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6月13日火曜日 討論会 生徒から後攻候補への質問と回答

加美洋子


 大村会長は吉良さんに視線を移した。

「次は吉良さんへ質問です」


吉良さんが立ち上がって一歩前に出ると大村会長へ頷いてみせた。

「どうぞ」


 大村会長は質問を読み上げると吉良さんの方を見て聞いた。

「制服の着こなしについて規則通りにしていこうという方向性は賛成。真面目な子が損するような学校であってはならないと思う、これは質問というより意見として寄せられてますが吉良さんの感想は?」

「そうですね。これには反対ですね」


 意外な吉良さんの言葉に大村会長も思わぬ言葉を発した。

「ほう?」

「規則を守る事は私たち学校に入る際に同意した事です。だから守るべきなんですけどそれ以上でもそれ以下でもないと思います。損得勘定で物事を考えたら最後、自分の利益にならない事は全て悪い事ってなりませんか?ならないっていう人は怖いと思います。損得勘定は時に自分の損を他人に押し付ける事につながります。だから規則を守るとか原則的な話に損をしたとか、あの子がずるいとか言うのはよくないかなと。もし相手に規則を守らせたいなら直接言って注意すべきなんですけど、それがやりにくいから風紀委員がいる。ならばその範囲で踏みとどまるべきだと信じます」


 演台の前にいる大村会長も舞台上の席の古城先輩も思わず吉良さんを見た。大村会長は我を取り戻すと2問目を吉良さんに投げかけた。

「さて2問目なんですが、生徒のボランティア支援って何か規則で義務化するのですか?やって何かとくな事があるんですか?」


 吉良さんは首を横に振った。

「いいえ。ボランティアという単語の意味は志願です。その意味は私もよく知ってます。あくまで自主的な取り組みでなければなりませんし、そういう活動をしたい生徒に対して必要な手続きなど明らかにして参加のハードルを引き下げたいと思ってます。だから規則で義務化とかもし話が出たら私こそ反対派になりますね。

 あと損得勘定的な考えでボランティアをやる人がいる事をことさら否定はしませんが計画している活動の手伝い、支援においてその点を考える必要はないと思ってます。ただこの取り組みに加わってくれる人はそういう気持ちがない方がいいと思ってます」


 大村会長が討論会の閉会を告げようとした時、古城先輩が挙手して発言を求めた。


 古城先輩は最後の最後で仕掛けた。

「一つだけ追加で言わせて下さい」


 大村会長の目が瞬いた。古城さんは何を言う気だ?

「手短に願います。あと吉良さんが希望すれば後で何か言う機会は与えるけどいいですか?」

吉良さんも古城先輩が何を仕掛ける気か気になったと思うけど一呼吸あってから頷いた。


 古城先輩は立ち上がって舞台中央まで進むとこの日最大の爆弾発言を投下した。

「吉良さんの新公約、文化祭2日間開催交渉の提案は素晴らしいと思います。私も全く異論がありません。私も当選した暁には会期延長を学校に交渉していく事を約束します」


 思わぬ賛同エンドースメント。古城先輩が相手の新公約に躊躇なく取り付いた。果敢な判断。何の遠慮もない。


 そして、それは吉良先輩の陣営を激怒させた。

「ちょっと、古城さん。それはないんじゃないの?」

そう叫んだのは舞台下の見学席にいた松平先輩だった。舞台上の吉良先輩が首を横に振って止めた。

「桜子ちゃん、ここは私が言うから」

松平先輩は怒っていたけど、吉良さんの言葉で引き下がった。

吉良さんは立ち上がると古城さんにもう一歩近付いて穏やかに言った。

「古城さん。あなたはそこまでして勝ちたいんですか?」


 古城先輩は首を横に振った。そして聴衆の方を見回して最後に吉良さんの方を見た。

「私は制服の見直しのためには生徒自治会長になるのが早道だって思ったから立候補しました。もし会長に選ばれたら、自分が目標とした事だけじゃなくて、みんなにとっての不条理、不合理な事を減らすという事にも注力したいとも思っています。

 そういうみんなの代表として考えたら、吉良さんが今言った提案は文化部だと展示期間が短くて1日で撤去はもったいないといった声を救済する事になります。

 吉良さんが当選したらこの件は応援するし、私が当選したときは吉良さんにもこの件とか他にも合意してくれるところがあったら助けて欲しいと思っています。私の考え方、おかしいかな?」


 ギリギリの正当化だったと思う。一歩誤れば悪意ある嫌がらせになり得た。争点潰しそのものなんだけど、できない約束ではなくできる目処を吉良さん陣営が密約していると思ったからこそ使う事にした手段。


 吉良さんはずっと古城先輩を見つめていた。そしてついに首を縦にも横にも振らなかった。1分も満たない時間が経った後に大村会長が発言した。

「吉良さん、何か言いたい事があれば言って欲しい」

吉良さんはその問いに首を横に振った。


こうして波乱に満ちた討論会は終わった。


秋山菜乃佳


 私は姫岡くんに話しかけた。

「これ、討論自体は古城さんが勝ったよね?」

姫岡くんは頷いた。

「秋山さんの見方でいいかな。ただあと1日あるけど、あちらの戦意が気になる」

私にもそれは分かる。バレーボールでもつい気を抜いて勝利が手からスルッと滑り堕ちる事はある。それは嫌だ。

「気合い入れていかなきゃね」


日向肇


「陽子ちゃん。あいつ、最後の奴はなんとか正当化はしたよな?」

陽子ちゃんはコクリと頷いた。

「でもまだ1日あるから」

「うーん。これで逃げ切れたら楽でいいんだけどな」

「普通は大丈夫だと思うし、こちらは制服改革に向けてどの程度票を奪うか考えるべき所だとは思うんだけど。向こうの二人はそんな素直に負けを認めるかな? もし吉良さんが逆に制服改革について認めてきたら冬ちゃんの戦意が続くか心配かも」

そうなればどちらの候補も一緒って事だ。古城がそれなら吉良さんでいいじゃないってなるかも知れない。そういう要素を古城は持ってるのは確かだ。


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