103話 怠惰なる転生者の末路
怠惰のレイジ。
日本での名前は、上諏訪 玲二といった。
レイジはアニメやマンガなどが好きな、いわゆるオタク。
通っていた高校において、いじめが原因で引きこもり状態だった。
そんなある日、レイジはトラックにひかれて死亡する。
気づくと真っ白な世界にいて、そこで【上位存在】と邂逅。
チート能力【リョウメンスクナ】をもらい、異世界へと転移したのだった。
さて。
話は、テイマーのエレンに完敗した数時間後。
レイジは魔王城にいた。
「ご主人さま、大丈夫ですか……?」
彼の私室には、メイド姿の美少女がいる。
彼女は、レイジがこちらの世界に来て手に入れた奴隷少女である。
「…………」
レイジは無言でメイドの頬をぶつ。
「きゃっ!」
「誰が助けろって言った……なぁ?」
「も、申し訳ございません! ですが、あのままではご主人さまが、勇者に捕まってしまうかと思って……」
エレンに敗北した直後、あの場に煙幕が発生。
メイドがやってきて、彼を抱えて、ここまで転移してきたのだ。
「勝手に判断してるんじゃねえ! 奴隷の分際で!」
レイジは憤怒の表情を浮かべると、メイドの腹を殴る。
「カハッ……!」
「僕は! あそこから逆転するはずだったんだ! 秘めたる力が覚醒とかして! あのムカつくガキをボコボコにするとこだったんだ!」
げしっ、げしっ、と連続でメイドの腹を蹴り飛ばす。
「そのチャンスを邪魔しやがって! 奴隷の分際で図に乗るんじゃねえ!」
「お、おやめくだせえ……! 旦那様……!」
大柄な人狼の男が、レイジの前に立ち塞がる。
人狼の首にも、メイド同様に、ゴツイ革の首輪がしてあった。
「なんだ奴隷2号?」
「この子が旦那様の命を助けたのは事実じゃないですかい! 感謝こそすれ、殴るなんて酷いじゃあないですかい!」
フンッ、とレイジが小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「感謝ぁ~? するわけないだろこんな最底辺のゴミクズに」
見下した表情で、レイジが吐き捨てる。
「いいか? 僕は、おまえらモブキャラと違う、選ばれし存在……そう、主人公なんだ」
主人公。
そう、レイジの境遇は、彼が愛した物語の主人公と同じだった。
トラックにひかれた主人公は、女神に選ばれ、強大な力をもらい、異世界で無双する。
ネットの海には数多くのそれら物語群は存在する。
けれど、どれも作り物……フィクションだ。
「僕は違う! 現実に異世界転生しているやつがいるか? いないだろ! けど僕は違う! 今ここでこうして、最強の力を手に無双している、作り物じゃない、本物の主人公なんだよぉお!」
ぎゃははっ、とレイジが笑う。
人狼は、主人が何を言っているのかさっぱり理解していないようだった。
「選ばれし存在だからって、こんなふうに弱いものにヤツ当たりするような、横暴な振る舞いが許されるというんですかい……?」
「もちろんだ! だって僕は強いからさ!」
両手を広げて、レイジが言う。
「弱いヤツは強いヤツの言いなりになる。弱肉強食は世の常だろ?」
レイジは、倒れ伏すメイドの顔に足を乗せて、ぐりぐりと踏みつける。
「う、うう……」
「最強の力を持つこの僕こそが! この世を好き勝手にできる、まさに主人公なんだよぉ!」
「……魔王様や勇者よりも弱いくせに、ですかい?」
ぴくっ! とレイジの額に血管が浮かぶ。
「あー……? なんかいったか、てめえ?」
「ああ言ったさ! 何度でも言ってやる!」
人狼は怒りで声を荒らげながら言う。
「スクナの力が強いだけで! おまえ自身は弱いだろ! その強さだって、所詮はもらい物の力のくせに!」
そう、転生したけれど、レイジの体は日本でのそれと同じだ。
ステータス的に言えば、この世界の現地人たちに劣る。
「女神からせっかくもらった強い力を! 悪事や弱いものいじめに使う……! そんなおまえは幼稚なクズに他ならない!」
「……言いたいことは、それだけか?」
レイジは怒りで顔を真っ赤にしながら、人狼をにらみつける。
「彼女から足をどけろ! 異世界人!」
「やだね。ザコが。調子に乗りやがって……思い知らせてやるよ、所詮てめえはモブでしかないってことをなぁ……!」
バッ……! とレイジは手を頭上にかざす。
