104話 邪悪なる女神、その名はユゴス
テイマーのエレンによって、魔王軍幹部・怠惰のレイジが撃破された。
魔王城、魔王の間にて。
「よもや幹部が残り一人とは、嘆かわしいものだ」
玉座に座る魔王は、深々とため息をついた、そのときだ。
『【グシオン】、聞こえていますか、グシオン?』
突如聞こえてきた女性の声に、びくんっ! と魔王は体を硬直させる。
「ゆ、【ユゴス】様!」
魔王グシオンは立ち上がると周囲を見渡す。
ぶんっ、と立体映像が魔王の前に出現する。
そこにいたのは、メガネをかけた美しい女だった。
「ユゴス様! ご機嫌麗しゅうございます!」
ぺこぺこと頭を下げるその彼がレイジを残忍な手段で処分したものと誰が同じと思うだろうか。
「いやはや今日もユゴス様はお美しいでございますなぁ! さすがは【女神】の名にふさわしいかと!」
卑屈な笑みを浮かべて、魔王は女神ユゴスに手をこすりながら言う。
魔王の態度を見れば彼らの力関係は明白だった。
「それで女神ユゴス様に於かれましては、どうされましたのでしょうか? わたくしめに何か御用でしょうか?」
『人間界征服の作業に暗雲が立ち込めていると思い、こうして連絡を取ったのです』
暗雲、すなわち勇者エレンの存在だ。
『たかが人間一人に、何をそんなに手こずっているのですか?』
女神から発せられる静かな怒気に魔王はガクガクと震える。
「も、申し訳ございませぬぅうう!」
魔王はその場に膝をついて深々と頭を下げる。
幹部を恐怖で震え上がらせたものと同一人物だとは思えぬほどの小物っぷりであった。
「し、しかしご安心召され! このわたくしグシオンと、そしてユゴス様が手配した【暴食の転生者】がいれば! たちどころに勇者を撃滅してみせましょう!」
魔王軍幹部最後の一人もまた、女神ユゴスの手配した、異界から連れてきたものだ。
『たしかに【暴食】は強いですが、できれば使うなと命じておいたのを忘れたのですか、グシオン?』
ガタガタと魔王が体を震わせる。
「む、無論覚えております! しかしエレンは予想外に強く、暴食の力をもってしてでないと太刀打ちできないかと」
魔王の左腕、暴食のグラトニー。
右腕たるレイジをも凌駕する幹部最強の【化け物】だ。
『……いったい何者なのですか、そのエレンという少年は?』
「わ、わかりませぬ。奴は面妖な術を使い次々と幹部を撃破していくのです」
『彼の使う術の正体は?』
「わかりません。も、申し訳ございませぬ……」
はぁ、とユゴスは大きくため息をつく。
『使えない男ですね、おまえも』
「も、申し訳ございませんぅううううううううう!」
ぺこぺこと魔王は頭を下げる。
だがユゴスの表情は、まるで道端の蟻を見るようであった。
『謝ることは誰にでもできるのです。結果を出しなさい。そんな子供でも分かることがどうしてわからないのですか? 愚図にもほどがありますね、まったく』
ぐぎぎ、と魔王が歯噛みする。
だが反抗的な態度はとれない、それほどまでに女神ユゴスは強大な力を持っているのだ。
なにせ際限なく、異世界より戦士を召喚し、彼らに無双の力を授けるのだから。
『……なんですか、その反抗的な目は?』
ユゴスの美しい顔が不愉快そうに歪む。
『下等な生物の分際で神たる私に歯向かうつもりですか?』
「め、滅相もございませぬ!」
魔王は土下座した状態で頭を地面にグリグリとこすりつける。
「あなた様に歯向かう気などは決して! 決してございませぬぅううう!」
『……だから、口では何とでも言えるでしょう。行動で結果で示しなさい。私はさっきも
同じことを言いましたよね? 二度も同じことを言わせないでください、無駄なんですよ』
「すみませぬ! すみませぬううううううう!」
この場に誰もいないことが魔王にとって唯一の幸運だった。
こんな恥ずかしい姿を誰かに見られでもしたら死んでしまう……。
『さっさと結果を出しなさい。さもなくば、あなたもほかの幹部たちのように、死よりも恐ろしい苦痛を味わわせてもよいのですよ?』
ユゴスは酷薄に笑う。
