102話 怠惰な転生者はチート無しでは弱い
ぼくたち【緋色の翼】は、魔王を討伐するべく魔界を旅している。
ある日のこと。
いよいよ魔王城が見えてきた、湿地帯にて。
『若様、敵でございます。今までに無い……強力な魔力の波動を……きゃうんっ!』
ランがガクンッ、とその場で気を失ってしまう。
神狼を気絶させるほどの、強大な魔力を感じる。
「へぇ~……おまえが勇者エレンか。なぁんだ、想像より遙かに弱っちそうだ」
湿地帯の中央に、その男は立っていた。
歳はぼくと同じか、ちょっと上くらいだろう。
白髪に赤い眼。
一見すると人間に見えるけれど、彼の放つ異様かつ膨大な魔力は、人間のそれじゃない。
「魔王の幹部かっ!」
「そんなことも見てわかんないの? まったく拍子抜けだ。幹部5人を屠ってきた勇者も、大したことなさそうだね」
にんまりと笑って、彼が言う。
「僕は魔王軍幹部、怠惰のレイジだ」
「怠惰の……レイジ」
「おまえを殺す男の名前だ。よーく覚えておきなよ。さて、じゃサクッとやりますか。1分は持ってくれよ?」
ざっ、と一歩レイジが前に出る。
ぶわっ……! と湿地帯に魔力の嵐が吹き荒れた。
「エレン、下がって」
「アスナさん!」
白銀の鎧を着込んだ美女、アスナさんが、魔銀の剣を構えて言う。
「あなたには魔王を倒すという使命がある。ここで大けがされては困るわ。ここは私たちが」
ビキッ、とレイジの額に血管が浮き上がる。
「舐めてんじゃねえぞザコどもが。用事があるのはそこの勇者だけ。おまえたちは引っ込んでなよ」
「そうはさせないわ! いくわよ、紫音!」
たんっ……! とアスナさんと鬼の紫音さんが、超高速で走り出す。
「ま、待ってふたりとも! 飛び出すのは危ない!!」
「せやぁあああああああ!」「うりゃぁあああああああああああ!」
アスナさん達がレイジに攻撃しようとする。
彼はポケットに手を突っ込んだまま、はぁ、とため息をついていた。
ガキンッ!
「なっ!?」「そ、そんな! あたいらの攻撃が……防がれてる!?」
彼女たちは空中で静止している。
否、見えない何かに阻まれて、レイジに近づけないのだ。
「その程度で僕を殺るつもりとか、ちゃんちゃらおかしいんだけど?」
「なにがどうなってるんだい! 剣神と鬼神の攻撃をこんな容易く受け止めるなんて!」
「驚くことはない。おまえらがゴミなだけだ」
バキッ、とアスナさん達が吹き飛ばされる。
「アスナさん! 紫音さん!」
ぼくは風魔法でふたりを受け止める。
一方でティナが極大魔法を発動させた。
「【颶風真空刃】!」
レイジを中心に、巨大な竜巻が起こる。
「こんなの効かないってのに。無駄な魔法うっちゃって、バカじゃないの?」
「そうとも言えないわ!」
沼の泥が風で巻き上がり、レイジの背後に立っていた【それ】に当たる。
泥が塗りたくられ、見えていなかった敵の正体が見えた。
「巨大な……鬼?」
4本腕の、二つの顔を持つ巨大な鬼だった。
「そう、これこそが僕の力、【鬼神リョウメンスクナ】さ!」
仰ぎ見るほどの巨人は、4本の腕にそれぞれに、武器を握っている。
アスナさん達はあれにやられたのだ。
「そんな……剣神たちを軽々弾き飛ばす膂力と、気配すら消すその能力。なんて強い敵なの……?」
ティナが青ざめた顔で言う。
「この力がある限り僕は無敵さ! やれ! スクナ! 僕の鬼神に泥を塗った無礼なエルフ女を殺せぇ!」
鬼神は咆哮をあげると、拳を思い切り振り下ろす。
その巨体に見合わない速さの一撃……。
「もうだめ……!」
がきぃいん!
「へぇ、この一撃を弾くんだ。虫にしてはやるじゃん」
「エレン!」
ティナの前に立って、聖剣を構えている。
聖剣の一撃で、スクナの腕を弾き返したのだ。
「みんなは下がってて」
「けど……! エレン! あなた一人じゃ危険よ!」
ぼくはアスナさんに笑いかける。
「大丈夫! ぼくに任せて」
復活したランが、アスナさんの腕を引いて下がる。
ぼくとレイジは、相対する。
「ぷっ! なにさっきの。仲間の影でビビってたガキが、僕とこの最高の鬼神に勝てるとでも思ってるの?」
「もちろん。ぼくは女性に手を上げるようなひとを、絶対に許さない!」
「しゃしゃってんじゃねえぞガキ。まあいい、スクナの恐ろしさ……存分におしえてやるよ」
スクナが吠えると、空気が振動し、全身の泥が弾き飛ぶ。
泥が無くなったことで、鬼神はまた姿を消した。
「スクナ、死なない程度になぶってやりな」
『オォオオオオオオオオオオオオオオ!』
鬼神が吠える。
声はするけど、依然として見えない。
だけどぼくは恐れない。
「はっはぁ! 敵を前にブルって手も足も出ないとか! 勇者のくせにチキンだなぁ!」
それは突然だった。
ドドドドッ! と巨大な衝撃が、ぼくの周囲に走る。
湿地帯に巨大なクレーターがいくつもできる。
「なんだ、もうおしまいかよ。さんざんイキり散らしておいてこの程度か。がっかり」
「まだ終わってないぞ!」
ぼくは剣を構えていう。
「なっ!? ば、バカな! なぜ無事なんだ!」
「おまえに答える義理はない! たぁ……!」
ぼくは地面を蹴って、レイジめがけて飛び出す。
「くっ……! スクナぁ! もういい殺せ! ひねりつぶせ!」
『オォオオオオオオオオオオオ!』
レイジの命令で、鬼神が反応する。
ぎゅっ! とぼくの体が、見えない何かに捕まれ、持ち上がる。
「そのままトマトのように握りつぶせぇ!」
ぐしゃっ!
