表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/70

6月14日水曜日 ひと泡ふかせる

斎藤卓哉


 今日も歩いて出勤した。ちょっと暑いがゆっくり歩けば良い。


 昨夜、教頭先生から工作が失敗に終わった旨報告があった。放送は聞こえていたから別に驚きはない。それ自体は彼らのガス抜きのために認めた事だったからさほど気にはしてない。そんな事はおくびにも出さずに日暮先生にはもう何もするなと厳命した。

 自分の教員生活の最後の最後でまたこういう事になるというのは因果かな。そう思うと自然と笑ってしまった。選挙の行方が決まった時、自分がどちらの立場をとるのか。実はまだ迷っていた。


 校内に入る。掲示板が眼に入ったので立ち止まって見た。吉良さんの陣営のポスターに追加の大きな貼り紙がついていた。選管承認印もあるので昨日夕方急遽やったらしい。

「古城さんの制服改革公約を支持します」

そして小さな字で理由として制服の追加と着こなしの是正は並立すると考えを改める事について謝罪と支持を訴えていた。


 これを読んで思わず微笑んでしまった。時間的に厳しいので反撃が届くか分からないが、どうしてどうして闘志がある。

「政治」というほどではないけど生徒自治会長というポストを目指す人として必要ないい資質を持っている。教頭先生と宮本先生、というか多分宮本先生だろうが、吉良さんを見込んだのは中々見る目があったのだな。


加美洋子


 今朝は古城先輩と校門で最後のお願い挨拶を予定していたので朝早めに登校した。一旦バッグ類を教室に置こうとして校内には行ったら北校舎の掲示板の選挙ポスターを見た。何か変わっている。

「えっ」

 思わず声が出た。何これ。夕方帰る時にはなかった追加の張り紙がある。ちゃんと選管承認印もあるっていつやったの? 吉良さん、ぜんぜん死んでない。闘志満々だ。大慌てでスマフォを取りだしてポスターの写真を撮ると陣営全員に同報メッセを入れた。


カミ:中央校舎の下駄箱の吉良陣営のポスター更新されてます。写真送ります。

ミフユ:加美さん。もう私は学校入っているから。どうやら正門と教室を回る作戦を採るみたい。1年生の教室の方に松平さんが行くのは見たから。あちらはやる気満々だね。受けて立ちたいからすぐ正門に来てくれる?

カミ:了解。

肇:俺はもうすぐ学校に着く。じゃあ、俺は3年の方を見てくるよ。

陽子:私はあと10分ごめん!2年の方を見るから。

姫岡:僕もあと10分ぐらいかな。

肇:姫岡、着いたら陽子ちゃんと合流してくれ。

姫岡:OK

秋山:今見た。校内にいるよ。朝練は抜けた。じゃあ、私は肇くんと合流するね。先輩とか知ってるし。

肇:助かる。


 こうして生徒自治会長選挙史でも有数の激戦の日が幕開けになった。


渡悠紀夫


 昨日は選挙事務所には行かずに帰った。もうお手上げだろうと思ったのだ。ところがだ。古城陣営の運動員が二人が教室にやって来て「明日の投票は古城さんをお願いします。吉良さんも制服改革は手がけるとの表明をしました。古城さんは不条理と不合理に対して戦います.是非支持をお願いします」と訴えると頭を下げて隣の教室へと向かった。


 あ、あいつら諦めてないのか。大した事はせず昨日は帰ってしまったのは、そんな事でいいのか。そう思うとスマフォを出して水野に電話した。

かなり嫌そうだったが、古城さんの制服改革を取り込むと吉良さんが決めたと言われた。

「なんてアピールしている?3年は回るよ。今更だけど少しは手伝わせてくれ。昨日は悪かった」

「先輩にメッセで追加公約を送りますから、3年はお願いします。1,2年回るので多分吉良さんは時間切れになりますから」

「分かった。昼は彼女3年を回るのか?」

「そのつもりです」

「分かった。その事を踏まえて案内して回るよ」


 メッセが届くのを見て、おもむろに教壇に向かった。

「ごめん。みんな。ちょっと聞いて欲しい。選挙の事だ。もうポスターを見て知ってるかもしれないけど……」


岡本敏浩


 朝から学校は賑やかだった。選挙は明日の始業HRで行われる。昨日の討論会で勝負はついたのかなと思っていたら、出勤時に見た吉良さんの選挙ポスターを見てバルジ大作戦ばりの大反撃が行われている事を知った。何故か教頭先生が一人イライラしていたが何故かな。まあ宮本先生が平常なので大丈夫だろう。


 これは今日のHRは一段とギスギスしてるぞと思いながら2年A組に行ったが、松平さん、古城さんが選挙運動を終えて廊下で出くわしたところで、和やかに

「おはよう、松平さん」

「おはよう、古城さん。小夜子は古城さんには負けないから今日一日見てなさい」

「うん。でも私も負けないよ。ただ反撃される気はないからね」

なんて言いながら入ってきた。ギスギスはしてない。フェアなゲームをやりましょうというような空気に変わっていた。みんな、頑張れよ。

「おい。当直、号令を頼むよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