「スクナぁ! 僕の魔力を吸って、目を覚ませぇ!」
リョウメンスクナは、転生者レイジに与えられしチート能力。
不可視の体、圧倒的なパワーのほかに、魔力を注げば消滅したとしても復活する、圧倒的な再生能力を持つ。
「おまえもスクナの凄さを知ってるだろぉ~?」
「くっ……!」
人狼はこのレイジという男が、今まで多くの者たちを、スクナの力で屠ってきた現場を見てきた。
その場から一歩も動かず、大群を蹴散らすその姿は……まさに無双の力そのもの。
「逆らったてめえも! このメイドの屑も! 踏み潰せ……スクナぁああああ!」
しーん……。
「なっ!? ど、どうした!? おい! スクナ! おい! 応答しろぉ!」
だがレイジの呼びかけに、不可視の鬼神は応じない。
「うぉおおおおおおおおおお! 喰らえええええええええ!」
人狼は全速力で近づくと、レイジの顔面に拳を叩き込む。
「ぶげぇええええええええええ!」
レイジはくるくると宙を舞うと、地面にグシャリと倒れ伏す。
「いたい……いたい……いたいよぉ……」
ポロポロとレイジは涙を流す。
そう、あくまでレイジの強さはスクナに依存する。
今、精霊王のペナルティによって、鬼神リョウメンスクナを使役する力は、剥奪された。
となると今のレイジは、ただの非力な引きこもりの高校生。
「よくも今まで散々好き放題やりやがったな! この! この! このぉ!」
人狼は怒り心頭の様子で、鬱憤を晴らすかのように、レイジに暴力を振るう。
「どうなってるんだよぉ……でてこい、すくな、なにをやってるんだよお、すくなぁ……」
レイジはボロボロになりながら、なすがままになっていた。
ややあって。
人狼は奴隷のメイドを連れて部屋を出て行った。
あとにはゴミクズのように転がっているレイジだけが残される。
「ちくしょぉお……おぼえてろよぉ……」
悔し涙を流しながら、憎悪の表情を浮かべる。
「エレン……それにさっきの奴も……僕を馬鹿にしてきた存在……すべてに……復讐してやるぅ~……」
と、そのときだった。
「無様だな、怠惰なる男よ」
「ま、魔王……」
倒れ伏す自分を見下ろすように、魔王が立っている。
「先ほどまでの一件、全てこの目で、しかと見させてもらったぞ」
サァ……とレイジの顔色が青ざめる。
すべて、と魔王は言った。
それすなわち、勇者との戦闘に負けたことも、ばっちりと見られているということ。
「ち、ちがうんだ……聞いてくれ、おっさん……」
よろよろと立ち上がると、レイジが魔王の肩につかみかかろうとする。
バシッ……!
「気安く触れるな、無礼者!」
魔王に一喝されると、レイジは吹っ飛ばされる。
壁に激突して、ずるりと倒れる。
「よいか、貴様の振る舞いに口を出さなかったのは、貴様が比類なき強さを持っていたからだ」
魔王がレイジを見やるその目は、虫けらに向けるものと同じだった。
「スクナのないおまえに価値など毛ほどもない。羽虫にも劣る」
「そ、そんなぁ~……」
魔王のその眼をレイジは知っている。
教師、友人、親。
彼が自分を見る眼とそっくりだった。
地球にいた頃、散々向けられてきた蔑みのこもった眼。
「いやだ……魔王さまぁ~……僕を見捨てないでくれよぉ~……」
這いつくばりながら、レイジは魔王に近づく。
「必ず、必ず力を取り戻して、あの勇者の奴を倒してみせるからさぁ~……。なぁ~……僕にもう一度、チャンスをくれよぉ~……」
今までの人生レイジは色んな人から見捨てられてきた。
もう、誰かに見限られるのは嫌だった。
異世界に転生したとはいっても、その本質は地球にいた頃と何も変わらない。
大きな力を持って増長していただけの、ただのガキ。
それが転生者レイジという男だった。
「ふむ、そうさな。チャンスをくれてやらんこともない」
「ほ、ほんとかっ!」
「ああ、しかし……誠意は見せてもらおう」
「せ、誠意って……なんだよ? 何をすればいいんだよ……?」
にんまり、と魔王が邪悪に笑う。
「おぬし、言っておったな。失敗したときは裸でスカイダイビングして土下座をすると」
さぁ……とレイジの顔から血の気が引く。
「やってもらおうか。遙か上空から裸でスカイダイビング土下座」
「い、いやだ! 今そんなことしたら……!」
スクナがいない以上、上空に放り出されたらどうなるかなんて、火を見るよりも明らかだ。
