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6月13日火曜日 討論会の余波

宮本丈治


 職員室で放送を聞いていた。古城の奴は何を考えている?と思ったが、結局のところ、文化祭2日間開催については新会長が言い出せば学校側は応じるかどうか検討するしかない。そういう条件でしかないと多分あの場で見切られたんだろうと判断した。


 日暮教頭がこっちへ来てくれと合図してきた。席を立つと会議室へ行った。

「宮本先生。もう手はないんですか?あれで勝ったんじゃなかったんですか?」

「向こうが一枚上手でした。あの提案なら取り付けるってあの場で古城が見切ったんでしょう。甘く見たつもりはないですが、結果から言えば、吉良や松平の生真面目さでは対抗できる相手じゃなかったし、水野程度の悪では足りない。あの子達は実力以上によくやってくれましたよ。流石にもう無理でしょう」

「宮本くん!」

 そう言われたがもう打つ手もない。あの校長は教頭と俺に火遊びを認めただけだった。校長が命令しなかった事に対して文句はあっても怒られることはないだろう。

そう思いながら日暮教頭に忠告した。

「だから、もうこれ以上は何もしない方がいいでしょう。古城が筆頭副会長になる。11月には会長で決まりです。ここから先はもう校長先生に指示を仰ぐしかないと思いますが」


 結局、日暮教頭はいい顔をしてくれなかった。

「分かった。もう頼まん」

 そういうと先に部屋を出て行った。日暮先生に何か出来る事があるとは思えない。放課後には諦めて斎藤校長に報告に行くだろうな。


古城ミフユ


 放課後。中央校舎2階の3年生のフロアを回ってみた。女子の先輩たちが頑張ってねと声を掛けてきてくれた。素直に「ありがとうございます」と返事をした。3年生の様子はやはり計りにくいなあと思ったら、男子生徒がぶつかってきた。

「ごめんなさい」

「よそ見すんな!」

渡先輩だった。わざとぶつかるように通ってきた。よっぽど気に入らない展開になっているらしい。


 北校舎3階の物理化学準備室に行くと加美さん以外は集まっていた。

私は空いている席に座るとみんなに告げた。

「3年生の教室のあたり回ってきたら、何人か女子の先輩が寄ってきて頑張れって言ってくれた。どの程度状況が変わったか分からないけど不利って事はないと思う」


 そして各クラスの状況について報告になった。最初に秋山さんが言う。

「今日の討論会の盛り上がりなら質問とか来るかなって思ったけどねえ。あ、C組は吉良さんを応援しようよって声もない事はないけど多分私達の方への投票の方が上回ると思ったから」

「D組も同様かな。悪くてイーブンだと思う。今朝はそんな事なかったのにね。何人か制服追加構想は質問してきたから説明はしている。手応えはある」と姫岡くん。


 この二人は立候補者とその推薦人のかたわれと一緒のクラス、つまり敵地で頑張ってくれていたから実感は正確だと思う。


 加美さんが遅れて準備室へやって来た。彼女も席に着くと見てきた状況を教えてくれた。

「1年のクラス回って様子聞いてきましたが、古城先輩に入れるって子が増えてますね」


 肇くんが今聞いた内容をメモして大雑把な計算をしてくれた。

「1年生130、2年生120、3年生100ぐらいかな。350/600ってところだ」

「積み増し、欲しいけど昼休みの討論会がどの程度効くか次第かなあ」

とは陽子ちゃん。制服交渉の事を考えてくれての事だった。


 私は立ち上がると言った。

「制服構想についてどう交渉するか考えてみたいから、みんなも頭貸してくれるかな」

「いいぜ」「はーい」

こんな明るい声が準備室内に響いた。


 正直、私はこの時、吉良さんの事を舐めていたと思う。


松平桜子


 私が小夜子と古城さんの間に割って入る事で余計な事をした。そう思った。

小夜子は毅然としていた。でも古城さんが突き付けてきた何故出馬するのかという意義を問いかけてきた時、彼女の事を誤解していた事に気付いた。


 そして、その一方で私達が撤退されるのは彼女にとっては困るのでどこか加減されていた事も感じた。いい生徒自治会にするためには最後まで一緒に踊り続けて、あなただってそういうつもりで立候補してるんでしょ?

暗にそう言われた訳だ。


 放課後、選挙事務所にしている中央校舎の空き教室へ行った。先に小夜子が来ていた。

「小夜子、ごめん。私があそこで何か言う必要はなかった」

小夜子は私を抱きしめてくれた。

「桜子ちゃんがいてくれたから、ここまで来たんだよ。まだ1日ある。古城さん、生徒自治会をよくしたいならちゃんと最後までついてこいって言ってると思う。あの子にそんな事を言わせっぱなしにはさせない。戦いはこれからだ、って思うけど。厳しいよね。でもあと1日だけ、私を助けて。お願い」

「うん。小夜子を一人っきりなんかしない。やれるところまでやろうよ。古城のやつギャフンと言わせなきゃ」


吉良小夜子


 そこで引き戸が開いた。

「お嬢様方。俺もちょっとむかついてるから最後まで付き合うわ」

水野くんだった。


 松平さんが少し険のある言い方でツッコミを入れた。

「どうせ、あんたは打算だったんじゃないの?」

 苦笑しながら頭に手をやる水野くん。ちょっとかわいい。

「否定はしないけど、どうやら切って捨てられたかなって感じなんだよな。副会長か監査委員になれたら俺のターンを掴む機会になるかなって思っていたけどね。二人がやる気がなくなっていたらどうでもいいやって思ったけど、そうでもないみたいだから最後まで付き合う」


 そして1年生の麻野くんもやって来た。

「あれ、先輩達。明日、どうするか決めませんか?加美さん暴れるの眺めているだけって嫌なので。吉良先輩、明日朝予鈴前に1年生の教室一緒に回ってくれませんか?」

 泣いてなんかいられない.私は吉良小夜子なんだから。ただ倒れたりはしない。古城さん達を慌てさせてやる。

「そうね。あっちが抱き着いてきたんだからやりかえそうか?

ちょっと、考えを変えたい事があるからみんなの意見を教えて」


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