101話 魔王の右腕、怠惰のレイジ
テイマーのエレンが、色欲のディーナを葬り去ってから、数日後。
魔界にある、魔王城にて。
強欲の権能を持つグリードが、王の下へ呼び出されていた。
謁見の前にて、グリードはひざまずき、頭を垂れている。
「殺される殺される殺される……!」
グリードは青い顔をして震えている。
さもありなん、彼は勇者エレンに敗北した経験がある。
そのことで呼びだされたのだ、言及は免れないだろう。
「いやだ……おれは死にたくない! 死にたくないんだッ! まだやりたいことがたくさんあるんだっ!」
と、そのときだった。
「うっわ~。いい歳した大人が縮こまってガタガタ震えてるよ~、ちょ~ウケるんですけど~」
間延びした、少年の声がした。
見上げると、そこには白髪の男がいた。
一見すると人間に見える。
歳は10代中頃だろうか。
生意気そうな面構えの、特筆するべき点のない少年だ。
「おまえは……【怠惰のレイジ】! なぜここに!?」
「魔王のおっさんに呼び出されたからに決まってんだろ~? 大人のくせにそんなこともわかんね~のかよ。バカだなぁ~」
「レイジ貴様ぁ! 魔王様をそんなふうに呼ぶなんて! 不敬だぞ!」
「子供相手になに本気で切れてるの~? ばかじゃーん?」
「クソッ……!」
魔王の前でなければ、今この場でグリードはレイジを叩き潰していたところだった。
そんなふうに騒いでいると、魔王が部屋に入ってくる。
バッ……! と深く頭を下げるグリード。
しかしレイジは立ったままで、しかもポケットに手を突っ込んでいる。
「レイジ! 魔王様の御前であるぞ!」
「よい、グリード。放っておけ」
魔王が言葉を発するだけで、グリードは押しつぶされそうになる。
なんという圧倒的な魔力の波動。
正直グリードは跪いてるだけでも辛かった。
「あれ? おっさん、【グラトニー】ちゃんは~?」
「貴様ぁ! レイジぃ!」
「よい。レイジは特別じゃ」
レイジは魔王から特別な扱いをされている。
舐めた態度をしても許されるほどの立場にレイジがいるからだ。
「グラトニーは仕事中だ。よって魔王軍幹部はこれで全員じゃ」
7人いたはずの魔王軍幹部は、残り3人となっていた。
強欲、怠惰、そして暴食。
「嘆かわしいことだ。魔王軍幹部が、こうもあっさりやられるなど」
「ほんとほんと~。だから言ったじゃんおっさん、幹部はボクとグラトニーの二人だけでいいってさ~。残り5人はザコじゃんか」
ギリッ……! とグリードは歯がみする。
「レイジの言うとおりじゃな。怠惰、暴食を残し、魔王軍幹部はこれにて解体とする」
「なっ!? そ、そんなぁ! 魔王様ぁ……!」
グリードは立ち上がって、魔王の前に一歩踏み出す。
「誰の許可を得て動いたのだ、グリード?」
ギロリと魔王がにらみつける。
ただそれだけで、グリードは恐怖で全身の力が抜けて、その場にしゃがみ込む。
「あ……ああ……」
「今日は幹部の解体と、そして勇者に負けておめおめと生きている貴様への制裁を加えるために呼び出したのじゃ、グリードよ」
「ひっ……!」
感情を高ぶらせるだけで、魔王の魔力はさらに増大する。
まるで黒い嵐と錯覚するような魔力の波動の中、グリードは完全に怯えていた。
「ま、まおうさま……しゅ、しゅみましぇ……」
「あはは~。しゅみましぇーんだぁって、ばっかみて~。なーにビビってんだよこんくらいでよぉ~?」
レイジはこの魔力の暴風のなか、余裕の態度を一切崩していない。
魔王軍幹部クラスですら、気絶しそうなほどの魔力の波動を受けて、平然としていられる。
こいつは……いったい何者なのだ! とグリードは戦々恐々とする。
「ねー、魔王のおっさん。こいつ殺すの? ならボクにやらせてよ」
「良かろう。処刑はレイジ、貴様に一任する」
魔力の嵐が収まると、グリードはふらふらと立ち上がる。
「ね~グリード。ゲームしない?」
「ゲーム……だと?」
「そそっ。ボクの体に一撃でも入れられたらおまえの勝ち。逃げて良いよ? 無限の分身が使えるんだっけ? どんだけ分身出してもいいよ」
にぃ、とレイジは笑う。
「ボクはハンディとして、その場から一歩も動かない。目もつむる。手もこのポケットから出さないであげるよ」
「は……? なんだ……そりゃ……? なめてるのか、てめえ?」
「もっちろ~ん。舐め腐ってるに決まってるじゃん。この状態でおまえがボクを殺せたらおまえの勝ちってルール。どう?」
「ふざ……ふざけやがってぇえええ!」
グリードは強欲の権能を発動させる。
無限に増やせる自分の分身。
10000ものグリードが、広大な魔王謁見の間を埋め尽くす。
「殺す! てめえだけはぜってえ殺す! クソ生意気な怠惰のガキがぁああああああああああああああああ!」
圧倒的な物量差。
しかもグリードはエレンに負けたとはいえ、魔族全体から見れば強者の部類に入る。
