6月14日水曜日 廊下を走る、私は走る
加美洋子
昼休み、北校舎2階の渡り廊下付近に集まって3年生の教室に向かう古城先輩たちを見つけて呼び止めた。
「古城先輩。制服の件、話をきちんと進めようと思ったらこのままだと不味いと思います。票が割れた時、この件の支持が明確にならなくなりますから」
古城先輩は頷いた。
「勝つ自信はあるけど、圧勝は厳しいと思うから言いたい意味は分かる」
「一つ手があります。ただ時間がありません。大村先輩と吉良先輩、あと松平先輩を説得する必要があります。今なら吉良先輩たちは今なら賛成してくれるとは思います。問題は大村先輩です。放課後準備でみんなの手も借りる必要があります。詳細は後で説明しますが、まずは私を昼休み単独行動させて欲しいんです」
古城先輩はあっさり頷いた。
「加美さん。交渉をお願いします。制服の件、特にポロシャツは急ぎたいから」
私はみんなに声を掛けた。
「これから吉良先輩、大村先輩に交渉に行きます。何がなんでも話はつけるつもりですが、失敗したらごめんなさい」
日向先輩が言った。
「加美。お前が失敗したら誰も話は付けられないよ。気にせず行け」
陽子先輩からも激励と重要な情報を教えてもらった。
「加美さん。吉良さん達は学食に向かうって。さっき訪問先が被らないか聞いたらそう聞いてるから体育館1階に向かって。当って砕けろでいいから」
「はい」
北校舎の渡り廊下の端から猛然と走った。先生がこちらを見て「加美、走るな!」って怒っている。それどころじゃないから聞こえないふりをして、なおスピードを上げた。思わず笑みが浮かんでしまう。
みんな、何事?って顔をして振り返っている。もっと早く、1秒でも惜しいんだから!
そして中央校舎2階を通り過ぎて体育館1階へ降りる階段の踊り場でなんとか吉良先輩たちに追いついた。
「吉良先輩……お話があります」
大した距離を走ってないのに息が切れた。
「時間は取らせません。……歩きながらでいいから私の話を聞いてくれませんか?」
水野先輩が間に入って止めそうになったけど吉良先輩が止めた。
「歩きながら聞くわ。時間がないから最低限の要点を言ってね」
「はい」
結局、吉良先輩は学生食堂の入り口に着く前に話のあらましを理解してくれた。
「加美さんの案に乗ります。桜子ちゃん、私の代理として彼女と一緒に3年C組の大村先輩のところへ行ってあげて。私が同意しているって言わないと話通りにくいと思うから」
松平先輩が頷いた。
「じゃ、加美さん。行きましょうか」