「はっはー! どうだぁ!」
「なにがどうだだっ!」
「なっ!? なんだってぇえええええええええええええ!?」
ぼくは空中で、不死鳥の翼を広げて飛んでいる。
ボトボト……と血を流しているのは、鬼神スクナのほうだった。
「あ、あぁあああり得ない! 女神からもらった最強の鬼神! その膂力は地面を割るほどだぞ!? なぜ握りつぶされて無事なんだ!」
『バカめ。今のエレンは精霊達の加護を一身に宿しておる。それはこの世界のどんなものより強固な鎧じゃ。鬼神程度がかなうわけなかろう。さすがエレンじゃ』
ぼくの体の周りは、きらきらと光り輝いている。
「図に乗るなよ羽虫がぁああああ! スクナぁああああ! 殴り飛ばせぇええええええええええええ!」
見えない腕が四本、ぼくに向かって【襲いかかってくる】。
ぼくはその場で上昇し、スクナの見えざる攻撃を避けて見せた。
「そ、そんなバカな! なぜ攻撃を避けられた!? スクナは見えてないはずだろ!?」
「いいや、見えてるよ。ぼくの目には、ハッキリと!」
「ふ、ふざけたことを抜かすなぁ! 術者である僕にしか見えないんだぞぉおお!」
スクナが超高速の連打を浴びせてくる。
ぼくは空中を縦横無尽に飛び回り、紙一重でスクナの連打をかわした。
「ちくしょぉおおおおお! 当たれぇええええ! 当たれよぉおおおおおお!」
『エレンが見ておるのは鬼神の持つ魂じゃ。精霊の神子となったエレンの目は魂の形すらも見抜く。さすがエレン、見事じゃ!』
「くそぉおおお! ちょこまかとうっぜええんだよぉおお!」
スクナが腕を広げる。
切断したはずの腕はなぜか再生していた。
四つの武器でぼくに攻撃してくる。
ぼくはその攻撃をすべて見切って、聖剣のひとふりで、腕を全部切り落とした。
「は、はんッ……! 何度やっても無駄だぁ! スクナはなぁ! 再生能力があるんだよぉ! 何度だって復活してやるぜぇ! なぁ!」
だが、スクナは腕を失ったまま、倒れ伏している。
「なぁあああああああんでだぁあああああああああああああああ!? どうして腕が戻らないんだぁああああああああ!?」
『エレンの力で、聖剣の効果が底上げされているのじゃ。邪気を完全に滅する刃と化している。邪悪の化身たるこやつの細胞は聖なる力によって再生を阻まれておるのじゃ。見事なり、エレンよ!』
「く、くそぉおおおお! こうなったら奥の手だスクナぁ! 【鬼哭砲】だ!」
がばっ、とスクナが半身を起こして、口を大きく開ける。
「星を貫くほどの強烈なレーザーだ! この星もろともおまえは死ねぇええええ!」
スクナの口から強烈な光が発せられる。
それは一直線に伸びて、ぼくを蒸発させようとする。
ぼくは手を前に出して言う。
「【不死鳥の超新星矢】!」
体から放出された大量の炎が、極限まで凝縮されて、矢となって放たれる。
大爆発を起こしながら、その炎は湿地帯を一瞬で砂漠へと変える。
その炎はスクナの体を包み込むと、チリ一つ残さず消し飛ばした。
「な、なんだよぉ~……いまの、馬鹿げた威力はよぉ~……」
ぺたん、とレイジがその場にしゃがみ込んで呆然とぶつやく。
「異世界転生の特典にもらったチート能力だぞ……? それを、軽々と凌駕する……なんだ、なんなんだよ……あの化け物はよぉ……」
ぼくはレイジに近づく。
「ひっ……! や、やんのかぁ!?」
ぶるぶる震えながらレイジが言う。
ぼくは、首を振った。
「弱い者いじめをするつもりはないよ」
「弱い……だと……?」
「だって今のキミからは、なんの覇気も感じない。強かったのはキミじゃなくて、その特典とやらでもらった能力でしょ?」
ぼくは彼を見下ろして、ハッキリ言う。
「キミは能力にかまけて、努力を怠ったんだ」
ギリ……とレイジが歯がみする。
その姿は、近くで見ればなんだかぼくより幼く見えた。
「おとなしく投降するんだ」
「ちょ、調子乗るなよぉおおおおお! ガキのくせにいいいいいいいいいい!」
バッ! とレイジがぼくに拳を振りかざす。
だが……。
ぺちん、とぼくの頬に、軽い衝撃が走るだけだった。
全然痛くなかった。
「なにかしたかい?」
「く、くそ! くそ! くそぉおおおおおおおおおおおおおお!」
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いやいや僕のエレンは今回もちょーーーーーかっこよかったよぉおおおおおおお!
……さてっと。
レイジへのペナルティを執行しないとね。
エレンの優しいところは大好きで大好きで仕方がないけど、やっぱり甘いよ。
敵は、徹底的に、ペシャンコにしないと……ね?
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「不遇職【鑑定士】が実は最強だった〜奈落で鍛えた最強の【神眼】で無双する〜」




