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6月 9日金曜日 コーヒーの美味いカフェ 秘密交渉2

古城ミフユ

 マスターが水のグラス2つとメニューを置いてキッチンへ戻った。

大村先輩と私はメニューを見て頼むものを決めるとマスターに声を掛けた。そしてコーヒーが出来上がるのを待つ間に本題に入った。

「さて。夕食前だし手短に頼むよ。予め断っておくけど今回俺はどちらも推薦コメントを出す気はないよ」

「あ、そうでしたか」

「やっぱり、そういう話か。まあ、向こうはそもそも来ないとは思うけどね」

「渡先輩ですか?」

「その通り。目敏いね」


 吉良陣営には3年生の選挙運動員が入っていた。渡先輩だ。この人は去年の会長選で大村先輩と争って負けている。そんな彼が吉良さん陣営に入っていて大村先輩の推薦や支持を欲しいというのは多分言えないだろう。


「過激だね、古城さんって」

「そうですか?私は不条理と不合理な事を減らしたいって思っているだけですけど」

「制服の件は学校側が慌ててるよ。今時、こんな提言する生徒会って他の高校じゃないからね。あっても校長や教育委員会の主導じゃないかな。私服自由な学校でも標準服入れてそれが制服になるような話すらあるし」

「でも学校の裁量内ですよね。校長先生が受け止められるような状況にあれば通る可能性はあると思ってます。ただそういう人なのか腹の底がわかりにくい人ですけど」

「斎藤校長は昔のこの学校を知っている。そして定年前の最終配置だから教育委員会からどんな評価を受けても別に痛くはない。そこまで読んで今回の事を起こした?」

「いいえ。ただ、校長先生の年齢や初任校の事は認識はしてました。もし教頭先生が校長先生だったとしても挑戦はしたと思います」

「君なら確かにやりそうだ。そういえば会長任期の見直しはいい提案だと思うよ。俺がやるべきだったというか神村さんがやるべきだったな。歴代会長が惰性に流されていたな。1年5ヶ月は長い。慣行と伝統、自由が混在した学校だから中々手が付けにくい。歴代会長はこの点でダメだね。俺も同罪だ。大きな課題を二つも公約に入れるとはいい度胸している」

「何もかも出来るかは分かりませんが、変えられる事は変えたいです」

「吉良陣営の動きは理解しているかい?」

「どういう点でしょうか?学校の一部の先生方が水面下で応援しているような印象は受けてますけど」

「分かってるんだね」

「あの立候補届の時の宮丈みやじょうの対応を見ていれば可能性は考えざるを得ませんでした」

「今回、俺は表だって動けない。校長先生は教頭先生や宮丈みやじょうが動くのを多分黙認している。校長先生が全面に出てきたらもう最終戦争だからね。一応最後の一線は守られている。こんな状態で会長が介入する事は火に油を注ぐ事になりかねない。もし校長先生が直接選挙介入するような姿勢だったら当然君を味方するけど今だとそこまでは及んでいないからね」


 大村先輩は何かを思い出して一瞬苦い物を飲み込んだような顔をしたような気がした。


「君とは一緒に仕事をしたいとは思っているけど、現状の公平性の観点から言えば動けない。ただ、俺の見たところでは3年生は5クラスとも票は真っ二つに割れている。どちらの公約も自分たちには直接影響しないからね。ただ君の方がマイナスはすくないかなとは思っている。吉良さんの方はボランティアとか固い案が多い。社会状況をよく見ていて意味がないとは思わないんだけど校風というか文化に合わない事は受けが悪いからね」

「分かりました。学校側の動きがおかしいと思ったら相談させて頂きますけどそれはいいですか?」

「勿論。不公正な競争には断固反対するよ。そういう事があれば遠慮無く相談して欲しいな」


「おまたせしました」

マスターがコーヒーを持ってきてくれた。

大村先輩の前には氷たっぷりなグラスになみなみと注がれたアイスコーヒーが、私にはいい香りを漂わせているスペシャル・ブレンドのカップがそっと置かれた。


 お互い黙ってコーヒーを飲んだ。苦味が美味しい。そしてカップをソーサーの上に下ろすとふと気になった事を聞いてみた。

「大村先輩は吉良さん、松平さんが先生と組んでやるとか思いますか?」

大村先輩はゆっくり首を横に振った。

「思わないよ。小細工は別に動いている生徒がいるんだと思う。そういう選挙の暗部のようなやり方、あの二人は良しとしないだろう。誰かやっていてそれを目をつぶるぐらいはあるかもしれないけどね」

そういうと大村先輩はアイスコーヒーをもう一口飲んだ。


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