6月15日木曜日 古城ミフユの投開票日の朝
古城ミフユ
夜明け前に一度目が覚めた。目覚まし時計を見たらまだ5時前じゃんと思いつつカーテンを開いた。北東の地平線から朱色から水色、そして青黒い空が広がっていた。しばらく窓を見ていたらウトウトしたけど結局5時にはベッドを出た。シャワーを浴びて制服を着るとキッチンに行き朝食の準備をした。冷蔵庫を開けて牛乳を手にするとほとんど空。あの子ねえ、夜にも飲んだな。空いたら言うなりホワイトボードに書いておけって言っているのに。ミアキにはミルクが大事。そんな事を思いながらスマフォとお財布を持つと玄関へ向かった。するとパジャマ姿のお父さんが起きてきた。
「ん?もう出かけるのかい?」
「ミルクが切れてたから、そこのコンビニで買ってこようかなって。ミアキ、どんどん飲むの良いけど空けたら言えって感じ」
「育ち盛りだからなあ。ミフユだってあの子ぐらいの頃はお母さんがぼやいて」
「あー。お父さん。娘の過去を掘り起こすのは止めて。じゃあ、ちょっと行ってくる。あ、今日は私が朝食を作るから何もしないでいいよ」
苦笑するお父さんに見送られて家を出た。
徒歩5分ほどのところにあるコンビニで牛乳を2本買うと駆け足で家に戻った。折角だからミルクを使ってフレンチトーストにしちゃえって思いついたのだ。卵を割って解いてミルクと砂糖を加えてバゲットを切って浸した。
熱々を食べて欲しいので2階に上がるとミアキを叩き起こした。
「ミアキ、フレンチトーストを焼くからさっさと顔洗ってダイニングに来なよ」
「え、フレンチトースト!すぐ、行くからお姉ちゃん。私の分は取らないで」
あんたの分を家族の誰が奪うっていうのよ。もう。想定がいろいろおかしいわと思うと笑ってしまった。
ダイニングに戻るとお母さんも起きてきてコーヒーを淹れていた。お父さんはフルーツ・サラダを作ってくれていた。
「今、ミアキは起こした。フレンチトースト作ってるから」
お母さんが私が朝、早かったらしい事から察して聞いてきた。
「落ち着かない?」
「こんな事初めてだし」
「良い経験じゃない。高校生で人の集団を動かすって知る機会そんなないからね。それに良い友達に恵まれていると思うわ」
「みんなにはとっても感謝している。私の思いつきに過ぎない話なのに」
お母さんは微笑むと首を横に振った。
「それは少し違うかな。ミフユの発案だったとしても、それがみんなに広がった時にはみんなの考えにもなっている。だから賛同してくれる人たちの考えも反対する人たちの考えもよく聞いて、少数意見でも取り入れられる事は取り入れていく。そうやってよりよい考え方にしていく事が大事だと思う」
たまにお母さんは私の理解を越えている事を言い出す。
「わからないけど、分かった。また考えていくようにする」
お母さんは頷いてくれた。
「じゃ、フレンチトースト焼いてくれる?」
「俺のも忘れず頼むよ、ミフユ」とお父さん。
そこにミアキもパタパタとダイニングに飛び込んできた。
「フレンチトースト、フレンチトースト、私のも焼いて!」
「ちょっと待ってね、三人とも。どんどん焼くから」