浮かび上がる。
「う、ぐ、ぐぁあああああああ!」
暴食の女の子が突如として苦しみ出す。
「エレン! それは服従の呪印! 相手に強制的に言うことを聞かせる呪いよ!」
印から赤い光がもれる……それは、血だった。
「こんな女の子に……痛い思いをさせるなんて……」
ぼくは少女のことを、正面から抱きしめる。
「痛くない、痛くないよ」
一瞬、女の子が目を丸くする。
じわり……と涙を流す。
「エレン! 逃げて! 服従の呪いからは絶対逃れられない!」
『その通りじゃ! 暴食よ! 勇者を食らえぇえええええええええ!』
女の子が腕をぼくに向ける。
「ごめん、なさい……」
「大丈夫、ぼくが……きみも救うから」
風穴が発動し、ぼくは吸い込まれていった……。
「そんな……エレン……」
『はーっはっはぁああ! 勝った! 勝ったぞぉおお! わしの勝ちじゃあああああああああああああああ!』
そのときだった。
ぶわっ……! と炎が巻き上がり、ぼくは元の場所へと転移してきた。
「エレン!」
『なんだってぇえええええええ!?』
ぼくの両隣には、アスナさんと紫音さんがいる。
「ふたりとも! 無事だったのね!」
「ああ、エレンがうちらを連れて転移してくれたさね。たいしたやつだよ、この坊やは」
一方で、魔王は激しく動揺していた。
『あ、あり得ぬ! 暴食が吸い込んだ先は異空間! 絶対に抜け出せぬ場所だぞ!?』
『ふんっ、精霊の神子へと進化したエレンの大翼を使えば、いずこだろうと一瞬で跳べる。たとえ抜け出せぬ場所であろうとな。さすがエレンじゃ!』
ぼくは暴食の前に立つ。
『だ、だがどうした! 暴食よ! 何度でもその勇者を食え! 食えええええ!』
また呪印が発動する。
けれど、ぼくは女の子の頭に手を置く。
『ハッ……! 無駄無駄ぁ! その呪いは誰一人として解呪できたものはおらぬ!』
だが、額に浮かんでいた印が、ぼくの能力発動と同時に消える。
ふらり、と女の子が崩れ落ちそうになるのを、ぼくが受け止める。
「大丈夫かい?」
「うん……おにいちゃん……なにしたの?」
「キミを痛くしていた呪いを、不死鳥の聖なる炎で焼いたんだ」
進化した不死鳥の炎は、どんな呪いだって解除できるのだ。
「もうこれで痛くないよ。良かったね」
「うん……ありがとぉ、おにいちゃん……」
暴食の女の子が、涙を流しながら言う。
『バカなバカなバカなぁあああああああああああああああああ!』
「……残りはおまえだけだ、魔王!」
ぼくは女の子をアスナさんに預けて、一歩前に出る。
「こんな年端もいかない女の子を、無理矢理戦わせるなんて……ぼくは、ぼくはおまえを、絶対許さない!」
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………………はっ! やっべ、僕のエレンがかっこよすぎて気絶してたよ!
ふわぁあああああああ!
エレン! エレン! かっこE~!
正義に燃えるエレン超かっこいいよぉおおおおおおおおお!
……さて。
魔王にはペナルティ必要だね。
いよいよ大詰め。
僕のエレンが、巨悪を打ち倒す重要なシーンだ。
しっかりとサポートさせてもらうよ、エレン♡
……覚悟しておけよ、魔王
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テイマーが好きな方なら、ご満足いただける内容となってますので、よろしければぜひお手に取ってくださると幸いです!
【作品URL】
https://ncode.syosetu.com/n5242fx/
「不遇職【鑑定士】が実は最強だった〜奈落で鍛えた最強の【神眼】で無双する〜」