「それ以外に誠意を見せる方法はないなぁ」
「い、嫌だぁああああ! 嫌だ嫌だやめてくれぇえええええ! たのむぅうう! 他の方法なら何でもしますからぁあああああああああああ!」
「五月蝿い、やれ」
パチンッと魔王が指を鳴らす。
転移の魔法が発動。
レイジは地上から、遥か上空に……何も持たぬ状態で放り出される。
「う、うわぁああああああああああああああああああああああああああ!」
突風が吹き荒れ、体に当たる。
うるさすぎて自分の悲鳴すら聞こえない。
「た、助けろぉおおおお! 女神ぃいいいいいい! 僕をたすけろよぉおおおおお! 異世界に呼んだのはおまえだろぉおおおおおおおお!?」
レイジは声を張り上げる。
「おまえが呼んだ以上僕を助ける責任はおまえにあるだろおぉおおおおお! 別のチート能力をさずけろよぉおおおおお! なぁああああ! おいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
……だが、彼の言葉に応じるものはいない。
なにせ周りは超上空、助けなどきやしない。
そして救いの手など都合良くさしのべてこない。
「嫌だぁああああああああああ! 死にたくなぃいいいいいいいいいいい! 死にたくないぃよおおおおおおおおおお!」
ジタバタと手足を動かすが、何もできない。
どんどん、地上が近づいてくる。
「帰してぇええええええええ! お願いだぁああああああああ! 地球に帰してよぉおおおおおおおおおおおおおお!」
だが、女神への言葉が届くことはない。
……代わりに、【彼女】がやってきた。
「バカだね、レイジ」
「なんだてめえはぁ!? め、女神か!?」
白髪で黒いドレスを着た女性が、優雅に足を組んで空を飛んでいる。
「女神? はっ! あんなチンケな【やつら】と一緒にされても困るね」
「やつら……? おまえは、女神じゃないのかっ?」
「そう、僕はルルイエ。精霊の王。この世全ての奇跡を管理するもの」
レイジは藁にも縋る思いで、ルルイエに泣きつく。
「お願いだ! 力を授けてくれ! なんでもいい! この状況を打破できる力を寄越せ!」
するとルルイエは、はん、と馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「誰がキミに力を寄越す? もらっただけの力を我が物顔で、私利私欲のために使い、平気で悪事に利用する」
蔑んだ表情でルルイエが言う。
「そんなキミに、いったい誰が力をあげようと思うんだよ?キミを選んだ女神はバカ丸出しだね。こんなクズに力を与えるなんてどうかしてるよ」
ルルイエは頬を染めていう。
「その点僕のエレンは違うよ……♡ 彼は与えられし力を正義のために使っている。ああ! かっこいい! ……キミとは大違いだよ、転生者」
精霊王はエレンにしか力を貸さない。
こんな悪人に手を差し伸べるほど、慈悲深くないのである。
「ああ、ほら。もうちょっとで地上だよ。ほら、土下座して見せなよ」
「うわぁあああああああああ! いやだぁあああああああああああああああ! 死にたくないよぉおおおおおおおお!」
「キミはスクナという強大な力を人から与えられただけの、ただの愚図にすぎなかったんだよ。そのことを、ちゃあんと地獄で反省するんだね」
グシャッ……!
地面には赤い血だまりができている。
ルルイエは上空から潰れた死体を見下ろしていう。
「さよなら、転生者レイジ。次も都合良く異世界で生まれ変われるといいね」
ルルイエは目を閉じて、精霊達の声を聞く。
「……ん? ああキミ次は【ナマケモノ】に転生するみたいだよ。チキュウにある動物園のね」
ルルイエはクスクスと笑いながら、彼女は言う。
「怠惰な君に、ぴったりの転生先じゃない」
彼女は優雅にドレスを翻し、その場を後にするのだった。
【※お知らせ】
別で連載中の「不遇職【鑑定士】が実は最強だった」の書籍版が、10月2日に発売されます!
テイマーが好きな方なら、ご満足いただける内容となってますので、よろしければぜひお手に取ってくださると幸いです!
【作品URL】
https://ncode.syosetu.com/n5242fx/
「不遇職【鑑定士】が実は最強だった〜奈落で鍛えた最強の【神眼】で無双する〜」