それが10000体となって押し寄せるのだ。
どう見ても絶望でしかない状況。
だが……レイジは蔑むように笑っていた。
「バカじゃん。あんな声荒らげて」
レイジは自分が提示したとおり、ポケットに手を入れて、目を閉じ、その場で棒立ちをしている。
「くたばれぇええええええええ!」
「おまえがな」
その瞬間だった。
ザシュッ……! と10000体のグリードの、胴体が切断されていた。
「なっ!? なにをした!? なにをされたぁあああああ!?」
訳がわからなかった。
レイジは確かに一歩も動いていない。
攻撃をした素振りすらみせなかった。
グリードたちは強烈な斬撃を受けて、その場に倒れ伏す。
9999の分身が消滅し、残りは本体であるグリードを残すのみ。
「な、なんだ!? か、体が再生しない! 動かねえ! くそっ! どうなってやがるんだぁあああああああ!」
レイジは目を開けて、ふぅ……とため息をつく。
「よっわ。なにこいつよっわ。めちゃくちゃザコじゃん」
すたすた、とレイジがグリードに近づいてくる。
「こ~んな弱いくせに、強欲のグリードとかいうかっちょいい二つ名を名乗ってたんだねきみ~? マジウケる」
「くっ! この! 何をした!? 何をしたんだぁ!」
「あ、そう。見えてなかったんだ。ボクの力。ま、当然か。【現地人】のおまえじゃあ、ボクの【特別】は知覚すらできないんだね」
「ち、チート……? なんだそれは……?」
はぁ、とレイジは呆れたように吐息をつく。
「ねー、魔王のおっさん。もうこれでわかったっしょ? あんたの部下は右腕としてボクが、左腕としてグラトニーがいればそれで十分だって」
玉座に座る魔王が、ふむ、とうなずく。
「そうじゃな」
「だってさ。おまえ解雇。現実からもログアウトおねがいしま~す」
にぃ、とレイジが酷薄に笑う。
「い、いやだぁああああ! 死にたくない! 死にたくな……」
ボッ……! とグリードが存在まるごと、突如として消える。
「あーあ、ほんとザコだったわ。厨二くさいネーミングのくせに大したことなかった。弱すぎて草も生えないよ」
やれやれ、とレイジは首を振る。
「で、どうすんのおっさん、これから?」
「そうさな……レイジ。おまえの出動を許可しよう」
「まじ? やった~!」
あきれ顔から一転、レイジは無邪気に笑う。
「はやくあの玩具で遊びたくってしょうがなかったんだよね~」
玩具とはすなわち、勇者エレンのことだ。
「この最強の力の前では、大抵の敵が瞬殺されっからさ~。つまらなくて仕方が無かったんだよね~」
ウキウキとした表情のレイジ。
「レイジ。気を引き締めよ。敵は幹部を5人葬ってきた強敵じゃ」
「は? なにそれ。ボクが負けるとでも思ってるの、おっさん?」
「そうなるやも知れぬ。奴は特殊な加護を受けておるからな」
ふんっ、とレイジが鼻を鳴らす。
「なにそれ? 負けるわけないじゃん。こっちだって女神さまからチート能力っつーすげえ加護もらってんだぜ?」
彼の背後に、ぼんやりとした【なにか】が立っている。
巨大な見えざる【なにか】は、レイジの感情の高ぶりに呼応するように、獣のように吠えた。
「相手は理外の化け物じゃ、ということを念頭に置いておかぬと、足をすくわれるぞ?」
「は……?」
レイジは一転して不機嫌な表情になる。
ぐっ、と魔王は体を見えない何かににぎられて、宙に浮かぶ。
「おっさん、調子乗るなよ……? ボクが負ける? なんの冗談だよ」
「冗談ではない。忠告じゃ」
魔王は転移をし、見えざる何かの捕縛から逃れる。
「ご忠告どーも。けどこの魔王の右腕レイジくんが出動するんだ、勇者エレンに万に一つも勝ち目はないよ」
「ゼロではないだろ?」
「しつこいな~? 負けるわけないっつってるじゃん。もしもボクが負けるようなことがあったら裸でスカイダイビングして、そのまま土下座してあげるよ」
くすくす、とレイジは笑う。
「まっ、絶対100%、なにがなんでも、万が一、億が一、兆が一にも、ありえないけどね」
ひらひら、と手を振ってレイジがその場を後にする。
「さぁて、ショータイムの時間だよ勇者の坊や。随分と調子乗っていたみたいだけど、教えてあげるよ。本物の強者が、誰かってことを……ね」
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ま、こんだけイキってても、僕がいるかぎり、勝つことは無理なんだけどね。
しかしレイジ……か。また妙な人材を魔王は部下に加えたね。
ま、だれにせよ、エレンに危害を加えるものの末路はみな同じだよ。
ペナルティを覚悟しておくんだね。
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「不遇職【鑑定士】が実は最強だった〜奈落で鍛えた最強の【神眼】で無双する〜」




