6月13日火曜日 討論会 後攻演説・質疑応答
加美洋子
古城先輩と入れ替わって吉良先輩が演台の前に立った。
吉良さんは手元にメモ帳だけ置いていたけど、全く見ないで語っていた。
「2年A組の吉良です。今日は会場に足を運んでくれた皆さん、そして放送委員会の中継に耳を傾けてくれている皆さんの貴重な時間を頂いてありがとうございます。大事な話をするつもりです。是非15日の投票の参考にしてくれたらと思います。
学食改革ですが、今の学生食堂のメニューはヘルシーさに欠いていると思います。この見直しを運営会社に提案していく場を設けられたら。そう考えています」
吉良さんは目力が強い。古城先輩と負けず劣らずだと思う。視線を会場内に彷徨わせながら話は続く。
「二点目は生徒のボランティア活動の支援です。高校生に対する社会の厳しい目とその若さに期待する声も出ています。私達生徒のボランティア活動を支援する組織を生徒自治会で設けて積極的に社会参加する。そういう取り組みを始めたいと思っています」
場内の反応は弱かった。今時の私達はとても従順だ。こういう話に興味がある子もいるだろうけど、それでも時に損得勘定は考えてしまう。吉良先輩の提案はどこか違いを感じるのだ。だからすぐ乗れない感じになったようにも思える。
「三点目は文化祭ですが、クラス展示などの内容について高校生らしい文化祭になるように規制を設けるべきだと考えています。これは私が会長になった際は会計委員会とも協議して生徒自治会規則の改正を含めて検討したいと考えています」
ここはため息。この点については吉良さんは人に口出しをしたがる人に見えてしまう。
吉良さんは次の言葉を前にして深呼吸した。そんな様子を見ていた壇上の古城先輩も少し目を凝らして吉良さんの方を見つめた。
「さて、今回私は新しい公約を一つ提案します。来年の文化祭の開催期日を2日間に延長する事を学校に提案、交渉します。
本校の文化祭は地域にも溶け込んでいて地元住民の方も多く見に来て頂いています。このような場を土曜日の1日だけというのは私が提案している奉仕の精神にも合いません。
今期は無理だと思いますが、来期については試験的にでも2日間開催を学校に受け入れてもらいたい。そういう風に考えています。私が当選したらこの提案実現に向けて学校と話し合いを重ねていく覚悟があります。是非、私を生徒自治会長に選んで頂きますようお願い致します」
場内からは文化部の子らしい人達を中心に力強い拍手が響いた。これが吉良さん陣営が討論会を提案したきた理由なんだろう。
古城先輩は両目を閉じていた。目を開くと吉良さんに対して質問を発した。
「学食についてですが、既に運営会社に意見を聞いたり調べたりされているのでしょうか?」
「先ほど申し上げた通りこれからです」
「では今のところ具体性はないという事ですね?分かりました」
古城先輩、この件だけは許せなかったらしい。吉良先輩は何か反論を言いたそうだったけど黙っていた。
古城先輩は2つ目の質問を発した。
「ボランティア活動の支援ですが、新組織は生徒自治会内委員会で考えていますか。それとも特別委員会かクラブでしょうか?」
生徒自治会内委員会だと委員長と委員の人選を会長が責任を負う事になる。特別委員会やクラブであればその委員長・部長が独自で対応すれば良い事になる。どちらを取るかで大きく意味合いは変わってくる。
吉良さんはこの点は正直だった。
「その点もこれからです」
「分かりました。私はやるならクラブとしてやったらいいとは思ってますが、誰がこの活動をリードするのでしょうか。クラブにしろ委員会にしろ会長が直接当ってしまうと他の仕事の対応が出来なくなると思うんですが」
「新会長が積極的に関係していきますが、副会長や監査委員にも協力は仰ぎます」
古城先輩はこの問題もここで打ち切った。敢えて、なんだろう。