「ま、まさか……幹部たちの謎の死は……?」
『彼奴らは神の怒りに触れました。当然の報いですね。……あなたも、ああなりたいのですか?』
ガタガタ、ガタガタとさらに魔王は震えあがる。
部下の変死、その報告を聞いてはいたが、誰がやったのか依然として不明だった。
「い、嫌です! 嫌ですぅううううう!」
『ならば本気で勇者を倒すのです。できなければ……わかっていますね?』
静かなる殺気に気圧され、魔王はみじめに震えながら頭をこすりつける。
「必ずや! 必ずや! 我らに楯突く愚かな勇者を抹殺してくれましょう!」
『そういうセリフは不要ですのです。さっさと倒しなさい。この愚図!木偶の坊!』
さんざん罵った後、ユゴスはその場を後にする。
魔王グシオンは怒りで顔を真っ赤にしながら立ち上がる。
「おのれ……おのれおのれおのれぇええええええええええええええ!」
憤怒の形相を浮かべながら、魔王は体から莫大な魔力を噴出する。
ドガァン!と激しい音を立てながら魔王の城は半壊した。
魔法ではなく感情の高ぶりによる魔力の暴走だけで壊して見せた。
「おのれ勇者! よくもわしに恥をかかせてくれたなぁあああああああああ!」
自尊心の高い魔王は誰かに媚びへつらうことなど本当はしたくなかった。
しかし、あの女神は別次元の強さを持っている。
ゆえに従うしかなかったのだ。
「殺す! エレン! 貴様はこの魔王グシオンが! 地獄の苦しみをたっぷりと味合わせてから殺してやる! 殺してやるぅううううううううう!」
……さて。
そんな姿を見やる影が、2つ。
「なにあれ、魔王なんか小物すぎない?」
はぁ、と呆れた調子でため息をつくのは、精霊王ルルイエ。
「あいつも馬鹿だね、エレンに敵意を向けてきた者たちが、どんなふうになったのか学ばないんだからさ」
「……まったくもってその通りでございますね、ルルイエ様」
ニコニコと笑いながら賛同するのは、赤い目をした、エレンの母親にそっくりの女性。
ふくろうこと、アウルだ。
「……しかし、先ほどの女、不敬にもほどがありますね」
一転して、怒りの表情をアウルが浮かべる。
「……あのユゴスとかいう女、エレン様が下してきた制裁を、自分の手柄にしておりました」
……ペナルティを執行してきたのはルルイエ(の暴走)なのだが、彼女もまた怒りの表情を浮かべてうなずく。
「まったくだよ! 僕のエレンが行ってきた正義の執行を! あんな意味不明な女がやったことにされるのは我慢ならないね!」
ルルイエ自身、数多く行ってきたペナルティは、あくまでエレンの意思に沿って行っていると思っている。
実態はルルイエが勇者の正義感を曲解し、勝手にやっているだけなのだが。
「悪に罰を与えるのは、正義の執行者たるエレンの偉業! その手柄を横取りするなんて言語道断だよ!」
「……ルルイエ様のおっしゃるとおりでございます。極刑に値すると思います」
「今度ばかりはおまえと意見があったね、ふくろう。さて……と。馬鹿魔王の相手は僕がするから、おまえには別の仕事を任せたい」
アウルは精霊王の前で、恭しく跪く。
「あのユゴスとかいう自称女神を調査しろ。あいつだけじゃない、その背景にあるものも全てだ」
「……御意。すべてエレン様のために」
ふっ、とアウルはその場から煙のように消える。
「まったく愚かな女だ。異界よりサルを呼び寄せ力を与えるだけで神を気取るなんてね。滑稽この上ないよ」
やれやれ、とルルイエが呆れた調子で言う。
「直接的ではないにしろ、エレンに害意を向けたんだ。覚悟しておきなよ、自称女神?」
ルルイエはきびすを返し、その場から消えるのだった。
【※お知らせ】
別で連載中の「不遇職【鑑定士】が実は最強だった」の書籍版が、本日発売されます!
テイマーが好きな方なら、ご満足いただける内容となってますので、よろしければぜひお手に取ってくださると幸いです!
【作品URL】
https://ncode.syosetu.com/n5242fx/
「不遇職【鑑定士】が実は最強だった〜奈落で鍛えた最強の【神眼】で無双する〜」




